2018年10月に『AI×人口減少 これから日本で何が起こるのか』(東洋経済新報社)を上梓しましたが、日本の現状に強い危機意識を抱きながら書きました。また、同書を執筆したのは、日本の現状を打破しようとがんばっている企業や地方自治体を応援したいと思ったからです。
日本は今、未曽有の人手不足に陥っています。しかし、自動化ソフト(RPA:Robotic Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)や人工知能(AI)の導入が加速すれば、10年後には雇用の余剰感が出てくる可能性もあります。そのため、失業者が急増する恐れがあるということです。30年ごろには、失業率が現在の2倍くらいになっていてもおかしくないと思っています。
安倍晋三首相は、昨年9月の自民党総裁選挙後、社会保障と雇用の改革を3年で進めるとしていましたが、すでにその動きが始まっています。70歳への定年年齢引き上げも、当初は企業に対するお願いのようなものだったのが、最近では義務付けの方向で動いています。70歳まで定年が引き上げられれば、その次の目標は75歳ぐらいになるのではないでしょうか。いずれにせよ、それだけ高齢者の雇用は拡大していくわけです。
一方で、17年には大企業を中心にオートメーション化が進み、RPAというシステムが導入されました。これは、ロボットによる業務の自動化です。このRPAは、かなりの効果を上げてきています。
メガバンクはRPAをバックヤードに導入して成果を上げ、地方銀行にもこの流れが広がっています。今年のメガバンクは女性の人気が非常に低いのですが、それは採用の段階で事務職がなくなることを公言しているからです。事務職希望でも「将来は営業に回ってもらうかもしれない」と言われるため、就職ランキングの人気が落ちているわけです。これは証券会社や保険会社でも同じことがいえます。
●建設や介護もAI導入で人手不足解消へ
人手不足がもっとも深刻化しているのが建設業界や介護業界です。しかし、鹿島建設はすでに現場でAIを導入し、パソコン1台での工事を実証実験しています。実際、かなりできることがわかってきています。将来は大林組や清水建設も追従するでしょうから、建設現場での人手不足は緩和されると思います。
介護の分野では、AI化やオートメーション化によって、いかに少ない人数で対応するかが大きなテーマとなっています。AI化を進めていくためには大きな投資が必要です。そのため、大手と中小とでは大きな差が生まれ、優勝劣敗がはっきりとしていきます。
こうした動きは、大企業だけではありません。簡易なRPAやAIのコストはどんどん安くなってきています。中小零細企業や地方の企業などでも、そうしたものを導入することができるようになりました。さらに、農業などでもAIの導入で経営の効率化が図られています。
企業が欧米に追従してAIを導入していくことで人手不足感が解消されていくと、雇用の余剰感が出てきます。今後、人余りが起きるなかで、日本はどうすればいいのでしょうか。
やはり、成長戦略を描けるような分野をしっかりと成長させていくことが大切だと思います。成長分野というのは、農業、観光、医療などの分野です。すでに、観光は円安をきっかけに訪日外国人観光客が増加の一途をたどっています。農業も岩盤規制を緩和して、しっかりとした運営をしていくことで大きな成長が期待できますし、海外などにも販売していくことができると思います。
医療法人も経営の効率化が必要です。
いずれにせよ、経営を効率化することで医療分野でも黒字化を実現することができますし、医療ツーリズムなども成長の大きなきっかけになっていくと思います。
(文=中原圭介/経営コンサルタント、経済アナリスト)