国会議員秘書歴20年以上の神澤志万です。

 6月6日、衆議院本会議で丸山穂高議員に対する「糾弾決議」の採決が行われ、「全会一致」で可決されました。

「戦争」発言や「女を買いたい」発言に加えて、“新潮砲”がロシア人幼女へのセクハラ問題も報じており、もう目も当てられません。それでも、本人は辞職の意向はないようです。

 7日現在、丸山議員の事務所は閉まっていて、電話もつながらない状態です。日本維新の会の関係者も誰も連絡できないようです。でも、なぜか議院運営委員会の委員部の職員だけは丸山議員の秘書と連絡が取れているようで、今はみんなに頼られまくっているのですが、それもおかしな話です。議運の高市早苗委員長ですら秘書にも会えないのに、普段は目立たない立場の職員が対応に追われているのは、永田町的には「ウケる」という感じです。いずれにしても、丸山議員の対応は国民には「無責任」としか映りませんよね。

 糾弾決議では、自民党の小泉進次郎議員が採決を棄権したことが注目されました。丸山議員をかばうつもりはなく、「進退を決めるのは有権者」という判断からだそうです。日刊スポーツは、本会議後の小泉議員の会見をこう伝えています。

「(こういう問題が出てくるから)『選挙、政治って大事なんだ、だから、政治家の言葉は大事なんだ』ということが、国民に届くこと。参院選がもうすぐあるなあ、そのときはしっかり選ぼうと。
そう考えていただく機会にすることが私は一番大事だと思います」

 モテるわけですね、小泉議員。カッコよすぎですが、確かに永田町では毎日のように選挙が話題になっています。参議院議員選挙とともに総選挙があるのでしょうか。正直、衆議院議員の事務所は与野党を問わず、衆参ダブル選挙はしたくないです。

 しかし、解散は総理大臣の専権事項ですから、まず情報は出てきません。神澤も秘書歴だけは長いので、地元の党支部などの関係者から毎日のようにメールや電話で「実際はどうなの? 神澤さんなら聞いてるでしょ?」と聞かれますが、本当にわからないのです。

 もちろん、秘書たちもアンテナは張っています。もっとも注目しているのは、やっぱり与党議員の動きですね。選挙用ポスターのデザイン発注や臨時総会の開催、有力な秘書の地元入りなどの動きを察知しては、みんなで情報交換をしています。選挙用ポスターは重要なので、党によっては「ポスター印刷費用」として交付金が出たりすることもあります。こういう各党の動きは見逃せません。

 次に重要なのは、国会対策委員会の動きです。
与野党の国対委員長の発言は特に重要です。解散総選挙についてストレートに言うことはないですが、たとえば国会の会期延長は選挙に直接関係してきますからね。今国会も、延長が決まれば解散総選挙の可能性が一気に高まるといわれています。

 その延長の可能性を左右すると見られていたのが、いわゆるスーパーシティ法案(国家戦略特区法改正案)です。片山さつき内閣府特命大臣は以前から法案成立に意欲を見せていましたが、6日の朝になって「今国会での成立は困難」と報道されました。同法案が審議入りすると「国会延長→解散」の可能性が高くなるところだったので、国会女子たちはひとまずホッとしました。

 でも、実は少し前に自民党の国対方面からすごい情報が入っていたんです。「特区改正法案を提出したとしても、片山大臣だし、成立させなくてもいい。したがって、国会も延長はしない」というのです。要するに、「片山大臣がうるさいから顔を立てて提出はするが、今国会での成立にはこだわらない」というわけです。これは片山大臣が軽く見られていることの証でもあり、ちょっと驚きましたが、実際にそうなってしまいそうです。

 永田町の住人たちは、こういう情報を集めては一喜一憂しているのです。


●あまのじゃくな安倍首相が吹かす“解散風”

 今のところ、神澤の予想はズバリ「総選挙はある。準備を進めよ!」です。永田町では、よく「常在戦場」と言われます。長岡藩の家訓としても知られますが、いつあるかわからない総選挙を意識しつつ、日頃の政治活動を行うべし、ということです。

 一方で、腹をくくって与野党の衆議院議員や候補予定者が猛スピードで選挙の準備を始めたら、あまのじゃくな安倍晋三首相は、かえって解散しないという判断をすると思っています。

「2017年10月の総選挙から2年もたっていないんだから、今回はなし」というのは正論なのですが、そう思って準備を怠っていると、痛い目に遭うかもしれません。

 たとえば、05年8月のいわゆる「郵政解散」は誰も想定していませんでした。小泉純一郎首相は「郵政民営化法案が参議院で否決されれば、自分は衆議院を解散して国民の信を問う」と明言していたのですが、当時は「小泉さんがひとりだけイキがっている」と思われていたのです。議員会館の雰囲気も、本気で選挙に備えているようには感じられませんでした。

 でも、忘れもしません。解散した8月8日は暑い日だったのに、議員会館に足を一歩踏み入れた瞬間、あまりの“空気の変化”に背筋が凍る思いがしたのです。

「しまった! 小泉さんは本気だ、解散だ!」と気づいたのですが、もう遅かったですね。
9月11日の「郵政選挙」では、事前の予想を大きく覆して自民党の圧勝となりました。

 小泉首相は、郵政民営化法案に異を唱えた議員の選挙区に「刺客」と呼ばれる候補を送り、造反議員の大半が落選しました。準備不足だった野党は軒並み議席を減らし、特に民主党は「結党以来最大の大敗」と言われました。全国の選挙区に候補者を出していた共産党でさえ、25の選挙区で出馬見送りに追い込まれています。

 まぁ、あの頃「刺客」や「小泉チルドレン」と呼ばれた方たちの現在を思うと微妙なところですが、「料亭に行きてー」発言が話題になった杉村太蔵さんはタレントとして今もご活躍のようです。

 でも、今回は解散の大義名分にあたる事案がないのも事実ですし、仮に総選挙が行われても、選挙後の議席にはそんなに大きな変化はないと思いませんか?

 衆議院の6月現在の与党(自民党・公明党)の議席は312議席で、総数465議席の3分の2である310議席を超えています。しかも、主な野党の立憲民主党と国民民主党がいがみあっているのですから、共倒れになる選挙区も増えそうで、野党の議席はさらに減るかもしれません。与党にとっては議席が劇的に増えるわけではないし、お金と時間ばかりかかるため、今回は総選挙のメリットがない気もします。

 もちろん、野党にダメージを与えることと、「総選挙で国民の信を得た」として、さらに強行に政策を進めることはできますけどね。

●アントニオ猪木議員、不出馬報道の裏側

 それにしても、野党は6月に入ってようやく参院選の公認候補者を発表しています。

「今さら発表して間に合うのかな?」と冷ややかな目で見ていますが、アントニオ猪木議員の動向がスポーツ紙などで取り沙汰されているのはおもしろいですね。6月7日には、猪木議員が不出馬を明言したことを朝日新聞が伝えました。


「年を考えてください、よぼよぼだ」とも述べたそうですが、政界引退については明言しなかったそうで、これも意味がわかりません。記者たちの噂では、本人より“愛人出身の奥様”が国会にご執心のようですが、どうなのでしょう? 実際に不出馬かどうかは、まだわからないと思います。政界とは、そういう世界なんです。いちいち報道するマスコミもどうかと思いますけどね。

 また、新党大地の鈴木宗男代表は食道がんの手術を無事に終え、参院選に意欲を示しています。まだ政党を明言しないところにベテランの選挙戦略が垣間見えますね。神澤としては、かねてより噂のある日本維新の会から出馬してほしいと思っていますが、どうなるのでしょうか。

 ちなみに、本人にはなんの連絡もないのに出馬予定が発表されるケースもありました。知人たちからの問い合わせで自分の名前が新聞に出ていることを知り、発表から5日を経ても、まだ正式な連絡がなかったそうです。この記事が出る頃にはどうなっているのか、楽しみです。

 参院選は都道府県単位で比例区は全国が選挙区ですから、幅広い選挙戦略を立てなければなりません。ポスターやチラシ、ハガキの準備、演説会場の手配はもちろん、ウグイス嬢などスタッフさんの確保も大変です。
それなのに今さら候補を決めるって、どうなっているのでしょうね。

 一方で、すでに選挙カー(街頭演説カー)の取り合いは始まっています。レンタカー会社には問い合わせが相次ぎ、統一地方選挙のときのようにピーク時の価格を提示しても契約が成立していっているそうです。

 また、ウグイス嬢の手配やポスター用紙の確保の依頼をしている事務所も増えています。選挙ポスターの掲示方法やサイズなどは公職選挙法で決められていて、雨に強い特殊な用紙を使用するため、総選挙で一気に注文を受けると在庫がなくなってしまうこともあるのです。

 また、拡声器に使う単一乾電池が店頭から消えてしまうこともあります。今のうちから大量に購入してストックしておくというのも、ベテラン秘書の腕の見せどころです。

 さらに、選挙事務所の契約も頭の痛い話です。短期間の契約自体が難しい上に、選挙事務所となれば人や車の出入りが多いので、近隣のみなさまの理解がないと契約に至らないことも多いのです。

 また、参議院には「1人区」の問題もあります。定数2人・改選数1人の選挙区で、全国に32あります。この1人区で確実に勝つために、与党も参院選に集中したいと考えているはずです。まぁ、大きな選挙前は、あっちでもこっちでも混乱します。これも、永田町の“選挙あるある”のひとつなのです。
(文=神澤志万/国会議員秘書)

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