●顔面蒼白になるほどの下げ相場?

 少し前、2018年の10月くらいまでは「バブル後最高値更新」と騒がれたように、株価が好調なイメージがありました。実際、投資初心者でも多くの人が利益を出していたのではないでしょうか。

「オレ、才能あるんじゃね?」と勢いづいていた人もいるでしょう。

 ところが冬の寒さが厳しくなり始めた年末にかけて、一気に株価が下がり始めています。この原稿は大納会(2018年12月28日の最終取引日)直後に書いていますが、日経平均株価はなんとか2万円に回復して終えたものの、ピーク時(2万4448円)からすれば20%くらい一気に下がったことになります。

「世界経済の減速懸念」と報じるニュースもありますし、各国が金融緩和政策を終わらせようとしており、「クスリ」が切れた症状と述べる人もいます。2019年のマーケットについても下落を予想する人が増え始めているようです。

 しかし、これくらいの下げなら、はっきり言って「かわいいモノ」です。あなたがもし、12月25日の思わぬクリスマスプレゼント(1日で1000円くらい下がった)に仰天し、証券会社のアプリにログインして顔面蒼白となっていたのであれば、それは投資経験の浅さを物語っています。

 10年ほど前にやってきたリーマンショックは、こんなものではなかったからです。2008年8月の終値で日経平均株価は1万3072円でしたが、9月末で1万1260円、10月末で8576円と下がりました。最安値では10月の途中に6995円まで記録しています。

 割合にしてみると46%くらい下がっているわけですから、下がり具合が強烈であったことがわかります。ちなみに日経平均株価が1万3000円台を取り戻したのは2013年4月末でしたが、なんと回復には4年半もかかったことになります。


 リーマンに比べれば小さい下げ相場であったのに、それでもあなたが急落に肝を冷やしたのであれば、運用のスタイルを見直しておく必要があります。今回はそのヒントを紹介してみたいと思います。おそらく、イケイケの相場のときには誰も教えてくれなかった投資のヒントになるかもしれません。

●株価が急落したとき、まず「全体」を見よう

 株価が急落したとき、投資初心者にとってそれが初体験であるとパニックになります。しかしまずは、あなたの投資状況をしっかり整理、判断することからスタートです。

 まず、「投資している資金額の投資元本」と「投資はしていない資金額」の全体で考えてみます。「全体として」どれくらい下がっているか考えてみましょう。あなたの全資産が100万円で、全額投資していた場合、株価等の下落はそのままあなたの資産の下落を意味します。これは確かにしんどい状況です。

 しかし、投資資金より預貯金の残高が上回っているなら、それほど焦る必要はありません。「投資資金100万円+定期預金300万円」だったとすれば、株価が20%下がろうとも、あなたの全資産の4分の3は傷ついていませんし、全体で考えれば5%の値下がりでしかないからです。

 私たちは値上がりしたり、値下がりする株や投資信託だけを投資と考えてしまいがちですが、実は定期預金も「元本割れの可能性が低くて安全性の高い運用(しかし利回りは低い)」であり、それらは「全体で運用を行っている」と考えるべきなのです。


 こう考えることができると、短期的な急落も乗り越える(=株価の回復を待つ)心理的余裕を稼ぐことができます。

●売っていない「マイナス」は、まだ実現していない「マイナス」であることに慣れる

 次に考えなければいけないのは、「これは回復可能性のある下げなのか」という発想です。

 あなたが特定の企業1社だけに投資をしている状況であり、その企業の不祥事や粉飾決算が明らかになり、芋づる式に悪いニュースが飛び出してきたのであれば、このマイナスは回復する可能性が低いかもしれません。なぜなら企業そのものの評価が失われており、上場廃止の恐れもあるからです。

 しかし、一時的に評価が落ちただけであり、長期的にみて経済の実態が消失したわけでないとすれば、これは回復の可能性が高いといえます。企業は株価が20%下がったとしても、変わらず商売を続けていますし、株価が30%下がったからといって売上がゼロになるわけではありません。常に過去より良いものをつくろうとイノベーションを続けています。人がモノをつくって買うような生産と消費のサイクルは、株価とは別に存在し続けています。

 また、個別企業だけではなく、日本の株式市場全体、あるいは世界中の株式市場全体に投資をするようなインデックス運用を行っているのであれば、下げも上昇も平均値になります。そして国内あるいは世界全体に投資をしているようなものですから、経済が回復することで値下がりも解消されていくでしょう。

 投資初心者は「含み損」という考え方と付き合うことを覚えていく必要があります。たとえば投資元本100万円で買ったものが80万円の「時価」に下がっているとしても、回復可能性があるのであれば、それほど焦る必要はないのです。
なぜなら、それは「含み損」でしかないからです。

 パニックになってあなたが売り注文を出し手放した場合、それは「実現損」となり損失が確定します。この場合マイナスの20万円です。その損失確定したものを取り戻すためには、今よりも株価が低いところでもう一度投資をしなければいけません。売買の手数料と運用益の税金がかかるため、売ったときと同じ価格で買って株価が元通りに回復しても、まだマイナスになってしまうためです。しかし、これは初心者にとって困難なことです。

 しかし、回復可能性があると思えるなら、「売らないでそのまま待つ」ということができます。売らずに抱えている含み損であれば経済の回復に従い、そのマイナス幅は縮小し、じきにプラスに転じていくからです。何もしなくて何年か寝かしておくだけで、20%以上の損が消えてプラスになることもあるわけです。

●パニックになった人は、投資のやり方に問題があったことになる

 さて、ここまで整理をしておくと、パニックになった人の問題点が浮き彫りになってくると思います。急落のニュースをみて焦った人のうち、「さっさと手放したほうがいい人」はこんな人です。

・資産のほとんどを投資に回していた人

 一番ダメージが大きいのは、手元にキャッシュを保有していなかった人です。
資産全体でみても投資部分の下落の影響が大きいわけですが、これは投資における下落リスクを甘く見ていたことにつきます。短期的に20%下がることを許容できなかったのであれば、それは投資にお金を回し過ぎたということですから、投資額を減らして調整するべきです。だたし、全部売る必要はありません。

・投資資金のほとんどを個別株に入れていた人
 
 個別株にお金を入れ過ぎていた人も、同じ問題を抱えています。個別株は平均より値動きが荒っぽくなります。特にダメ企業を選んでしまったときの悪い値動きは厳しいものです。それよりは、日経平均株価やTOPIXに連動するインデックス運用を行う投資信託やETFに、投資資金の一部ないし過半を置いていたほうが、一喜一憂をせずにすみます。

・レバレッジをかけて投資していた人

 信用取引の仕組みを使うと、私たちは33万円の資金で100万円の投資(つまり3.3倍)ができるようになります。10%の値上がり分(10万円)は、元本の33万円からみれば約30%の値上がりになるため、投機的な売買をする人が好むスタイルです。
 
 しかし、もし20%値下がれば、値下がり分は20万円となり、元本の約3分の2近くを毀損することになります。今回パニックになった人がレバレッジをかけていたせいであれば、それこそが投資のやり方に問題があったということです。あなたのオーバーコンフィデンス(自信過剰)があなたのパニックの原因です。
ならば、レバレッジをやめたほうがいいでしょう。

・資金ニーズが目前の人(あるいは55歳以上の人)

 あなたがパニックになった理由のひとつに、「時間的余裕がない」ことがあるかもしれません。株価が回復するまで待っていられないということです。子どもの学費の準備を株でやっていた人は、来年や再来年の入学時期に使う必要がありますから、本来そのお金で投資をするべきではなかったのです。また、リタイア生活が目前で、お金を使うことが明らかである人も同様に、その資金で投資をするべきではなかったといえます。これも投資資金を減らすべきです。

●こんな人はただ市場の回復を待てばいい(それが何年かかかるとしても)

 さて、ここまでの議論を踏まえて、今度は「そのまま何もせず市場の回復を待てばいい人」を考えてみましょう。それこそ何年かかったとしても、投資を続けて「売らない」でいればいい人です。

・投資資金より預貯金額のほうが多い人

 先ほど説明したとおり、資産全体でみて投資の影響が軽微である人は、そのまま持ち続けて回復を待つという選択肢を持っています。初心者ほど「損失確定してもう一度儲け直す」のは難しいので、4~5年くらい持ち続けてみる覚悟で、含み損の解消を狙うことを考えてみましょう。むしろ預貯金の一部でさらに投資をして、上昇益を狙ってもいいくらいです。

・確定拠出年金に加入している人

 企業型確定拠出年金あるいはiDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している場合、60歳以降にしか解約ができません。
これは、今慌てて損失確定したところで、そのお金の運用方法に悩まなければいけないということです。あなたが55歳以上でリタイアが目前でないのなら、景気の回復まで何もせずにおいたほうがいいでしょう。

・55歳以下の人

 先ほどリーマンショックからの回復に要した年数を紹介しましたが、回復にかかる時間は予想することはできません。一般論としては4~5年くらいは見ておきたいところです。言い換えれば、55歳より若い人は今のまま回復を待つ時間がある、ということになります。

・積立投資をしている人

 実は下げ相場で最強の選択肢は積立投資ですが、これについて以降、説明しましょう。

●「積立投資」を活用したテクニック

 私たちは投資のプロではありません。プロであっても今日が底値かどうか考えるのは、とても難しいことです。また、下がっているときに「買う」ことと、底を迎えて回復し始めたときに「買う」というのは、心理的にとても難しいことです。

 一方、私たちはバカな売買なら簡単にできます。要するに「損が出たら売る」「昔より高い株価になったらようやく買う」というような売買です。前者は確実にマイナスになりますし、後者もたいていの場合、買うには遅すぎるタイミングです。こういう人は投資で儲けられないばかりか、株価が上がってもあまり増えないことになります。

 実は、私たちはとても簡単に賢い買い方ができます。それは、少額からの積立投資です。つみたてNISA(年40万円以内)あるいはiDeCo(働き方によるが年14.4~81.6万円)で定期的に投資信託等を購入し続ける手続きをしておけば、ゼロから投資資金を徐々に増やし、株価が高いときも低いときも自動的に購入を継続させることができます。

「定額」で積立投資をすると、株価が下がっている時期は口数を多く、株価が上がっている時期は口数を少なく購入することになるため、上がったり下がったりしながら経済が成長していくと、結果的に“賢い買い方“をしたことになる仕組みです。しかも、努力も勉強も必要ありません。自動的に銀行口座から引き落とされ、ときどき残高チェックするだけでいいのです。

 投資金額も少ないところからスタートするので、投資経験が浅いときの急落でも、焦る必要はありません。たとえば毎月1万円の積み立てを2年間行った時点で20%急落したとしても、金額ベースでは24万円の元本のうち4.8万円が含み損になっただけですむからです。

 筆者は、個人型確定拠出年金でリーマンショックの頃から積み立てをしていますが、どんなに下がっていても積立投資を継続していたおかげで、この数カ月株価が下がろうともまったく困らないほど利益を得ています。日経平均が1万円を下回っている時期に長く積み立てをしているので、2万2000円が2万円に下がろうともまったく問題がありません。むしろ将来の株価回復を考えれば、安いときにまた新規購入できてありがたいくらいです。

 最近つみたてNISAやiDeCoを始めた、という人にとっては、これからやってくるかもしれない下落相場にあきらめずに投資を続けることこそが、運用利回りを高める秘策になるでしょう。

「焦って売らない(売るのは投資をやりすぎたポジションを調整する場合のみ)」
「下がっているときこそ積立投資を継続する」

 これを心がけてみてください。何年かたってアメリカ大統領が別の人に替わったり、日本の首相が別の人になって「○×ノミクス」といわれるような相場の急上昇がやってきたとき、あなたの運用利回りは年5%以上を確保することになるでしょう。
(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)

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