ビジネスパーソンの生活に欠かせないクリーニング店の数が激減している。厚生労働省によると、現在の日本には約10万店のクリーニング店があるが、20年前は約16万店あったため、約4割も減っているのだ。
なぜクリーニング店は減ってしまったのか。また、苦境のなかで取り組むクリーニング業界の挑戦とは何か。クリーニング事業を幅広く手がける喜久屋の中畠信一代表取締役に話を聞いた。
●服は「大事に着る」から「使い捨て」の時代へ
激減してしまったクリーニング店だが、なくなった店舗のほとんどは商店街などの個人経営の業態だという。「そうした店舗を利用していた中流家庭が少なくなり、衣料品をクリーニングに出すという習慣自体がなくなってきてしまったのが、そもそもの原因」と中畠氏は分析する。
「クリーニング店は、主に所得の中間層によって支えられています。しかし、現在の日本は格差社会が進み、中間層が減少しているといわれています。クリーニングを利用する人自体が減ってしまっているんです」(中畠氏)
また、日本人のファッションに対する考え方が変わってきていることも大きいという。そもそも、クリーニング需要はアパレル業界と密接に連動している。アパレルが盛り上がればクリーニング需要も伸びるが、国内のアパレル事業は年々縮小してしまっているのが現実だ。
矢野経済研究所が昨年10月に公表した「2017 アパレル産業白書」によると、16年の国内アパレル総小売市場は前年比1.5%減の9兆2202億円だった。なかでも深刻なのが百貨店だ。
百貨店で販売されているような高価格帯の服をクリーニングに出して大事に着続けるよりも、ファストファッションなどの安価な服を使い捨てのように着回す人が増えているのだ。
「今は安くて丈夫な服がたくさん市場に出回っています。『クリーニングに出す必要のない服』を着る人が多くなったことが、クリーニング業界の衰退にも影響しているのは間違いありません」(同)
さらに、クリーニング店のビジネスモデル自体が古くなっているという指摘もある。一般的なクリーニング店は、店舗に客が衣類を持ち込み、それを工場に運んで仕上げ、客に店舗まで取りに来てもらうというシステムだ。この「待つ商売」という既成概念が、客足が減少している一因だというのだ。
本来であれば、技術力や仕上がりなどの面で競合店との差別化を図るべきだが、待っているだけでは客に何も訴求できないため、『ワイシャツ1枚○円』などと安さだけを競う消耗戦になってしまう。
「こうした旧来のビジネスモデルは、すでに崩壊しています。これからの時代のクリーニング店は、お客を待っているだけで商売を成り立たせるのは難しいと思います」と中畠氏は言う。
●クリーニング業界が狙う“チャンス”とは
アパレル業界の市場規模は年々縮小しているが、インターネット通販などのECに限れば右肩上がりとなっている。百貨店などのリアル店舗に行かなくなった人たちは、服を買うことをやめたわけではなく、単純に買う場所をオンラインに移しただけというケースも多い。
「アパレル業界と連動していることからも、これからの時代はクリーニング業界もIT化を進めていく必要があるわけです。
そこで、近年注目されているのが宅配ネットクリーニングサービスだ。客はネット上で申し込み、クリーニングしたい衣類などを店舗に送る。仕上がった衣類は指定した日に自宅に届くという仕組みだ。わざわざ店舗まで足を運ぶ必要がないため、忙しい現代人にはもってこいのサービスといえる。
喜久屋は業界内でいち早くオンラインサービスを導入し、ネットで注文できる宅配クリーニング&無料保管サービス「リアクア」を開始している。
「衣類を洗って返すだけでは『モノ』のサービスでしかありません。でも、『クリーニングをして、さらに収納保管までします』とサービスの幅を広げると、お客様には、そのぶん部屋を広く有効に使えるという『コト』のメリットが生まれます。こうした価値観の変化が、これからのクリーニング業界には必要だと感じています」(同)
喜久屋は国内だけでなく海外にも積極的に進出しており、13年にはタイ・バンコクで現地法人「キクヤタイランド」を設立している。
「経済的発展の目覚ましいタイでは、アパレル産業も非常にさかんです。つまり、これからクリーニング需要が伸びていく国ということです。日本のクリーニング技術が海外でも受け入れられる可能性は高いと思っています」(同)
業界内でも革新的なサービスを展開する喜久屋だが、中畠氏に言わせれば「クリーニング業界のイノベーションは、まだまだ始まったばかり」だという。
「クリーニング業界が衰退しているというのは、ある意味では正解です。
イノベーションの余地もビジネスチャンスもたくさん眠っているクリーニング業界。新たなサービスが登場すれば、かつてのような活気が戻ってくるかもしれない。
(文=島野美穂/清談社)