メルカリといえば、フリーマーケットアプリの代表格だが10月下旬、ひとりのユーザーがツイッター上で「メルカリ、本当にやばい」「33万円が奪われる」などと訴え、波紋を呼んだ。
この発言について考えるうえで、メルカリのシステムを知っておかなければならない。
もっとも、売上金を現金化せず、メルカリ内で利用可能なポイントに換えるという選択肢もあるので、振込申請を行わないユーザーもいる。とはいえ、売上金には取得日から180日間(今年9月27日の規約変更前は90日間、昨年12月4日の規約変更前は365日間)という“振込申請期限”が設けられているため、メルカリを出品専門で利用しているユーザーは、やはり定期的な申請手続きが必須といえるだろう。
冒頭で取り上げたユーザーは、規約に違反した覚えがないにもかかわらず、メルカリに本人確認を求められ、サービスの利用を一方的に制限されたという。利用制限中は振込申請を行うこともできない。何度メルカリに問い合わせても、本人確認作業が終わっていないとして利用制限が解除されなかった。利用制限は3カ月近くに及び、その間に振込申請期限を迎えた売上金6012円は“失効”扱いとなってしまったそうだ。そのため、ほかの売上金も含めた約33万円がすべて失効してしまうと懸念し、冒頭のツイートとなった。
このユーザーは結局、3カ月弱かかってようやく本人確認が完了し、売上金6012円もメルカリから戻ってきたとのこと。ただ、あのまま利用制限が続いていれば最終的には合計33万円近くの売上金が失効になっていたことや、本人確認書類を何度も提出させられたことを挙げ、メルカリへの不信感をあらわにしている。
●売上金が“失効”するという表現自体がおかしい
メルカリの本人確認や売上金をめぐる不満の声は、ほかのユーザーからも相次いでおり、今年の8月頃から特に表面化したようだ。
こうした本人確認の意図についてメルカリ広報に取材すると、次のような回答が返ってきた。
「メルカリでは、すべてのお客様に安心・安全にご利用いただけるプラットフォーム運営のため、利用規約違反や悪質な行為などを行う利用者の排除に尽力しております。そのなかで、以前より、登録情報や利用状況などを基に、随時お客さまにご本人確認をお願いしております。
このようななかで、一部のお客さまに長い時間お待たせしてしまいましたこと、また弊社の説明が不十分でお客さまを不安にさせてしまったことについては、誠に申し訳ございません。本人確認をお願いしたお客さまやお問い合わせをいただきましたお客さまにつきましては、個別に対応させていただいております。
なお、ご本人確認のための利用制限中に振込申請期限を迎えて売上金が失効した場合にも、本人確認の結果、不正な取引がないことが確認され次第、売上金は再付与しております」(メルカリ広報)
また、一般的に、本人確認にどれくらいの日数を要するのかという問いに対しては、「個々の事案により長さが異なり、一概にお伝えすることが難しい」(同)という。
メルカリは、11月8日に開いた決算説明会の質疑応答においても「本人確認を強化していることは事実」と明かしているが、ここにはどのような背景があるのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏に話を聞いた。
「メルカリでは昨年12月に仕様変更があり、ユーザーは初回出品の際に住所と氏名、生年月日を登録することが義務となりました。本人確認書類の提出を複数回にわたって要求されたり、提出してもメルカリから返事が来なかったりといったユーザーが増え始めたのもこの時期からですが、本人確認のトラブル自体は前々からずっと続いていました。
そこに利用制限や売上金の失効といった別の問題が絡み、今回のように話が大きくなっているのですが、そもそも私は“失効”というメルカリの言葉遣いに違和感があります。ユーザーがメルカリで発生させた売上金は確かに存在しており、ポイントみたいに消えるわけではないはずです。
そしてメルカリは、今年6月に東証マザーズに上場しており、警察や金融庁からの監視の目が強くなっているのだと思われます。1月に仮想通貨NEM(ネム)の流出騒ぎがありましたが、あれはコインチェック社が、自己資金と顧客からの預かり資金をごちゃ混ぜにして管理していたのがひとつの原因でした。メルカリも、自己資金とユーザーの売上金をどのように切り分けているのかなど、あれこれ追及されたのではないでしょうか。
さらには、株主へのIR説明の準備などにも追われ、上場にあたりメルカリは社内全体がパニックに陥っていたのかもしれません。本人確認というものは人の手作業ですし、オペレーションになんらかの混乱が生じていた可能性があります。本人確認ができていないまま売上金を振り込むと、それはそれで問題になりますから、一時的に“凍結”させた可能性があります。そのような後付けの対応が、今回のトラブルを招いたという印象です」(井上氏)
●メルカリの喫緊の課題はユーザーとの関係性構築
先述した決算説明会でメルカリは「安全・安心な取引環境の強化」として4つの指針を打ち出しており、そこには「本人確認の強化」も挙げられている。具体的には、「反社会的勢力や悪質な行為を行う利用者の排除を強化」するとのことだ。
「これはそのまま、警察からの要請でしょう。たとえば10月下旬、少なくとも6万個以上のメルカリのアカウントを不正に作成・販売していたとして、2人の逮捕者が出ました。複数のアカウントを取得するということは、それだけ売るものがたくさんあるということで、盗品や偽物を売買しているおそれが非常に高いわけです。
とはいえ、このように利用者のモラルが問われるのはメルカリに限らず、1999年にサービスが始まった『ヤフオク!(旧Yahoo!オークション)』にも当てはまる話でした。しかし、『ヤフオク!』は現在、本人確認も含めてきっちりとした仕組みができあがっていますし、メルカリのようにユーザーの売上金をプールするという面倒なこともしていません。
要は、ビジネスの拡大スピードに社内の体制が追いついていないのがメルカリの根本的な課題であり、今はまだ、できて当たり前のことができていないのではないでしょうか。上場企業ならば社会的な説明責任もありますし、脇が甘いと、今後新しいサービスが出てきたときにユーザーは逃げていってしまいます。
とにかくメルカリは、これ以上ユーザーに負担をかけないよう、本人確認の進捗状況をマメに伝えたり、年末までにどういう取り組みをするかを詳細に発表したりと、ユーザーとの関係性をちゃんと構築していかなければなりません。逆にいうと、ここで『実は信用できるサービスだ』と世間に思わせることができれば、メルカリはこの先も強いビジネスになっていきそうです」(同)
フリーマーケットアプリとしての地位を確立するために、どれだけユーザーからの理解を得られるか。メルカリは、まさに今が正念場なのかもしれない。
(文=A4studio)