1月7日、新たに出国税が開始された。今般、日本には訪日外国人観光客(インバウンド)が急増。
そうした思惑が複雑に絡み、主にインバウンド客から徴収する出国税が創設された。ちなみに、出国税は国籍を問わずに徴収されるので、日本人でも出国時に外国人と同額の1000円が課税される。
出国税がスタートしても、インバウンドは今後も増加すると予測されている。政府の試算では、出国税は年間で500億円規模になるとされている。この500億円は、観光インフラの整備に充てられる。
一方、インバウンドを迎え入れる各地の観光地では、2015年前後に社会現象化した爆買い中国人のインパクトが大きく、さらなる増加を歓迎する向きが強い。国内の観光地や観光産業がインバウンドに期待を寄せるのは、ひとえに国内旅行需要の減少に歯止めがかからないことが大きい。観光業界はあの手この手で国内需要の喚起を図ったが、成果は出ていない。そのため、海外需要を取り込む策にシフトする。
そうしたなかで出国税がスタートし、その影響でインバウンドの減少も懸念されている。また、最近は中国の経済成長に陰りが見え始めており、観光を基幹産業に位置付けている地方自治体では中国人観光客一辺倒の観光戦略を見直しする機運も出てきている。
●人口増加政策
京都府は早くから中国人観光客はおろかインバウンドに依存しない観光地づくりを始めている。悠久の歴史を有する京都は、寺社仏閣をはじめとする観光資源を豊富に抱える。そうした余裕から、あまり観光プロモーションには力を入れていない。それどころか、「最近では観光客が増えすぎた弊害で、市民からの苦情が増えている」と京都府幹部職員は明かす。
とはいえ、それは寺社仏閣が点在し、黙っていても観光客が押し寄せる京都市に限った話にすぎない。観光資源が豊富な京都市はともかく、日本海側に面した舞鶴市や宮津市、京丹後市などは京都市から遠く、また交通アクセスも決していいとはいえない。こうした自治体も観光客誘致に力を入れているが、外国人観光客の誘致を高らかに謳うことはない。前出の京都府幹部職員は言う。
「京都府内には、4つのDMO(デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション=行政・地元経済界・旅行業界・マスコミが連携した地域の観光資源を発掘・宣伝する法人組織)があります。
一方、観光コンテンツが乏しい地方都市では、いまだインバウンドをターゲットに据える向きは強い。特に、地方都市は中国人観光客の呼び込みに必死だ。もはや国内市場では中国人観光客を取り合う状況になっており、いわば中国人観光客市場はレッドオーシャンにあたる。
そんなレッドオーシャンになりつつあっても、地方は中国人観光客の呼び込みに力を入れ続ける。それは、先にも触れたように爆買い中国人のインパクトが強かったからだ。本来、観光客層が変われば、飲食やお土産品の売れ筋はガラリと変わる。観光地や地元自治体・観光協会などは販売戦略の見直しを迫られる。しかし、東京や大阪などとは異なり、地方の観光地は目まぐるしく変わる観光需要に対応できる体制になっていないのだ。
目先のインバウンドを追わない京都の観光戦略は、絶対王者・京都だからこその発想だろう。観光資源が乏しく、「どうすれば足を運んでもらえるのか」「地元産業を活性化させるためには、どんな観光戦略を打ち出したらいいのか」と苦悶している地方自治体には不可能な芸当だ。いつまでも中国人観光客が日本を訪れてくれるとは限らない。あくまでも、インバウンドは水モノ。先行きは不透明だ。
観光業界の潮目は変わりつつある。インバウンドに依存しない京都の観光戦略は、地に足の着いた政策といえる。果たして、追随する自治体は出てくるのだろうか。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)