野村ホールディングス(HD)と米投資ファンドのカーライル・グループが、共同で国内ビール5位のオリオンビールを買収する。野村HDの子会社、野村キャピタル・パートナーズ(NCAP)と米カーライル・グループが出資する買収目的会社オーシャン・ホールディングスが、オリオンに対するTOB(株式公開買い付け)を実施。
株式の取得後にオリオンの嘉手苅義男会長や役職者がオーシャンに出資することでMBO(自社買収)の形式を取る。オリオンはオーシャンの傘下に組み込まれる。
オリオンの筆頭株主で10%の株を保有するアサヒビールも、TOBに応じる方針。その後、オーシャンに10%程度出資し、資本関係を維持する。沖縄県外でのオリオン商品の販売連携も継続する。
買収完了後のオリオンの取締役は10~11人で、NCAPとカーライルがそれぞれ3人ずつ、オリオンが3~4人となり、アサヒビールから社外取締役1人を迎え入れる。野村HDとカーライルによる経営は5年程度で完了する予定で、新規株式公開(IPO)も視野に入れている。
●高齢化した株主が株式の現金化を要求
沖縄を代表する企業であるオリオンのM&A(合併・買収)の背景には、何があるのか。
地元、琉球新報電子版(1月23日付)は、同日行われたオリオンの與那嶺清社長の記者会見を速報した。
「会見に出席した亀田浩取締役は、MBOの必要性としてビールの消費量減少や消費者ニーズの多様化など事業環境が変化していること、株主の高齢化に伴い金銭化などを求める流動化需要が出てきたことなどを上げて、『野村キャピタル・パートナーズとカーライルは一緒に汗をかいてくれるパートナー。
オリオンをファンド連合に売却する本当の意図がはっきりと語られている。高齢化した株主たちからの株式の現金化を求める声にこたえるために、野村・カーライル連合の資金に頼ったということだ。
オリオンの株主数は599人のうち543人が個人(18年3月末現在)。所有株主数の割合は48%。非上場なので市場では売れない。高齢化した株主が現金化を求めるのも無理はない。そこでファンド連合への売却で資金をつくることにしたわけだ。
オリオンビールの創立者は故具志堅宗精氏。米国統治下で宮古民政府知事を務めた後、1957年に沖縄ビール(現オリオンビール)を創立した。戦後の沖縄財界四天王の1人だ。
社名のオリオンはオリオン座が由来で、一般公募で選ばれた。賞金は1等1万B円。
1959年に初めてオリオンビールを販売し、主力商品「オリオンドラフト」「いちばん桜」などのほか、沖縄特産「さんぴん茶」などの清涼飲料水も生産している。
2018年3月期の連結決算の売上高は前期比1%増の283億円、当期利益は同17%減の23億円。18年のビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の課税済み国内出荷量は354万ケース(1ケース大瓶20本換算)で、市場シェアは0.9%だった。
●復帰特別措置法の廃止を見越した動き
オリオンビールの最大の経営課題は、復帰特別措置法の撤廃問題だ。1972年、沖縄県が本土に復帰するにあたり、地場産業の保護と育成を目的に設定された。特別措置法に基づき、期限付きで沖縄県内のみで酒税が減免される優遇措置がとられた。
優遇税率は5年間の時限措置だったが、延長が繰り返されてきた。現在も県内出荷分を対象に酒税の20%を軽減している。
これがオリオンに有利に働いた。
優遇措置が撤廃され、本土のメーカーと同じ税率となったらどうなるか。価格を2割引き上げざるを得ない。そうなれば売り上げはパタリと止まり、オリオンビールは淘汰される可能性が高い。これがオリオンの最重要な経営課題だった。
2002年、オリオンとアサヒビールが提携したのは、初代沖縄開発長官を務めた山中貞則氏が、措置法が切れた後に、オリオンの後ろ盾になるようアサヒを仲介したことによる。
オリオンはすぐれて政治案件だ。措置法は時限のため期限が近づくたびに地元財界は政府に延長を求めてきた。
地元紙の沖縄タイムス電子版(2018年7月6日付)は、「沖縄県議会(新里米吉議長)は6日の6月定例会最終本会議で、2019年5月に期限を迎える酒税軽減措置の延長を求める意見書案を全会一致で可決した。
酒税軽減措置法は5年ごとに延長を続けたが、17年5月から2年に短縮された。19年5月に期限を迎える前に、地元政財界の要請により19年度の与党税制改正大綱に、酒税軽減措置の2年の延長が盛り込まれた。
しかし、いつまでも措置法の延長を続けることはできない。今回のM&Aは、撤廃を見越した動きといえる。個人株主は、ファンド連合に株式を売却して現金を手に入れる。筆頭株主のアサヒにとっても、渡りに船だ。オリオンの経営の面倒を見なくて済む。
野村HD・カーライル連合は酒税軽減措置の撤廃後、ババを掴むことになるのか。それとも秘策はあるのか。
(文=編集部)