西東京、東久留米、清瀬3市のごみ処理を行う一部事務組合「柳泉園組合」が民間企業と締結した長期包括運営委託契約(以下、長期包括契約)では、その契約内容に大規模改修工事が含まれることが隠されていた。これまでの経過を詳しく検証した結果、その問題点は以下の通り。
入札手続きが公正に進められず、官民癒着による不正の疑いがある大規模改修工事(設備機器の全面的な更新)が必要性の調査すら行われず、長期包括契約のなかに含まれている。
従来ならば、これらは自治体の基本的な運用にかかわることであり、議会等でチェックされるのだが、長期包括契約がある意味でオブラートになり、問題を分りにくくさせてきたと考えられる。
自治体が長期包括契約を進める直接の動機は、コストが安くなるためだと説明されるが、前回記事で指摘したとおり、かえって自治体の負担を増やすことは明らかだ。
では、なぜ環境省や関連財団法人などが推奨するのか。
柳泉園組合における長期包括契約では官民癒着という不正が明らかになったが、今全国で進められようとしている長期包括契約では、法律上の問題はないのだろうか。また、長期包括契約によってごみ処理の民営化を図ることは、焼却炉メーカーによる自治体の囲い込みにつながり、結局は、堤未果さんが『日本が売られる』(幻冬舎)で指摘する強欲国際資本にごみの処理を売り渡すことにならないかをみていきたい。
●委託契約のなかに大規模改修工事を潜り込ませる違法行為
柳泉園組合の件では、官民癒着の下に入札手続きを進めてきた問題のほか、工事契約を含む契約を委託契約のなかに含めるという違法行為が行われていた。建設業法では、工事契約は請負契約でなければならないとされる。
柳泉園組合の長期包括契約で進められた委託契約では、行為の遂行が求められる。たとえば、ごみの収集委託に、地域の収集拠点や各戸に行き、ごみを集め、清掃工場に運ぶ。焼却炉の運転管理の委託では、ピットのごみをクレーンで掴み、焼却炉に投入して一定温度で焼却する等、一定期間内での行為の遂行が求められる。遂行したかどうかの事実確認は、善意の観点で推し量られる。
ところが工事契約等の請負契約は、受注事業者は、求められる成果物に対しての責任を負うことになる。発注する自治体が契約プランを設計図に描き、求める完成形を示し、それに対して応札する事業者が、いかに安く、要件に合致する成果物を提供できるかが、入札で争われる。もし要求される成果物に瑕疵が見つかった時には、賠償すら要求される。したがって工事を委託契約で扱うことはできない。
長期包括契約の実施自治体のなかには、柳泉園組合のように大規模改修工事まで含める事例はないと考えられるが、運営管理と補修工事を一体で契約するケースは見受けられる。その場合は、運営管理の上でトラブルが発生し、それを解決するために補修まで含め契約するというかたちになっている。
しかし、委託契約のなかに、成果物への責任が問題となる工事まで含めてしまうと、その受託事業者に工事の必要性や工事内容、工事金額まで委ねることになり、明らかに自治体としては違法な丸投げ委託になる。
ところが、柳泉園組合の契約では、長期包括契約のなかに大規模改修工事を包含させていた。柳泉園組合は違法性を意識していたためか、当初、議会での説明では工事契約を含むことを隠して説明し、委託契約であるために議会の了解は必要ないと説明してきていた。
●助役を処分し「議会承認はいらない」を取り消す
17年4月20日、柳泉園組合は長期包括契約の議会承認を行うとし、臨時議会を開催した。開催理由を、長期包括契約の契約にあたって弁護士に相談したところ、「議会承認が必要」となったと説明した。そして、これまで議会の承認は必要ないと説明してきた本件契約の責任者である助役の減給処分を行い、議会承認を獲った。
本件について住民らが行政訴訟に踏み切り、長期包括契約の是非が具体的に論議されることになり、慌てて契約手続き上の問題・瑕疵を修正する必要に迫られたとみられる。
柳泉園組合の例規によれば、「請負工事契約は、1億5000万円以上は、議会承認を得ること」が明記されているが、本件長期包括契約では、これを委託契約として説明し、入札手続きを進めてきたことを考えた時、16年8月の入札公告に遡り、契約手続きをやり直す必要があった。17年4月の時点になって、議会に諮ればすまされる話ではない。振り返って点検しても、以下の点が指摘できる。
・入札公告時点で、大規模改修工事と、運転管理や維持管理等の管理業務の入札を分けて呼びかける必要があった。
・その際、工事契約を呼びかけるなら、改修工事の必要性を調査し、改修箇所を示す必要があった。
・工事契約を実施するにあたっては、改修箇所の設計図や工程表を示し、求められる工事内容を示す必要があった。これらは欠落し、委託予定の事業者に成果物のイメージを説明させ、その評価を行っていた。
このように、入札のやり直しが必要であったにもかかわらず、助役を処分するだけですまされてしまった。この工事契約を委託契約の中に潜り込ませた問題に加え、債務負担行為を構成自治体でも財務処理しなければならない問題もあった。
●「債務負担行為」
自治体の予算は単年度主義が原則だが、15年の長期にわたる契約は、当該年度以降も事業者に契約金を払い続ける約束をすることになる。後年度にわたり支払いを続けることを予算上も明記する場合、いわゆる「債務負担行為」として後年度負担分の会計処理をすることが必要になる。
この原則に基づき、柳泉園組合は一部事務組合として、債務負担行為の予算処理はしていたが、本件契約に示された百数十億円の歳出に見合う歳入をどのように確保するのかという点については、構成3市の分担金の割合なども決めていなかった。さらに、構成市での「債務負担行為」の予算処理も行われていなかったのである。
現在、進行中の住民訴訟では、原告住民がこの点を問題としたことに対して、被告側は、柳泉園組合が予算措置すれば、構成市は、その義務費として分担金で支払わなければならないから、構成市の会計処理がなくとも構わないと説明している。自治体の独立性を無視する乱暴な主張である。
実際、原告の一人である森輝雄議員が西東京市の財務担当者に確かめると、構成市は債務負担行為を会計処理していないため、後年度負担分についての支払い義務はないと説明し、柳泉園組合の説明とは180度相反している。つまり柳泉園組合は、支払い根拠のない予算を予算化していたといえる。自治体の会計原則からすれば、歳入と歳出を等しく会計処理しておく必要があったが、明らかに自治法上の違反行為といえる。
結局、一部事務組合の柳泉園組合のように日常の運営資金を構成市の分担金で賄うところでは、債務負担行為は構成市でも行う必要があったが、なされていなかった。
●巨大焼却炉メーカーに譲渡される日本のごみ処理
堤さんは『日本が売られる』で、国民の生活や命を守るための国や地方自治体の資産が、外国の強欲資本、ハゲタカ資本に売られようとしている現状を訴えたが、筆者は、日本のごみ処理の観点からその動きを検証した。
基礎自治体である市町村が持つごみ処理の権限が、PFI等の民営化によって、そして国際的な巨大資本ならぬ巨大焼却炉メーカーによって、権限の譲渡が図られている実態を見てきた。そこから窺える事実は、民営化によって民間の活力やアイデアを生かすというものではなく、国や自治体からお金を引き出すことをめぐる利権が生まれていたということだった。
実例として取り上げた柳泉園組合で行われようとしていた長期包括契約という民営化は、下記の問題があることをみてきた。
1.特定企業の落札をターゲットにした不正な入札制限が行われ、
2.入札事業が開始した時には、消滅している事業体の入札を認め
3.大規模改修事業の必要性を問うことなく70~80億円の工事を計画し
4.工事契約を請負契約とせず、議会承認をオミットしようとし、
5.総合評価一般競争入札と言いながら、応札企業の提案内容を隠し、議事録すらとっていなかった。
6.構成市の分担金の後年度負担の会計処理、債務負担行為を行わず内容論議を行わなかった。
柳泉園組合における長期包括契約という民営化は、自治体が民間の力を借りて、効率よく、より安く事業を進めるという建前とは、まったく正反対の事態である。官民癒着の下、法令無視の不正行為が進んでいたことがわかった。このような民営化を進める行政の陰には、国や地方自治体の役人たちが自らの天下り先の確保のために、自治体を食い物にしている動きが見えてきた。
一般廃棄物、一般ごみの処理は自治体が担ってきた。英国のサッチャー政権が進めた新自由主義的なPFI法が日本でも取り入れられ、公設民営化や民設民営化が進められてきたが、そのなかでも長期包括契約が注目を集めてきている。
すでに取り入れている自治体では、批判的に検証されている実例は少ないが、本シリーズから見えてきたのは、長期包括契約の下で出資・分担する構成自治体にとっての利点がまったく検討されていないという事態だ。そこでは自治法上で定められた競争入札の原則が適当にもてあそばれ、情報の公開や公正・公明に進めるべき原則も蔑ろにされていた。
柳泉園組合の例でいえば、現在の焼却炉を建設した焼却炉メーカーである住友重機械工業株式会社の影響力の下、その関連会社への利便を図ることがすべてに優先され、巨額の税金無駄遣いがなされていた。その住友重機械工業は京都市での溶融炉の導入をめぐって京都市から訴えられ、153億円の和解金の支払いに応じたという。
柳泉園組合での長期包括契約問題と同時期、そして契約金もほぼ同額の金額であり、柳泉園組合での契約がその穴埋めであったとしたら、構成市の住民は目も当てられない。繰り返しになるが、自治体にとって極めて重要な一般廃棄物の処理が、焼却炉メーカーに巨額のお金をつけるように売却されていたのである。
もちろんこのような違法・不法な譲渡は、司法の下でチェックされるべきである。また、このような不正な手段で事業を展開すれば、その企業体は自らの技術革新や開発を怠ることになる。公正な競争力を蓄えることはできない。競争力を失った日本の焼却炉プラントメーカーは、国際的なハゲタカ資本に飲み込まれていくのであろう。改めて問われるのは、住民が核になって、自治権を守る闘いと住民参加型の街づくり、自治体づくりである。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)