住宅設備大手のLIXILグループは、瀬戸欣哉社長兼最高経営責任者(CEO)がCEOを辞任し、同社の前身であるトステムの創業家出身の潮田洋一郎取締役が11月1日付で会長兼CEOに復帰した。潮田氏がCEOに復帰するのは、2011年7月以来となる。



 瀬戸氏は19年3月末で社長も退く。後任には社外取締役で11月1日に最高執行責任者(COO)となった山梨広一氏が就任する。

 瀬戸氏は16年、当時社長兼CEOだった藤森義明氏の後継者としてLIXILグループに招かれた。藤森氏と同様、「プロ経営者」として迎えられたが、3年半で“クビ”になる。

「再び積極経営に転じたい」。10月31日の決算発表記者会見で、潮田氏は今回の社長更迭の理由を、こう説明した。「(瀬戸社長の)この3年間、財務体質の立て直しが非常に重要だったので、M&A(合併・買収)の追加がなかった」とし、今後積極的にM&Aに取り組む方針を示した。

 一方、瀬戸氏は退任について、「(潮田氏と経営の方向性が)違ってきた」と発言。「対立するより潮田氏に(経営を)やってもらったほうがいい」と説明した。瀬戸氏の言葉の裏には、「あなたは(自分で)経営をやれるのですか」という痛烈な皮肉が込められている。それほど両者の確執の根は深かった。

 11月1日のLIXILグループの株価は一時、251円安(14%安)となった。
その後も下げが止まらず、5日には年初来安値の1462円をつけた。株式市場は、潮田氏の経営復帰に「ノー」を突きつけた格好だ。

●古典芸能では玄人はだしの粋人

 LIXILグループはトステム、INAX、東洋エクステリア、新日軽、サンウェーブ工業の5社が11年に統合して誕生した。潮田氏はトステムの創業者、潮田健次郎氏の息子だ。

 健次郎氏はトーヨーサッシという小さなアルミサッシ会社を一代で日本最大の住設機器メーカーに育てた立志伝中の人物で、建材業界の「買収王」といわれた。健次郎氏は06年に、悲願だった売上高1兆円を達成。それを花道に引退したが、誰もが予想していなかった後継人事を断行した。長男の洋一郎氏を会長に据えたのだ。親子の葛藤もあって下馬評にも上っていなかったため、業界はあっけにとられた。

 勘と馬力で日本一のサッシメーカーを築いた健次郎氏の“叩き上げ”人生に対するコンプレックスからか、洋一郎氏は商売一筋の父親とは対極の趣味に走る。その趣味はハンパではない。

 歌舞音曲の古典、小唄・長唄・鳴り物(歌舞伎で用いられる鉦、太鼓、笛などの囃子)や茶道具の収集では、「玄人はだし」と評されている。
“御曹司”のステータスであるモータースポーツにも凝っており、1991年から3年間、自動車レースのF3000に参戦した。

 洋一郎氏の趣味人ぶりには、健次郎氏もほとほと困っていたようで、一時は後継者に据えることをあきらめ、副社長から平取締役に降格させた。だが、血は水よりも濃かった。健次郎氏が後継者に指名したのは洋一郎氏だった。

 洋一郎氏が趣味にのめり込みやすいことを熟知していた健次郎氏は、会社の定款に「住生活以外の事業は行わない」という趣旨の、異例ともいえる一文を入れた。洋一郎氏が10年秋、プロ野球横浜ベイスターズの買収に名乗りを上げたとき、プロ野球進出は「住生活以外に手を出すな」という先代の意向に反するとして古参幹部が強く反発、断念せざるを得なかった。

●藤森義明と瀬戸欣哉、2代続けてプロ経営者を招く

 自分が経営者に向いていないと自覚していた潮田洋一郎氏は、資本と経営を分離するため、有能なプロ経営者を探した。そこで目をつけたのが、米ゼネラル・エレクトリック(GE)出身の藤森氏だ。アジア人として初めてGE経営陣の一翼を担った「プロ経営者」という触れ込みだった。

 典型的な内需型企業を大変身させ、海外売上高1兆円を稼ぎ出すグローバル・カンパニーに育て上げる――。それが、潮田氏が藤森氏に与えたミッションである。そこで藤森氏は海外M&Aに打って出た。


 だが、藤森氏は“十八番”の海外M&Aで躓いた。14年にドイツの水洗金具大手、グローエを4109億円で買収したが、グローエの中国子会社、ジョウユウに巨額の簿外債務があることが判明。LIXILは662億円の大損失を被った。

 買収先の不正会計の処理に追われたLIXILグループは、16年3月期に256億円の最終赤字に転落した。指名委員会の委員を務める潮田氏は、その経営責任を問い藤森氏を更迭。後任に住友商事出身で、工具のネット販売会社MonotaRO(モノタロウ)を創業し、東証1部に上場させた瀬戸氏に白羽の矢を立てた。

 2016年、潮田氏は三顧の礼で招いた藤森氏のクビを切り、起業家である瀬戸氏を新たに迎え入れた。当時、潮田はこんなことを言っていた。

「瀬戸さんは現場を知り、泥くさいところがいい」

 GE仕込みの米国流ビジネスパーソンの藤森氏をあてこすったような物言いで瀬戸氏をベタ褒めしていた。その後、瀬戸氏は藤森氏の海外拡大路線を修正し、不採算事業を整理。18年3月期決算(国際会計基準)で、純利益が545億円と過去最高を記録した。

 しかし、両者の蜜月関係はここまでだった。


トップの交代と同時に発表されたLIXILの18年4~9月期決算では、最終赤字が86億円になった。イタリアの建材子会社の中国企業への売却が、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)から承認を得られなかったためだ。

 売却する予定だった子会社は、藤森氏が11年に600億円で買収した外壁材などを手掛ける伊ペルマスティリーザ。藤森氏のグローバルM&A路線の象徴的な案件である。売上高は1600億円規模だが、業績が振るわず赤字で、昨年、中国のグランドランド社への売却を発表した。ペルマスティリーザは米国売上が4割を占め、納入先にはニューヨークのワンワールドトレードセンターなど著名な建造物が多い。“米中貿易戦争”の最中にあって、米当局が中国企業の買収に待ったをかけた。これにより売却計画が頓挫したため、中間期の決算は赤字に転落した。

 さらに通期の業績見通しも下方修正した。19年3月期の連結純利益は、当初予想の500億円から15億円(前期比97%減)に引き下げた。ペルマスティリーザの売却で、今期は赤字がなくなる計画を立てていたが、売却の承認が得られなかったためペルマスティリーザの赤字235億円が純利益を押し下げる。

 それだけではなく、既存事業も新築着工件数の落ち込みや海外での新商品の発売遅延が響き、純利益が当初予想より62%減の250億円にとどまる見込み。
まさに内憂外患の状態だ。

 そこで、プロ経営者の瀬戸氏のクビを切り、潮田氏がCEOに復帰したわけだ。そして再び、海外M&Aに経営の舵を切るという。

 潮田氏が古典芸能に造詣が深い粋人であることは誰もが認めるところだが、“経営の達人”という評価は、寡聞にして聞かない。潮田氏が経営トップに復帰するLIXILグループの今後の動向が注目される。
(文=編集部)

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