若者の街、下北沢。東京都世田谷区にある下北沢駅周辺は、古着屋やライブハウス、劇場などが多く、サブカルチャーの愛好家たちで毎日のように賑わう場所である。
しかし、毎日多くの人が利用する下北沢駅は長らく改装工事を行っており、頻繁に通路や動線が変わるため、利用者からの評判はあまり良くない。記憶に新しいところだと2018年3月に同駅の玄関口とされ利用者の多かった仮南口が廃止され、一気に使いづらくなったと不満の声が挙がっていた。
さらに最近、これまで左側通行だった京王井の頭線エリアが突如右側通行に変更となったが、小田急線エリアは変わらず左側通行のため、エリア同士の合流箇所で混乱が起きている。なぜ京王井の頭線エリアを右側通行にしたのか、なぜ小田急線エリアと統一しないのか、といった不満の声が続出している。
確かに、小田急電鉄と京王電鉄の工事を一元管理していれば、このような事態は起こらなかったように思えるが、なぜエリアごとに進行方向がチグハグなどという、ややこしい状況になってしまったのだろうか。
●京王電鉄、小田急電鉄の回答
この件について京王電鉄、小田急電鉄の両社にそれぞれ問い合わせてみたところ、以下のような回答が返ってきた。
「工事中の仮設通路と小田急管理通路との接続部がT字形状となっているため、どうしてもお客様の動線は交錯せざるを得ません。当社では、お客様の安全を第一に考えた結果として、階段やエスカレーター付近の安全を確保できるよう10月28日の始発より右側通行に切り替えました」(京王電鉄)
「10月28日の始発より京王管理通路が右側通行になるとの連絡は受けていましたが、弊社管理通路を右側通行に変更するとなると、構内にある6台のエスカレーターをはじめとする通行区分をすべて修正する必要が出るため、対応が難しい状況となっております」(小田急電鉄)
以上が両社の主な回答だが、ほかにも、「動線が交錯する場所に警備員を配置することで事故防止対策としている」「2019年3月に予定されている駅工事の終了によって、問題は解決すると考えている」との趣旨が、両社の回答に共通して記載されていた。
つまり、京王線の進行方向変更は安全のためのもので、小田急線側も通知を受けてはいたが、エスカレーターをはじめとする設備の変更が難しいため右側通行には対応できなかったということのようだ。
鉄道会社側にも事情があることはわかるが、混乱が起きているのも事実。もっとうまい手順はなかったのだろうか。
●京王井の頭線の右側通行は、むしろ今できる最善策のひとつ
今回の件を考えるうえで、まず下北沢駅の工事について知っておく必要があると杉山氏は語る。
「工事以前の下北沢駅は、1階部分に小田急線、2階部分に京王井の頭線の線路が走るかたちで、かつて京王井の頭線は小田急電鉄の路線であったため、その名残で下北沢駅では改札を通らずとも2線間の乗り換えが可能でした。
しかし小田急線は1989年より、東北沢駅~和泉多摩川駅間の線路を4本に増やす『複々線化』に取り組んでいます。下北沢駅も2004年から工事が開始し、地下1階を小田急の緩行線路が、地下2階を急行線路が走るかたちに改装されています。京王井の頭線は従来通り地上2階部分を使い続けるので、空いた地上1階を通り抜け可能な通路にするとともに、小田急線、京王井の頭線の改札を新設し、完全に分離しよう、というのが現在行われている工事です」(杉山氏)
その改装工事の余波が京王井の頭線エリアの進行方向変更につながり、結果として不満が噴出しているということか。しかし、もっとほかに手の打ちようはなかったのだろうか。
「京王電鉄もアナウンスしている通り、工事途中の現段階では、小田急線ユーザーと京王井の頭線ユーザーがどこかで交錯せざるを得ない状況にあります。確かに、進行方向を変更しなければ今のような不満は噴出しなかったでしょうが、その場合は階段・エスカレーター下が交錯場所となってしまい、重大な事故につながる危険性があったわけです。
それなら小田急線も右側通行にすればいいじゃないかと思うかもしれませんが、2019年3月に予定されている工事終了に伴い、混雑も解消すると考えられています。それまでの半年足らずのために6台あるエスカレーターの動作や、駅構内の案内板などをすべて変更することのほうが、むしろ現実的ではありません。
また、両社は混雑の対策として警備員を配置し、利用客の誘導を促すようにしています。
●工事終了後、下北沢駅は不便になる?
今回に限らず、下北沢駅は不満やトラブルが続出してきた。その原因である改装工事も2019年3月で終了し、3月16日からは新設された京王中央口と小田急中央口の2改札が稼働開始するとのことだが、今までのように改札を通らずに乗り換えることができなくなるため、改装前より不便になるのではないかとも懸念されている。実際のところ、改装によって不便になってしまうのだろうか。
「確かに、これまで改札を通らずに乗り換えできていたのに、改札を通る必要が生まれると聞くと、不便になるように思えるかもしれません。しかし地下1、2階の小田急線と地上2階の京王井の頭線をつなげる通路をつくるとなると、そのほうがややこしいことになりかねませんし、現代はSuicaやPasmoといったICカードが主流なので、改札を通ることにそこまで不便を感じることもないかと思います。むしろ、一度改札から出る必要があるため、ちょっと下北でお茶していこう、買い物していこうと寄り道する機会が生まれるのではないでしょうか。
また、今回の改装工事によって、下北沢駅の両サイドをつなぐ中央通路が完成します。改装前の下北沢は線路と踏切で完全に分断されていたので、下北沢に住む方や、頻繁に訪れる方からしてみれば、改装によって相当快適になることでしょう。
仮南口の封鎖や今回の右側通行など、いろいろと混乱することも多かったですが、それも19年3月16日までなので、つまるところ、あともう少しの辛抱だということです」(同)
良い意味での猥雑さが下北沢という街の魅力だが、駅に限っていえば、すっきりと整備されているに越したことはない。19年3月16日に控えたリニューアルによって、これまでの我慢が報われたと思えるほど快適になることを願う。
(文・取材=A4studio)