筆者が現在、教壇に立っている大学は、フィリピンの首都マニラに所在するデ・ラ・サール大学(De La Salle University)である。1911年に設立された私立大学だ。

“ラ・サール”という名前から、日本でも有名な進学校である鹿児島や函館のラ・サール高校を思い浮かべる人もいるかもしれないが、実際、同じグループに属している。

 フランスの司祭であった聖ジャン-バティスト・ド・ラ・サール(1651~1719)は当時、西欧において上流階級の子女だけが家庭教師からラテン語による教育を受けていたことを問題視し、平民の子供を集めて学級に分けて日常用語で教育を行うという、現代の学校教育に通じる画期的な取り組みを開始した。その後、ラ・サール修道会(カトリック)が発足し、現在ローマに本部を置き、世界中に1000を超える学校を運営している。

●優秀かつ裕福な家庭の子女が集まる大学
 
 授業料に注目すると、概ね日本の私立大学の3分の1程度といったところだろう。しかしながら、1人当たりのGDPが日本の10分の1である、この国においては極めて高額である。よって、優秀かつ裕福な家庭の子女が学生の大半を占めている。たとえば、講義時に自動車の話題になり、「自分専用のクルマがある学生は?」と聞いたところ、3分の2程度が手を挙げた。さらに、ある学生に「どのようなクルマに乗っているのか」と質問したところ、「基本的にスバル」との返答。「基本的に、ということは、ほかにもクルマがあるのか?」と尋ねたところ、「イエス」との回答だった。結局、家には10台くらいクルマがあるとのことで筆者は大変驚いたが、周りで聞いている学生からはなんら特別な反応はなく、この大学ではさほど珍しいことではないのだろうと推測される。

 卒業生も豪華な顔ぶれとなっており、たとえば、日本の大学でも見かけることができないほど立派な図書館(写真右奥のビル)は、フィリピン最大の企業グループであるSMの創業者、ヘンリー・シーの寄付によるものだが、彼のすべての子供はデ・ラ・サール大学を卒業している。ちなみに、図書館の外観には“さざ波”のようなデザインが施されており、フィリピンの海でもイメージしているのかと思っていたが、寄付したヘンリー・シーの指紋であると知り、大変驚いた。
多くの日本人は奇妙に感じると思われるが、このあたりはお国柄の違いということだろう。

 一方、創設者であるラ・サールの教えを基礎とした奨学生制度により、富裕層には属さない学生も在籍している。彼らは全学生の実に20%を占め、従業料などが免除されている。

●大学の体制
 
 日本の大学の場合、大学の下は学部という組織となるが、フィリピンの場合、大学と学部の間に「カレッジ」や「スクール」と呼ばれる組織が存在する。長きにわたり統治されてきたアメリカの大学のシステムが基礎となっている。たとえば、筆者はデ・ラ・サール大学のラモンVデル・ロザリオ・カレッジ・オブ・ビジネスのマーケティング&アドバタイジング学部に在籍している。このカレッジにはマーケティング以外にも、マネジメント、ファイナンスなど多くの学部があり、数多くの専門科目が用意されている。一方、日本の大学は経営学部や商学部など大括りになっている。

 日本の大学の多くは2学期制であり、各学期15週程度となっている。通常、1科目を修了するために、学生は週1回90分の講義に出席しなければならない。一方、フィリピンでも2学期制を採用する大学が多いものの、中身がまったく異なる。1科目が90分講義×週2回となっており、大雑把にいえば、フィリピンの学生は日本の学生の2倍の講義に出席せねばならない。


 さらに、デ・ラ・サール大学の場合は3学期制となっており、各学期には入学式、卒業式、日本の1年分に相当する講義数があるため、こちらの1年は実質的には日本の3年に相当する。3学期制を導入している狙いは、3年で卒業可能、さらには2年を追加し、5年でダブルディグリー(たとえば経営学と法学の2つの学士)を取得可能とし、大学をアピールすることにあるようだ。

 教育効果の向上を目的とし、講義には人数制限がある。学部45名、大学院15名が上限となっており、基本的に日本のような何百人規模の大講義はない。学生の勉学への意欲は極めて高く、さらにフィリピンの国民性かもしれないが、積極的に手を挙げて発言する学生が多い。プレゼンにおいても、態度や話し方などは実に立派なものである。

 アメリカの大学でも感じたことだが、こちらの学生の間には、「勉強でがんばることはクール(かっこいい)」といった雰囲気が広く浸透しているような気がする。こうした雰囲気のなか、教えるこちらのモチベーションも自然と高まってくる。

 もっとも、日本と異なり、こちらの企業は採用にあたり、単に大学の名前だけでなく、大学での成績を重視する場合が多く、学生もがんばらざるを得ないといった事情もあるようだ。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

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