4月11日に行われたアメリカのドナルド・トランプ大統領と韓国の文在寅大統領による米韓首脳会談は、約2分で終了するという結果になった。30分間のうち27分を記者会見に費やし、肝心の会談は2分程度で終わったようだが、通訳に要する時間を考えれば、ほぼあいさつのみで中身のないものであったと考えるのが妥当だろう。
これは、米韓のスタンスの違いが明確であることを浮き彫りにした。そもそも、会談に先立ちアメリカ側は高官から「北朝鮮への制裁緩和の話をするのであれば来なくてもいい」という旨の発言があり、実現自体が危ぶまれていたものの、韓国側が押しかけるかたちで実施された。しかし、高官級協議において韓国が制裁緩和を要求したため、交渉が決裂したものと見られている。
また、高官級協議では、当初のマイク・ポンペオ国務長官、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に加え、ハリー・ハリス駐韓米国大使、スティーブン・ビーガン北朝鮮政策特別代表、マシュー・ポッティンジャー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、アリソン・フッカーNSC朝鮮部長も同席しており、韓国に強い圧力をかけたと思われる。
朝鮮半島の南北問題は民族問題や経済問題ではなく、アメリカと同盟国の安全保障の問題である。北朝鮮はアメリカ本土に到達するミサイル・核の開発を進めており、アメリカの直接的な敵国となっている。それは、日本を含めアメリカの核の傘に入っている同盟国も同様だ。この点において、韓国の行動はアメリカの安全保障を直接的に脅かすものであり、アメリカはその意思を伝えるために、安全保障関連の高官と駐韓大使を同席させたのではないだろうか。
文政権は北朝鮮への配慮からアメリカとの合同軍事演習の中止を進めており、日米との連携を切り捨てる方向に進んでいる。これは、朝鮮半島の安全を守り続けてきたアメリカと、それを支援してきた日本に対する最大の裏切り行為であり、もはや侮辱行為といっても過言ではない。ハリス駐韓大使は「米韓同盟は確固として維持されているが、当然視してはいけない」と異例の寄稿を行い、アメリカ政府高官は「アメリカが朝鮮半島を離れるとき、韓国は焦土化する」と発言しており、経済的な協力関係の全面白紙化も示唆している。
●金正恩が「出しゃばりな仲裁者」と非難
一方、北朝鮮側も韓国への態度を硬化させており、いわば韓国の切り捨てを始めている。
それどころか、2回目の米朝首脳会談が失敗に終わった原因が、そもそも韓国にあるという見方も強い。会談前に仲介役を買って出ていた韓国は、アメリカには「北朝鮮が核の完全廃絶を認めた」と、北朝鮮には「アメリカは制裁緩和の意思がある」と、お互いに都合のいいことを伝え、結果的に米朝間の見解の相違を生み出し、会談を失敗に導いたとされているのだ。
いずれにせよ、文大統領は自ら支援した臨時政府100周年記念式典への参加を見送り、専用機で約14時間かけてワシントンに出向いたわりには、なんの成果もなく帰国することになった。屈辱的な冷遇といえる。
実は、あまり報じられていないが、アメリカ側は露骨ともいえる慇懃無礼な対応を行った。27分間の記者会見であるが、決して重要な事柄だけを述べていたわけではない。報道陣からの質問に答えるかたちでゴルフのマスターズ・トーナメントの優勝者を予想し、トランプ大統領はタイガー・ウッズなど有力選手について饒舌に答えていたのだ。
筆者は、この質問をアメリカ政権側と記者の出来レースであると見ている。米朝会談失敗後、韓国はアメリカに対して首脳会談の開催を繰り返し懇願した。
韓国は米朝双方から圧力をかけられ板挟み状態であることに加え、日本との関係も冷え込んでいる。昨年来、徴用工や従軍慰安婦の問題が蒸し返され、韓国側に対日関係を改善する意思が見えないことから、安倍晋三首相は6月の20カ国・地域(G20)首脳会合の際に文大統領との個別会談を見送る方向で検討しているという。
経済が低迷していることに加え、南北融和も雲行きが怪しくなってきたことから、文大統領の支持率は就任後最低の41%(韓国ギャラップ調べ)を記録している。それだけに、今回の米韓首脳会談で巻き返しを図りたいところだったが、空振りに終わり、文大統領は窮地に追い込まれている。
(文=渡邉哲也/経済評論家)