4月16日の東京株式市場で、貸会議室大手のティーケーピー(TKP)の株価が一時、前日比700円(18.8%)高の4425円を付けた。その後も株価は急騰し、5月28日には年初来高値の5700円まで上昇した。
年初来安値3115円(2月8日)と比較すると、1.8倍になった計算だ。
TKPは4月15日、シェアオフィス・リージャスを展開するスイスのシェアオフィス世界大手IWGの日本法人の買収を発表した。買収額は約500億円。アナリストは「TKPの本業である貸会議室と親和性が高く、成長が見込めるシェアオフィス事業を加速できる」と評価した。業容拡大への期待から買いが集まった。
シェアオフィスとは家具や電話、インターネット環境など、ビジネスに必要な設備をあらかじめ備えた貸事務所をいう。一般に月額会員制で、図書館のような「コワーキングスペース」と呼ぶオープンスペースになっている。事務所スペースや会議室を共有しながら、独立して仕事をする共働のワークスタイルだ。
IWGは1989年の設立で、スイスに本部を置き、世界約120カ国で約3000拠点を運営する。日本には98年に進出し、約145カ所を構える。主力のリージャスのほか、高価格帯のSPACESを運営する。
TKPが買収するのはIWGの日本法人、日本リージャスホールディングスだ。
国内の拠点を引き継ぐほか、各ブランドを使って出店するライセンス契約も結んだ。買収額500億円は、TKPの河野貴輝社長にとって大きな決断だった。
●大塚家具の支援に乗り出す
TKPは2017年3月27日に東証マザーズへ上場したばかりのベンチャー企業だ。河野氏は慶應義塾大学商学部を卒業して伊藤忠商事に入社。為替や債券のディーラーを務め、日本オンライン証券(現カブドットコム証券)の設立にも携わった。その後、起業して05年8月、TKPを設立した。
貸会議室はすき間を狙ったビジネスといわれている。物件は保有せず、借りた部屋を改装して転貸するというビジネスモデルで、競争相手のいない分野だった。そのため短期間で最大手にのし上がり、いまや直営会議室2000超を運営している。
17年11月、経営が悪化していた大塚家具と資本業務提携を結んだことでTKPの知名度が上がった。10億円で第三者割当増資を引き受け、大塚家具の発行済み株式の6.65%を保有する大株主になった。大塚家具の売り場の縮小に伴って空いたスペースを、貸会議室やイベントホールへと変えていった。
18年夏以降、大塚家具の身売り話が持ち上がり、TKPも“受け皿”のひとつとして取り沙汰されたが、河野氏は「追加出資はしない」と、これを否定した。規模の大きい赤字企業の大塚家具を買収することは、株主に説明がつかず、リスクが高すぎると判断した。
●大塚家具株の評価損を計上し減益に
19年2月期の連結決算の売上高は前期比23.8%増の355億円、経常利益は26.6%増の40億円と増収増益だったが、当期純利益は8.6%減の18億円となった。
企業が採用活動や社員研修のために長時間会議室を利用するケースが増え、貸会議室の稼働率や単価が上がったたことで2ケタの経常増益。しかし、大塚家具の株価が大幅に下落したため、8億2100万円の株式評価損を計上し、最終減益となった。
20年2月期の連結決算の売上高は19年同期比18.8%増の422億円、経常利益は43.6%増の57億円と、5期連続で過去最高を更新する見込み。空室のあるオフィスビルへの出店を進め、時間貸しに加えて短・中期の需要を掘り起こす。当期利益は、大塚家具株式の評価損がなくなることから、73%増の32億円と好転するとみている。
大塚家具株の保有比率は6.65%から4.55%に減少した。大塚家具との資本提携は解消する方向だ。
●飲食など付帯サービスで稼ぐ
TKPが進出するシェアオフィス市場は急成長中だ。米国の不動産サービス大手JLLが18年12月にまとめた東京におけるオフィス市場分析によると、東京都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷)のシェアオフィスは、13年以降に増加。
18年末には床面積が15万6000平方メートルと、前年比48%増えた。19年は20%増、20年はさらに30%増と予測している。
成長市場だけあって新規参入が相次ぐ。ソフトバンクグループが出資する米ウィーワークは18年に日本へ進出し、東京都心の優良ビルに相次ぎ拠点を開設した。三井不動産、三菱地所、東急不動産などの不動産大手も参入した。
通常のオフィスであれば、法人テナントが一度入居すれば中長期的に賃料収入が見込めるが、個人が相手のシェアオフィスは月額会員の入れ替わりが激しく収益が安定しない。
TKPはなぜ、シェアオフィスに参入するのか。時間貸しの貸会議室の運営で“儲けるノウハウ”を会得したからだ。
実は、TKPは貸会議室以外で稼いでいる。19年2月期の室料収入は176億円。全売り上げ(355億円)に占める割合は49.6%だ。17年2月期の57.6%、18年同期は51.8%と、年々低下し、19年同期は50%を切った。
料飲が20.5%、宿泊が11.4%など室料以外の付加サービスの比率を高め、収益源としている。
シェアオフィスでも、貸会議室の運営で培った弁当の提供や宿泊などのサービスで稼ぐつもりなのだ。
500億円の大きな買い物の採算を、どうやってとるのか。また、何年で投資を回収するつもりなのか。河野氏の腕の見せどころだ。
(文=編集部)
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