住宅ローンには団体信用生命保険(以下・団信)が付いています。ほとんどのローンでは団信に加入できないと融資を受けることができませんが、加入していれば借入後に万一のことがあったときには、その時点の残高相当額が金融機関に保険金として支払われて残高はゼロになります。
でも、がんなどの大病を患ったとしても、亡くなったり、高度障害に陥らない限り、原則的に保険金は出ません。闘病しながら住宅ローンの返済額が続きます。そこで大切になるのが、がん保険の特約を付けておくということです。
●特約に入っていれば死亡しなくても残高ゼロに
住宅ローンの団信には、がんなどの特定の疾病を対象とする特約があります。のちに詳しく触れるように、その対象や条件などはさまざまですが、がんが対象となっている特約であれば、がんと診断されたときにローン残高相当分の保険金が金融機関に支払われて、ローン残高がゼロになります。
通常の団信だけだと、名義人が死亡するか高度障害に陥った場合でなければ保険金は支払われませんから、がんと闘いながら住宅ローンの返済を続けなければなりません。それまで通りの仕事を続けることはできないでしょうし、医療費負担はが高額になりますから、これはたいへんな事態です。
でも、がん特約が付いていれば、がんになったときには生死にかかわらずローン残高がゼロになるのです。住宅ローンのことは忘れて、がんに向かうことができます。
●がんは死病ではなく助かる病気になっている
一昔前まではがんは死病といわれてきましたが、最近では健康診断の普及による早期発見、医療技術の向上などによって生存率が急速に高まっています。
図表1にあるように、男性の場合には前立腺がんの5年相対生存率は97.5%とほとんどの人が助かるようになっています。
女性をみても、図表2にあるように甲状腺がん、皮膚がん、乳房がんは5年相対生存率が9割を超えています。女性も膵臓がんはやはり5年相対生存率7.5%とかなり厳しい数字になっていますが、それでも多くは6割を超えています。
全がんの5年相対生存率は62.1%に向上しています。男女別では男性が59.1%で、女性が66.0%です。つまり、がんにかかっても6割以上は助かる時代に変わっているのです。
●全国民の6割にがんにかかる可能性が
ここまで生存率が高まってくれば、その後のことをしっかりと考えておく必要があります。助かったといっても、それまで通りには働くことはできなくなるかもしれませんし、少なくとも手術や放射線治療などを受けている間は入院しなければなりません。
自分は病気ひとつしたことがないし、家系的にもがんで亡くなった人はいないから大丈夫――などとはいっていられません。何しろ日本人で生涯の間にがんにかかる確率は男性で62%、女性で47%といわれています。男性のほうががんにかかりやすいので、住宅ローン返済の中心であり、一家の大黒柱でもある男性は十分に注意しておく必要があります。
それでも、万一ということがありますから、考えておきたいのが住宅ローンの団信にがん特約を付けておくということです。
●ほとんどの住宅ローンにがん特約がある
国土交通省の『平成29年度民間住宅ローンの実態に関する調査』によると、金融機関の81.1%が「疾病保障付き」の住宅ローンを実施しています。この疾病のなかには、まず間違いなくがんが含まれています。ほとんどの金融機関で住宅ローンの団信特約としてがん保険があるといっていいでしょう。ただ、内容は金融機関によってかなり異なります。
もともと、10年ほど前にがん、脳卒中、心筋梗塞の3大疾病を対象に3大疾病特約としてスタートしました。それが、やがて糖尿病などの生活習慣病を加えた7大疾病、8大疾病に保障範囲が広がっていきました。
現在も図表3にあるようにみずほ銀行などの大手銀行はこうした7大疾病、8大疾病を対象とする特約が中心で、保険料は通常の住宅ローン金利に0.2%~0.3%程度上乗せすることになっています。
ただ、当然のことながら保障範囲が広がれば保険料が高くなりますから、イオン銀行のように対象をがんだけに絞って金利の上乗せを0.10%と抑えているところもあります。さらに、じぶん銀行ではがんによる保険金支払いをローン残高の半分だけにして、保険料を無料としているケースもあります。
●保障の範囲も特約の種類によって異なる
なかでも保障内容が充実しているのが、住宅金融支援機構が民間機関と提携して実施しているフラット35の「新3大疾病付き機構団信」です。
また、通常の団信は死亡か高度障害が保険金支払いの対象ですが、このフラット35の機構団信では、高度障害が身体障害保障に拡充されています。具体的には、高度障害の対象にはならない人工透析が必要になった場合、心臓ペースメーカーを装備とした場合なども保険金支払いの対象になります。がんだけではなく、何かと安心感が高まります。
●がん特約だけなら月々1500円弱の負担
こうした保障内容に応じて保険料の負担は異なってきます。図表3のじぶん銀行の「がん50%保障」は保険料無料ですが、通常は金利に0.10%~0.30%程度の上乗せになります。毎月のローン返済と同時に引き落とされるので、さほどの負担感はないかもしれませんが、皮肉なことに無事でいる限りその負担は完済まで続きます。実際のところどれくらいの負担になるのかを考慮して、どんなタイプの特約に入っておくのがいいのかを考えておくのがいいでしょう。
たとえば、イオン銀行の「がん保障特約」はがんだけが保障の対象であり、金利上乗せは0.10%と低めに抑えられています。借入額3000万円、35年元利均等・ボーナス返済なしで試算すると、通常の特約なしの団信込みの金利が1.50%とすれば、毎月の返済額は図表4にあるように9万1855円です。これが、金利0.10%上乗せで1.60%になると、毎月返済額は9万3331円に増えます。
●保障範囲が広がると月々4500円弱に
それが、保障の範囲が広がれば広がるほど負担は重くなります。8大疾病保障などで金利0.30%の上乗せで金利1.80%になると、月々の返済額は9万6327円。月額にして4500円近い増額です。その分、安心の範囲が広がるのですが、そこまで必要なのかどうかジックリと考えておく必要があります。
銀行ローンの特約には8大疾病特約しかない場合、一般のがん保険などに加入して負担を軽減するという方法もあるかもしれません。なにしろ、図表4でもわかるようにこの負担増加が35年間続けば、総額でも188万円も負担増になってしまいます。
安心を買うにもお金がかかりますから、健康状態や家計状況などをシッカリと確認して、自分たちにふさわしい特約に加入しておきたいものです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)