30代後半から40代にかけて、「もしかして、一生独身かも……」と思い始めた時、シングルが思わず考えてしまうことの一つがマイホーム購入らしい。不動産のチラシなどをみると、素敵なインテリアのラグジュアリーなマンションがズラリと並ぶ。

しかも、毎月の住宅ローン返済額は、今の家賃と同じくらい。ずっと家賃を払い続けるくらいなら、住宅ローン完済後は、不動産という資産が自分のものになるわけだし、高齢になると、賃貸住宅が借りにくくなって更新などを断られるケースもあると聞けば、いっそ買ったほうが良いのでは? と、考える気持ちはよくわかる。

 しかし、とりわけ将来の不確定要素が多いシングル女子が住宅ローンを組んで安易にマイホームを購入するのは要注意! これから、その理由である、アラサー独身女子がマイホーム購入前に知っておきたい3つのリスクについて説明しよう。

 30代半ばを過ぎて独身だと「マンション買わないの?」と言われ――。37歳のマリコさん(仮名)は、都内の総合病院に薬剤師として勤務している。忙しい仕事の合間をぬって、休日ともなれば、友人たちと登山やキャンプを楽しむアウトドア派だ。

 そんなアクティブで充実した日々を送っているマリコさんだが、30代半ばを過ぎた頃から、「マンション買わないの?」と言われることが多くなってきた。

 現在、マリコさんが住むのは、家賃8万円の1DKの賃貸マンション。最寄駅に近く、周辺にはコンビニや商店街も充実していて、とにかく便利なところが気に入っている。ただ、同年代で独身の友人たちのなかには、はやばやとマンションを購入した者もいて、遊びに行くと、決して広くはないものの、自分の住まいと比べると、エントランスや間取り、内装、設備などグレードの違いを感じずにはいられない。

 購入した友人に住宅ローンの返済額を聞けば、今の家賃よりちょっと多いかなという程度。マリコさんの年収は約750万円で、勤務先は安定しているし、貯金も1,000万円以上ある。
マリコさんとしては、住宅ローンを組めば、自分もマンションを購入できないわけではないとは思う。今は金利も低いらしいし、どうせ買うなら、2019年10月に消費税率がアップする前に購入しておいたほうがオトクのような気もする。

 その一方で、現在つき合っている特定の相手はいないが、これから結婚するかもしれないし、マンションを買ってしまうと、自分がもう結婚しないみたいに周囲に見られるのがなんとなくイヤだった。こんな状況のなか、マリコさんはマイホームを買うべきかどうか悩んでいる。

●首都圏の新築マンション契約者の約1割はシングル

 マリコさんに限らず、以前からシングルでマイホームを購入する人は一定数いる。株式会社リクルート住まいカンパニーが首都圏の新築分譲マンション契約者を対象にした調査によると、2017年の契約者全体のうち、子どもあり世帯が45.4%と約半数を占めているのに対し、シングル世帯は9.9%(男性5.2%、女性4.8%)。

 2001年から時系列に主な契約者世帯の状況をみると、シングル世帯は最も高かった2004年の14.9%(男性7.2%、女性7.7%)に比べると減少しているものの、ここ数年は、契約者のおおむね1割程度を占めている。

●シングル女性は、老後の安心のために“終の棲家”を持っておきたい

 同調査における購入理由について見てみると、契約者全体では「子供や家族のため、家を持ちたいと持ったから」(約43%)が最も多い。続いて「現在の住居費が高くてもったいないから」(約32%)、「金利が低く買い時だと思ったから」(約25%)となっている。購入理由をライフステージ別にみると、シングル世帯では「金利が低く買い時だと思ったから」「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」が全体に比べて高くなっている。

 さらに、シングル女性世帯で最も多い理由として挙げられるのは、同率首位で「資産を持ちたい、資産として有利だと思ったから」(33%)「老後の安心のため、住まいを持ちたいと思ったから」(33%)の2つ。これらは、前年より5ポイント以上増加している点も特徴的で、とくに女性の場合、後者の理由の比率が男性より高い。


 一般的に、購入者の多くは30代以降だが、若くても老後を意識する人が増えてきたということだろうか。もしくは、仕事や恋愛、結婚など、さまざまな可能性や選択肢があるなかで、恣意的に選択でき、確実に自分の手元に残るマイホームという資産を持つことが絶対的な安心感につながっているのかもしれない。

●シングル女性がマイホーム購入前に知っておきたい3つのリスク

 では、30代シングル女性がマイホームを購入する際のリスクとはなんだろうか? 筆者は、リスクが三層に重なる構造になっていると考えている。

 まず1つ目は、「持ち家リスク」だ。つまり、シングルなどライフステージにかかわらず、持ち家派と賃貸派の議論になった際に頻繁に取りあげられる論点である。

 持ち家のデメリットとして挙げられるのは、住宅ローンは家賃程度であっても、各種税金や手数料、修繕費用などで年間コストが大きな負担になること。昨今の不動産の資産価値の低下や住み替えに柔軟に対応できないことなどであろう。

 続いて2つ目は、男女問わず「シングルがマイホームを購入するリスク」である。これは大別して2つあり、基本的に住むのが一人であることと、住宅ローンを返済するのも一人であることだ。つまり、単身で住むのが前提であるため、万が一、病気やケガ、転勤などなんらかの理由でそこに住めなくなった場合、それをどうすべきか考えておく必要がある。もし賃貸に売却したりするならば、物件は駅からできるだけ近く、広さも50平方メートル以上あるなど、売却等がしやすい物件を選ぶことも重要なポイントとなる。

 そして、住宅ローンを組んで購入する場合、返済は自分一人の収入で賄わなければならない。
同じく、病気やケガ等で収入が減少した場合のリスクや備えは、購入前に検討しておく必要がある。

 最後の3つ目は「女性特有のリスク」である。社会で活躍する女性が増えてきたとはいえ、相対的に男性よりも女性のほうが収入は低く、会社での立場も脆弱なことが多い。仮に、マイホーム購入後に結婚した場合、居住地や勤務状況などライフプランが配偶者次第で変わってしまうことも多々あるのが現状だ。

 実際には、結婚後に妻が購入したマンションに住むことになり、夫がこれまで住んでいたマンションが空き家になった、というケースも少なくないが、その場合も世帯全体としてダブルローンを抱えるリスクは残る。

●高齢になると賃貸が借りられなくなるのはホント?

 このように、シングル女性がマイホームを購入する場合、これらの三層構造になったリスクをクリアできるかどうかをよく考えてほしい。

 別段、シングル女性はマイホームを買うべきではないなどと言うつもりはない。ただ、銀行の住宅ローン担当者から、無理な住宅ローンを組んで、個人破産やローンが債務不履行(デフォルト)に陥るシングル女性のケースが増えており、審査も厳しくなっているとも聞いている。

 ちなみに、高齢になると賃貸が借りられなくなるから持ち家のほうが安心ということに関しては、状況は変わりつつある点も知っておきたい。

 そもそも、その理由として挙げられるのは、賃貸マンションなどを借りる場合、年金以外の定期的な収入を持つ、近隣に居住する保証人が必要なことがほとんどで、高齢になると保証人を確保するのが難しいからだ。しかし、最近では保証人の代わりに保証会社を利用できる物件も増えている。そもそも、これからの日本社会は高齢者が今以上に増えるわけだから、「高齢だから貸せない」なんて言っていると誰も借り手がいなくなってしまう。


 おそらく今後、住まいを借りる際により重視されるのは、給与であれ年金であれ、キャッシュフローがあるか否かだろう。シングル女性が将来に不安を感じ、確実な安心感を求めてマイホームを購入するのなら、本当にそれが真の心の拠りどころとなるのかをよく考えてほしい。
(文=黒田尚子/ファイナンシャルプランナー)

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