ゴーストタウン化する東京の高級住宅街…富裕層は厄介な広い一軒家より都心タワマンへ

 田園調布やたまプラーザ、成城学園、ときわ台といった東京圏で人気を誇っていたかつての高級住宅街が危機に瀕している。

 高度経済成長が終わっても、日本では持ち家神話は根強く残っていた。高級住宅街に家を構えるのは夢のまた夢で、一般庶民がマイホームを持つには土地の安い郊外しかない。そのために通勤圏は際限なく拡大した。

 郊外化が進行してもなお、かねてより高級住宅街とされてきた街は手堅い人気を保ってきたが、ここ10年で人気に陰りが出た。もっと正確に言えば衰退、そして消滅の危機に瀕しているといっても過言ではない。

 これまでの高級住宅街に居を構える富裕層は、普段から付き合いのある近所の老舗に出前を頼んだり、食べに行くというライフスタイルだった。日用品の買い物も自宅まで届けてもらう、御用聞き・配達が当たり前だった。しかし、そうしたライフスタイルは崩壊。その背景にあるのが、老舗の後継者難だ。事業承継がスムーズにできなかったことにより、個人経営の老舗は次々と消えた。また、老朽化した店舗を改装しようにも銀行が個人事業主に貸し渋るというキャッシュフロー的な問題もある。

 こうした重層的な事情から、高級住宅街の住民が頼りにしていた個人商店は消失。代わって企業経営型のファミリーレストランやファストフード、コンビニエンスストアといったチェーン系店舗が幅をきかせる。

 一昔前なら、住宅街での24時間営業の店舗や大型店舗は出店規制が強く、また派手な看板を出せないよう屋外広告規制もあった。このほど建築基準法が改正され、今後は規制緩和が一気に進む。住宅街でも大型店が出店できるようになる。閑静な住宅街に24時間営業のコンビニがオープンすれば、当然ながら周囲の住民は出入りする客や搬入のトラックによる騒音・振動・光害の影響を受けざるを得ない。コンビニは生活するうえで便利な存在で、もはや生活インフラ化している。しかし、家の隣にコンビニが出店するとなれば話は違う。穏やかな生活環境が脅かされる危険性が高いのだ。

●ガストもマクドナルドも立地

 高級住宅街は住民組織が強く、住民からの反対もあってコンビニの出店は容易ではなかった。また、家一軒の規模が大きい高級住宅街では、出店しても徒歩圏の居住者が少ない。居住者が少なければ、必然的に来店者数は少ない。来店者が少なければ、売上も期待できない。採算面からも、高級住宅街はコンビニが出店しづらかった。

 しかし、時代は変わった。いまや高級住宅街の住民も高齢化。若年層の新住民と意見対立することも増え、頑なに守ってきた高級住宅街の秩序を保てない。

「住民の高齢化、もっと言えば街の老化によって高級住宅街にもチェーン系の店舗が跋扈するようになった。高級住宅街でも、ガストやマクドナルドが立地するようになり、これまで誇りにしていた街の風格もなくなった」と嘆くのは、東京都内のまちづくり団体理事長だ。

 高級住宅街は家の前に広い庭を設けたり、門と玄関の間に緑を植えたりすることが一種のステイタスになっている。そうしたルールは明文化されていなかったものの、住民間では暗黙の了解として受け継がれてきた。しかし、世代交代が進み、そうした暗黙の了解は自然に崩壊。建蔽率ギリギリまで家を建てる住民が増えた。

 建蔽率とは、土地面積全体において住戸が占める可能な面積の割合をいう。例えば100平方メートルの土地で建蔽率70パーセントなら、70平方メートルの家を建てることが可能だ。しかし、住宅地では建蔽率が低く抑えられているうえ、高級住宅街では住民組織の地域ルールにより、建蔽率の上限目いっぱいまで家を建てることもはばかられる。

「建蔽率の上限いっぱいまで家屋を建てると、街に窮屈な雰囲気を漂わせてしまいます。また、街の風景に不似合いなブロック塀も街の調和を乱す原因です。住民組織としては、住宅街の雰囲気を保つために、生け垣を巡らしたり庭に植物を植えるといったルールも守ってもらうようにお願いしています。しかし、明文化しても『知らない』『勝手に決めるな』『自分の家なんだから、自由にさせろ』と突っぱねられるケースが増えています。以前とは異なり、住民同士のコミュニケーションが欠乏しているのです」(同)

●厄介者扱いされる広い一軒家

 高級住宅街が高級住宅街でいられるのは、個々の家屋だけによるものではない。公共インフラである道路や公園も、街並みに品を醸し出し、高級住宅街の格を上げている。しかし、そうした近隣の公園や街路樹でも、落葉の掃除や虫の駆除といった手間・費用面から忌避される傾向が強まり、高級住宅街で緑は減少している。

 そして、高級住宅街を悩ましているのが遺産相続の問題だ。今般、大きな邸宅は遺産相続で手に余る物件と見なされるようになった。高級住宅街の邸宅は高額になるため、莫大な相続税も悩みの種だ。物件を取り扱う不動産会社からも、敷地面積の広い家は売り手がつきにくく、厄介者扱いされる。

「現在、不動産業界は広大な敷地を細分化して、できるだけ多く住宅を建てるのが主流になっています。広大な一軒家なんて、欲しがる人は稀です」(不動産業界関係者)

 土地の細分化は、街の雑多感を加速させる。そうした土地の細分化を防ぐルールを設定している高級住宅街の住民組織もあるが、それでも「細分化を防ぐと言っても、時代の流れもあって昔ほど下限制限は厳しくない」(同)としている。

 いくら手段を講じても、高級住宅街の衰退に歯止めがかからない。今般、富裕層は都心部のタワーマンションを好む傾向が強い。わざわざ都心から遠く、閑静な街の広大な一軒家に住もうとする酔狂な者はいない。

 バブル期には誰もが憧れた高級住宅街でも、空き家が目立ち始めた。もう高級住宅街に憧れる時代ではない。高級住宅街がゴーストタウンに転落するのも時間の問題だろう。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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