今回は身近なお金と所得税について、女性公認会計士コンビ、先輩の亮子と税務に強い後輩の啓子が解説していきます。
亮子「前回、税金をクイズ形式で解説してもらったけれど、最近、クイズ番組が多いように感じるなあ」
啓子「多いかどうかよくわかりませんが、亮子さんも一度だけ出ていましたよね。
亮子「そんな昔のことは忘れました(笑)」
啓子「それでは今回は、クイズ番組での賞金に税金がかかるのかなど、前回出題したクイズの残りについて説明しますね」
前回、こんなクイズを出題しました。以下のうち、所得税がかかるものはどれでしょう?
(1)競馬の当たり馬券の払戻金
(2)宝くじが当たって得たお金
(3)クイズ番組の賞金で得たお金
(4)拾って(最終的に持ち主が見つからず)得たお金
(5)株を保有していることによって得た株主優待
(1)はかかるが、(2)はかからない。これは前回、説明したとおりです。それでは、(3)から(5)はどうでしょうか。今回は、残りの3つについて触れていきます。
●クイズ番組の賞金からは源泉徴収される
(3)のクイズ番組の賞金で得たお金には税金がかかります。たとえば、一般の方が受け取るクイズ番組や歌唱番組の賞金や賞品については、一時所得に分類され、源泉徴収された残りを受け取ることになります。仮に賞金が100万円だとしたら、賞金に対して10.21%の税金約10万円が徴収されますので、受け取る金額は約90万円になります。
この源泉徴収された税金約10万円は、仮で払っている状態の税金です。最終的には確定申告をして、会社員であれば給与所得と賞金の所得を合計した所得に対して計算される税金を、最終的に納める流れとなります。なお、賞金が50万円以下の場合には、源泉徴収はされずに50万円をそのまま受け取ることができます。前回説明した特別控除50万円を使うと一時所得が0円となり税金がかからないためです(その他に所得がない場合確定申告も不要です)。
仮に賞金200万円を獲得した場合に、賞金に対して最終的にいくら税金がかかるのか計算してみましょう。収入を得るために支出した金額が参加費・交通費で10万円だったとすると、一時所得は、
・(総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額<上限50万円>)×1/2
=(賞金200万円-10万円 -50万円)×1/2
=70万円
となります。
仮に税率が30%(所得税率20%+住民税率10%)であれば、賞金にかかる税金は21万円(70万円×30%)となり、最終的な賞金の手取りは賞金200万円から参加費など支出した金額10万円と税金21万円を差し引いた169万円となります。
すでに賞金から源泉徴収された税金が約10万円ありますので、一時所得にかかる税金21万円から10万円を差し引いた約11万円を追加で納めることになります。
●もしも『クイズ・ミリオネア』でミリオネアになったら?
以前放送されていたテレビ番組『クイズ・ミリオネア』(フジテレビ系)を覚えていらっしゃいますでしょうか。「ファイナルアンサー?」で有名な番組ですよね。もしも『クイズ・ミリオネア』でミリオネアになったら、賞金1000万円にどれぐらいの税金がかかるのでしょうか? 賞金は一時所得に分類されて計算します。
年収500万円(所得233万円)の会社員の場合、まず賞金を受け取っていない場合の所得税・住民税はあわせて約37万円となります(独身で所得控除が社会保険料と基礎控除のみを前提として試算しています)。この給与所得に一時所得となる1000万円の賞金を加えて最終的な税金の計算をすることとなります。
・一時所得
=(総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額<上限50万円>)×1/2
=(賞金1000万円-0円 -50万円)×1/2
=475万円
給与所得233万円と一時所得475万円をあわせて合計所得が708万円となります。この水準の所得となると所得税率が上がるため、最終的な税金は所得税・住民税合わせて約170万円とかなり高額になります。
●道で大金を拾ったら
(4)はどうでしょうか。
大金がごみ箱から発見されるといったニュースを見かけることがありますが、大金を拾って持ち主が見つからず全額受け取った場合には税金がかかりますし、持ち主が見つかって謝礼を受け取った場合にも税金がかかります。この場合、いずれも一時所得に分類されて税金を計算することとなります。また、一時所得のため、前述した通り50万円までは控除がありますので税金がかからず、他の所得がなければ確定申告も不要となります。一時所得の計算方法は、(3)クイズ番組の賞金と同様です。
●株を保有している場合の株主優待に税金はかかるのか?
(5)株主優待には税金がかかります。ただ、多くの人が株主優待に関して確定申告をして税金を納める、ということはしていないと思います。「申告しなくても大丈夫なの?」と思われるかもしれませんが、多くの方が株主優待について税金を納めていなくても問題とならないのには理由があります。
一般的な会社員で確定申告が必要となるのは、「給与の支払いを受けている人で、給与所得および退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超える人」とされています。つまり、給与所得・退職所得以外の所得金額が20万円以下であれば確定申告が必要ない、ということです。確定申告が不要とされているのは、このような少額な所得についてまでも確定申告をして税金を納めなければならないとすると、確定申告をする側も税務署側も事務処理がかなり煩雑となるためです。
年間で受け取る株主優待が20万円を超えなければ確定申告は不要となり、税金を納める必要もないということになります。株主優待には税金がかからない、のではなく、少額なので税金がかかっていないという理解が正しいと思います。
ここであえて、株主優待に税金がかかるケースを考えてみます。仮に、年間の株主優待(たとえば商品のチケットなど)の合計金額が30万円だったら、税金はどうなるのでしょうか。
株主優待の所得は「雑所得」に区分されます。そのため、雑所得の計算式に当てはめると、
・雑所得 = 総収入 - 必要経費
= 30万円 - 0円(※株主優待を得るためにかかる経費は0円と仮定)
= 30万円
雑所得は30万円となります。仮に税率が30%(所得税率20%+住民税率10%)となる会社員の場合、雑所得にかかる税金が9万円(30万円×30%)にもなることになります。確定申告は、確定申告書に給与所得と雑所得に関する事項を記載し、会社から交付される源泉徴収票を添えて税務署へ提出する必要があります。
というわけで(3)(4)(5)は、いずれも「税金がかかる」が答えでした。
亮子「芸人さんが競い合う番組での賞金にも、税金がかかるのね」
啓子「はい。なので、賞金全額をあてにしていると危険ですよね」
亮子「株主優待にも原則的に税金がかかるんだよね」
啓子「そうですね。ほとんどの方が申告を必要とするほどの株主優待を得ていないでしょうけれど、株主優待生活をしている方は注意が必要です。お金を得たり、お金が増えたりしたら、何かしら税金がかかる、と考えて調べてみると良いと思います」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)