伊藤忠商事が“伝家の宝刀”を抜き、デサントに対してTOB(株式公開買い付け)に踏み出した。
伊藤忠の完全子会社のBSインベストメントがデサント株式721万株(議決権ベースで9.56%相当)を買い付け、伊藤忠グループの持ち株比率を最大40%(現在は30.44%)に引き上げる。
「本公開買い付け後においても、デサント株式の上場は維持される予定」としている。
1株当たり2800円で買い付ける。1月30日の終値は1871円。1カ月平均の株価に50.38%のプレミアムをつけた。
公開買い付け期間は1月31日から3月14日までの30日営業日。公開買い付け代理人は野村證券である。
TOBの目的を伊藤忠は「経営体制の見直し及び健全なコーポレートガバナンスの再構築」「デサントの企業価値の向上に向けた建設的な協議を行える協力関係を樹立する」としている。
買い付け後のデサント株の保有状況は伊藤忠30.44%、BSインベストメント最大9.55%、グループ合計で40.00%としている。
以下が重要な点だ。買い付け後のデサントの経営体制(案)として、取締役の人数を現在の10人から6人(デサント2、伊藤忠2<うち常勤1>、独立社外取締役2)に減らす。意思決定の迅速化を図り、デサント、伊藤忠、社外取締役の人数を均衡させるという。
石本雅敏社長より年上で、経営陣を仕切ってきた古参の役員を排除するのが狙いとみられる。
A:日本事業の建て直し
1.マーケティングオペレーションの改善
2.従来の卸販売主体のビジネスモデルからの転換
B:海外事業の強化
1.中国市場開拓のスピードアップによる中国事業の強化
2.韓国事業の持続的成長
具体的な内容については、デサントの現経営陣と十分な協議を経た上で実行するとした。しかし、デサントの企業価値の向上のためには、スピード感を持って経営改革を実行することを求めている。
TOBに踏み切った背景について、ワコールホールディングスとの包括的業務提携契約の締結に際する不適切な(伊藤忠を蚊帳の外に置いた)取締役会の運営や伊藤忠のドン、岡藤正広会長兼CEOとデサントの石本社長らとの話し合いの内容が第三者に漏洩した可能性がある点など、デサントのガバナンス上の疑義が生じていることを挙げた。
「具体的な指摘や問題提起を行ったが、(石本社長以下)現経営陣や監査役が真摯に検討、対策を講じる姿勢が見られなかった」と断罪した。
公開買い付けの実施についてデサントと事前協議を行ったとしても、建設的なものにはならないと想定されることや、情報漏洩等によりデサントの株価が高騰したりして市場の混乱を招く可能性を危惧。事前協議なしで公開買い付けに踏み切ったとしている。
実質的な“敵対的買収”といっていいようなTOBである。
公開買い付け後に、まずデサント経営陣と経営体制について協議を行う。そこで「真摯な対応を頂けるなら(=伊藤忠の要求を飲むのであれば)協調してデサントの企業価値の向上に取り組んでいく。ただ、万が一、協議が不調に終わった場合には、株主提案を行い、幅広く株主の方のご意見をうかがい、(現経営陣の続投の是非を)ご判断いただく可能性がある」と述べている。
衣の下から鎧がちらちら見えているわけだが、あえて鎧を見せているのかもしれない。
●伊藤忠はMBOに反対
伊藤忠の小関秀一専務執行役員(デサントとの交渉窓口)は1月31日、大阪市内で記者団に次のように語った。
「デサント側からMBO(経営陣による株式の買取)の提案を受けたことがTOBのきっかけだった」と語り、MBOについて小関専務執行役員は「会社を借金漬けにして株式を非上場化する。(その上)経営陣がそのまま残るなどあり得ない。デサントからのMBO提案を断った」と痛烈に批判した。
デサントは伊藤忠の取引先でもある。総合商社が出資する会社に対して無断でTOBを仕掛け、経営体制の見直しを迫るのは極めて異例だ。デサントは「(TOBについて)なんの連絡もない。事前協議の機会のないまま一方的に(TOB実施の発表が)行われた」とのコメントを発表。近く取締役会を開き、TOBへの対応(賛否)を決める方針だ。
ただ、両社の確執はブランドを毀損しかねない大きなリスクを内包している。
●株価はTOB提案でストップ高
1月31日の東京株式市場は、デサント株に買いが殺到。ストップ高(400円高)の2271円で株価は張り付いたままとなった。2800円のTOB価格に対して、まだ23%のプレミアムが残った。だから2月1日も連続ストップ高(500円高)の2771円(22%高)まで値を飛ばした。TOB価格まで残り29円である。
デサントの経営陣の出方次第だが、株価は2800円に限りなく近づくことになる。デサント側の防戦的な動きが出るかどうかも注目点だ。
ただ、これから投資する際に注意しておかなければならいことがある。
(文=編集部)