●50代のもうひとつの課題、借金を片付ける

 筆者は拙著『50代のいま、やっておくべきお金のこと 新版』(ダイヤモンド社)で、50代が老後に備えるためのテーマは7つある、とお話ししている。

(1)貯める……やみくもに貯めるのではなく、プランをつくって計画的に貯める
(2)働く……60歳、65歳以降もペースを落として、楽しく長く働く
(3)住宅ローン……65歳以前に払い終えるため、いろいろ工夫する
(4)生命保険……死亡保障は削り、医療保障は充実させる 
(5)子どものお金……子どもにお金をかけすぎないことがポイント
(6)投資……増やすためでなく、守るためにも投資は必須
(7)健康……長い人生を楽しみ、長く働くために、健康に投資する。



 最近、ここにもうひとつ加えるべき、とても大切な項目に気がついた。

(8) 借金問題を片付ける

●どんどん増えるカードローン残高

 お金の相談、ファイナンシャル・プランニングの相談に来る方には、貯金や資産がたっぷりあって運用の相談に来る方もある一方で、カードローンなどを借りてその返済で貯金ができなかったり、返済できなくなって相談に来る方もある。

 消費者ローンの会社に借り入れに行かなくても、銀行やクレジットカード会社から簡単に借り入れができるようになったおかげで、ローン問題で苦しむ人はとても増えている。

 たとえば銀行のカードローン残高は、2008年3月の3兆3,451億円から2018年には5兆8,186億円と2兆5000億円ほど増えている。日本の人口1億2000万人のうち、ローンの借り入れができる人の割合をざっと50%の6000万人とすると、ひとり当たり10万円近くのカードローン残高があることになる。このほかに、クレジットカード会社や消費者金融のローンもあることを考えると、おそろしい。

●借金問題の引き金はリボ払い

 ローンの相談は年代を問わずにある。ほとんどの悩みに共通しているのは、借入残高が増えるきっかけになったのが「リボルビング返済」だったということ。「リボ払い」と呼ばれる返済方法だ。

 クレジットカードの代金やカードローンの返済方法には、大きく3つの方法がある。一括払い、分割払い、リボ払いだ。

1.一括払い:買い物代金や、借入代金を締め日の翌月に一回で払う方法。
利息はつかない。いちばん健全。

2.分割払い:買い物代や借入金額を、支払う回数を6回や12回などと決めて払う。スマートフォン購入代金の支払いはこの方式。金利は回数が多くなるほど高くなる。12 %から15%が主流。分割払いを複数利用すると、毎月の返済額が増えることになるが、それが利用の歯止めになる。

3.リボ払い:利用代金の残高に応じて、返済額が決まる。たとえば残高10万円~20万円だと返済額月1万円(+利息)など。金利が高く返済額が小さいので、毎月の返済額はほとんど利息の返済にあてられ、残高がなかなか減らない。返済し終える前に、追加で買い物や借入ができるので、利用残高がどんどん膨らんでいく。歯止めがなくとても危険。
気がつくと限度額まで借り入れていることも多い。金利は15%前後が主流。

 最初は一括払いで利用していた人が、使いすぎたり、収入が減ったりして返済が苦しくなり、返済をリボ払いに切り替えて、残高が膨らんでしまうケースが多い。若い世代では、クレジットカードの支払いはリボ払いが一般的だと誤解していて、最初からリボ払いを使う人も少なくない。
 
 また、リボ払いを利用すると商品やキャッシュに替えられるポイントが多く貯まるため、こちらを選ぶ人もいる。おそろしい。

●50代の借金問題は20代、30代より深刻

 前述のように、借金問題のご相談は年代を問わずに受けるが、年齢が高くなるほど深刻になる。収入が高い分、借入額が大きく膨らんでいることが多いのと、やり直しがききにくいためだ。

 住宅ローンは金利が低く(現在1%前後)期間が20~30年と長いので、年収の4倍借りても無理なく返済できる。しかし、カードローンは金利が高く(15%前後なので、住宅ローンの15倍以上!)期間も数年と短いので、がんばっても自力で返済できるのは、年収の3分の1くらいまでとされる。

 年収300万円の人のカードローンの残高が100万円になると、返済期間3年として毎月4万円くらい返すことになる。これではまず貯金できないから、返してまた借りるという繰り返しになりやすい。
借金がこれ以上に膨らむと、司法書士や弁護士に相談して、債務整理や自己破産せざるを得なくなる。債務整理や自己破産をすると、その後5年はクレジットカードが使えず、つくれず、住宅ローンなども借りられない。しかし、20代や30代なら債務整理でローンを払い終え、5年間じっと我慢して生活を立て直し、人生をやり直すのは難しくない(弊社は生活や支出を見直し、再出発のお手伝いもしています)。

 しかし、年収1000万円以上の50代だとこうはいかない。年収が高いため、カードローン残高が500万円に膨らむこともある。すると1年に払う利息だけで75万円。毎月の返済額は10万円を超え、家賃や住宅ローンに匹敵するが、この返済方法では、返しても返しても残高はほとんど減らない。

 年収1000万円でも貯金がないから、大きな買い物や予定外の出費は、カードで払わざるを得ない。ローン残高は減らず、年120万円以上の返済を半永久的に続けることになる。ここにさらに車のローンや教育ローンが加わることも珍しくない。退職して収入が半減すると、返せなくなることは目に見えている。

 退職前でも、子どもの大学の入学金が必要とか、引っ越すことになった、何かの事情で出費が増えた、収入が減ったということになると、まったく回らなくなる。
しかし、社会的ステータスが高いため、簡単に自己破産や債務整理はできない、したくない。追い詰められる。

 では、そんな50代は借金の問題を解決するのにどうしたらいいだろう。

 次回じっくり考えていこう。もし、この問題を抱えている読者がいたら、今できることは、絶対にこれ以上借入を増やさないこと。すぐに専門家に相談すること。次回は、ふくらんだ借金にどう対応するかを考えていこう。

(文=中村芳子/アルファアンドアソシエイツ代表、ファイナンシャルプランナー)

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