3月17日付当サイト記事『ツタヤ図書館、虚偽広告調査中に和歌山市が「15億円」運営委託決定か…異例の短期間で選定』において、レンタル大手TSUTAYAが消費者庁から1億1753万円の課徴金納付命令を出されたが、その背後で起こっていた疑惑について検証した。

 今回は、その背景に迫っていきたい。



 同社の動画配信サービスにおいて、あたかも全作品が見放題であるかのごとく宣伝していたのは事実とは異なる、すなわち「虚偽」であると消費者庁によって明確に認定されたわけだが、それにしても驚かされるのは、課徴金の額が極めて大きいことだ。

 下の表は、過去2年間の間に、消費者庁から虚偽広告(優良誤認、有利誤認)で課徴金を課せられた主なケースを一覧にしたものである。ちなみに、措置命令のみで課徴金なしのケースは入れていない。

 2017年と18年の2年間で、課徴金が1億円を超えたケースはたった2件しかない。そのうちの1件がTSUTAYAで、これが最高額である。

●景品表示法違反で課徴金納付命令を受けた最近の主な事例
※課徴金納付命令日、会社名、対象商品、違反種別、課徴金額、措置命令日

【2018年度】

19年3月1日、エー・ピーカンパニー、「チキン南蛮」及び「月見つくね」、優良誤認、981万円、18年5月22日

19年2月22日、TSUTAYA、動画配信サービス「TSUTAYA TV」等、優良誤認・有利誤認、1億1753万円、18年5月30日

18年10月31日、シエル、「めっちゃたっぷりフルーツ青汁」、優良誤認・有利誤認、1億886万円、18年10月31日

18年10月26日、Life Leaf、「ファティーボ(食品)」、優良誤認、266万円、18年7月25日

18年10月25日、言歩木、「山野草醗酵酵素ブルーベリーDX」(飲料)、優良誤認、1814万円 18年10月25日

18年10月19日、DMM.com及びUPQ、「DMM.make 50インチ 4Kディスプレイ」・「DMM.make 65インチ 4Kディスプレイ」、優良誤認、1704万円、18年3月29日

18年10月5日、SAKLIKIT、「CC+DOWN LEGGINGS」(下着)、優良誤認、255万円、17年12月14日

18年10月5日、ギミック・パターン、「エクスレッグスリマー」(ストッキング)等、優良誤認・有利誤認、8480万円、18年3月26日(東京都措置命令)

18年6月29日、ARS、「電気の110番 救急車」・「クラピタル」等の役務、優良誤認、4988万円、17年11月2日

18年6月15日、ブレインハーツ、「グリーンシェイパー」(食品)・「恋白美スキンソープ」(石けん)・「Smart Leg」(下着)等、優良誤認・有利誤認、2229万円、18年6月15日

【17年度】

18年3月28日、日本教育クリエイト、「介護職員初任者研修」「実務者研修」「医療事務通学講座」等、有利誤認、5105万円、17年5月19日

18年3月28日、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、「パズル&ドラゴンズ」(オンラインゲーム)、優良誤認・有利誤認、5020万円、7月19日

18年3月23日、プラスワン・マーケティング、「FREETEL SIM」(移動体通信役務)、優良誤認・有利誤認、8824万円、17年4月21日

17年6月14日(※7月21日一部変更)、三菱自動車・日産自動車、eKワゴン・デイズ等、優良誤認、三菱:4億8507万円→453万円→368万円・日産:317万円、17年1月27日

17年6月7日、日本サプリメント、「ペプチドエースつぶタイプ」(錠剤状180粒入りの食品)、優良誤認、2398万円、17年2月14日

●TSUTAYA、不正行為による売り上げは39億円か

 このなかでもっとも有名な事例は、17年6月に燃費偽装で課徴金納付命令が出された三菱自動車のケースだろう。

 当初、消費者庁は4億8507万円もの課徴金納付命令を出していたが、同社が違反行為を自主報告していたことや、損害を被った顧客への返金計画を実施したことなどが考慮されて、最終的に368万円まで減額されている。

 三菱自動車がこの不祥事をきっかけに、事実上、ルノー・日産グループの傘下に入るまでに凋落したことと比べると、TSUTAYAは当局に「悪質な行為」と認定されていたにもかかわらず、それほど大きな打撃を受けたようにはみえない。ちなみに、TSUTAYAは課徴金納付命令が出された後、すぐに謝罪コメントを発表したが、親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は、筆者の知る限り、いまだにこの件に関してコメントを出していない。

 TSUTAYAに対する世間的な非難が三菱自動車ほど厳しくなかったのは、ひとえに措置命令が出た時点では、悪質かどうかの判断がつかなかったためだろう。

 実は、筆者もそのひとりで、広告にありがちな派手な表現が違反認定されたのだろうととらえていたのだが、発表された課徴金が高額なのに驚き、詳しく調べてみて、意図的ともとれるその悪質性に気づいた。

 先の表中に記載した措置命令が出てから、課徴金納付命令が出るまでの期間にも注目したい。
課徴金納付命令は、措置命令と同時に出るケースもある。3~5カ月程度のケースもある。

 課徴金の額が大きい場合、措置命令との期間が短いほど世間の目も厳しくなるが、逆に課徴金納付命令が措置命令から半年以上あとになると、世間がそろそろ忘れかけた頃に、その“量刑”が判明することになるため、悪評はそれほど広まらないといえる。

 今回のTSUTAYAのケースでは、18年5月30日に措置命令が出ているが、課徴金納付命令が出る19年2月22日までに、9カ月近くもあいている。

 この間に、違反事業者による弁明や実施予定の返金計画が提出されたりした結果、課徴金が減額されるケースもあるが、今回のTSUTAYAの場合は、消費者庁の発表を見る限り、減額された形跡はなかった。

 消費者庁によれば、この段階でも弁明の機会は設けられたうえで、課徴金の算定根拠となる売上額は、事業者から報告を受けるという。そのため、事業者側が粘り強く交渉したりすれば、数カ月判断が延びることもあるようだ。

 ちなみに、課徴金は「対象行為にかかわる売上額の3%」とされていることから、逆算すれば、同社がこの不正行為によって得た売り上げは、39億1766万円と推定される。

●TSUTAYAの不正とツタヤ図書館の共通点

 ある図書館関係者は、TSUTAYAレンタル事業の不祥事の根っこにあるのは、実態とかけ離れたイメージ先行の宣伝手法であり、それは同社が運営する「ツタヤ図書館」で起きた事件にも通じると指摘する。

「CCCは本業のレンタル部門でも、あちこちの図書館で行った『くず本』購入と同じことをやっているように見えます。それは、古い低価格のコンテンツを、新しいものも入っているように見せかけて、売っていたようなところです。課徴金は売上額のわずか3%ですから、これでは“騙し得”ではないでしょうか」

 確かに「もし発覚しても売上高の3%を払えばいい」と開き直り、法律違反を犯してでも、派手に宣伝して“客を集めたもん勝ち”と考える私企業が次々と出てくるのは、防ぎようがないのかもしれない。
しかし、それが公務を受託して税金から補助金をもらう企業となれば、責任の重さはまるで違ってくる。

 CCCは、各地の公共図書館の運営においても、違法スレスレの行為に手を染めている。とりわけ、15年9月に発覚した佐賀県武雄市の“古本騒動”は、まだ記憶に新しい。

 武雄市図書館が13年に新装開館する際、運営を受託したCCCが、追加蔵書として2万冊を1958万円で購入するとして予算を計上していたが、実際に購入したのは756万円分だったことが発覚した。差額の1200万円については、「館内の安全対策に使った」とあとから釈明したが、同社が自らの利益にするつもりだったのではないかとの疑念の声が多くあがった。

 さらに、開示された選書リストを見ると、当時CCCの傘下にあった古本専門業者が大量に扱うような中古本ばかりだった。10年以上前の資格ガイドブック、ウインドウズ98の解説本をはじめ、佐賀県の図書館での必要性が疑問視される埼玉ラーメンマップや浦和レッズの応援本なども含まれていたことが話題になった。

 同様の古本騒動は、その後に新装開館した神奈川県海老名市宮城県多賀城市の図書館でも起きた。そのため、CCCは「図書館にとっての基本機能をないがしろにしている」と批判する図書館関係者も少なくない。

●ツタヤ図書館でも“優良誤認”か

 CCCが指定管理者となって運営している図書館についてアピールする際、「来館者数」や「市民アンケート調査結果」「運営経費削減効果」などが用いられるが、これらについても“優良誤認”が疑われる要素が多い。

 たとえば、ツタヤ図書館の嚆矢である武雄市図書館・歴史資料館では、新装開館の初年度に来館者数が92万人に達したと報じられたが、専門家のなかには、その数字に疑義を呈する人が少なくない。

 元広島女学院大学准教授の田井郁久雄氏もそのひとりだ。
同氏は、出版界の通信記事を掲載する旬刊誌「出版ニュース」(出版ニュース社/2月下旬号)の記事『マスコミの図書館報道を検証する』のなかで、武雄市図書館に対する報道について、次のように厳しく批判している。

「武雄市図書館の来館者数は、図書館、蔦屋書店、スターバックスで構成される施設全体の来館者数で、図書館(単体)の来館者数ではない。図書館資料の貸出者数は16.8万人で、来館者数の18%であり、80%以上は貸出を受けていない。商業スペースの利用のほうがはるかに多くて、図書館はむしろ蔦屋書店をひきたてる役割だったが、92万人という数字は一人歩きして、いまだに『ツタヤ図書館』のPRに役立っている」

「ツタヤ図書館になって利用者は3.7倍に増加」などとメディアでは報じられたが、増えた来館者の大半は、図書館を利用しに来たのではなく、新しい建物を物見遊山で見物し、コーヒーを飲んで帰っただけというのが実態だ。図書館として利用した人の数は、驚くほど少ないという。

 田井氏は17年10月、隣接地にこども図書館が開館した後の同館の年間貸出数と運営費などの関係を、こう分析している。

「本館のみの貸出数は、5年めにして改装前の旧図書館を下回っているのがわかる。(中略)貸出点数はこども図書館を合わせた数字でもすでに改装前のレベル近くまで落ちているが、その一方、指定管理料と図書館費は大きく跳ね上がっている」

 図書館の利用状況は低迷する一方で、運営にかかる費用は激増しているわけだ。それにもかかわらず、メディアはこうした事実を報じることなく、「斬新なデザインと、にぎわい創出が高く評価されたが、不適切な本の購入など、資料収集に問題があった」とステレオタイプな記事ばかり出して、問題を矮小化していると、田井氏は批判する。

 また、田井氏は言及していないが、CCCの社員が恣意的に入館者を選んで、対面で行う「利用者アンケート」には、“ツタヤ化”された図書館に嫌気がさして利用しなくなった市民の声は一切反映されていない。館内の斬新なデザインに関しても、高層書架の上部には、多額の税金で調達した中身が空洞のダミー本を大量に設置している。つまり、見た目だけを重視するもので、これも批判が多い。


 また、CCCが展開するTカードに関して最近、裁判所の令状なく捜査機関に対して会員情報を提供していることが話題になったが、個人情報漏洩リスクの大きさに比して、図書館利用者にとって目に見えるメリットがほとんどない。それにもかかわらず、図書館利用カードとされたことで、システム改修などに巨額の税金が投入されていることを疑問視する向きも少なくない。

 CCCが運営しているツタヤ図書館では、そうした「優良誤認」が疑われるアピールポイントは、枚挙に暇がないほどである。

 CCCに図書館運営を委託している自治体は、TSUTAYAの広告が優良誤認として違法認定されたことを重く受け止めて、事実に基づかない表現を即刻辞めさせるべきである。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

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