多数の犠牲者を出した東京・池袋、福岡市、神戸市の事故など、アクセルとブレーキペダルの踏み間違えと思われる大事故がゴールデンウィーク前後から相次いだ。昨年も千葉県で74歳の女性が運転する乗用車が誤操作でスーパーに突っ込んだ。

「踏み違い事故」は高齢者の割合が4割ほどで、高齢者運転の増加で再び顕著になった。

 国土交通省によればセンサーやカメラで周囲の障害物を感知し、アクセルを誤って踏んだとコンピューターが判断すれば出力を抑え急発進させない「抑制装置」の新車への装着率は、2017年で65.2パーセント。同省は今年4月、抑制装置の正しい扱いを呼びかける啓発ビデオをYouTube上に投稿し、表示や警報音が出たらペダルから足を離してブレーキを踏むことを訴えた。また、装置は踏切内で遮断機に反応して止まってしまうことがあり、アクセルを踏み続けることで解除、発進し、脱出できると説明する。しかし、車によって作動条件がバラバラであるため取り扱い説明書の熟読を求めている。

 こんなことをしなくてはいけないのは電子制御だからだ。何かあるごとに機能を付け足さなくてはならないし、電子制御である限り誤作動も皆無にはならない。
  
●注目されるナルセ機材のワンペダル

 もっとシンプルにすべきではないか。たとえば発進の場合、ブレーキは一度の踏み込みで作動しても、アクセルは二度踏まないと作動しないようにすればいい。急ブレーキの必要はあっても急発進は必要ない。

 そんななか、踏み間違い問題を「アナログ、ローテク構造」で解決し、手持ちの車にも取り付けられるのが「ナルセ機材」(熊本県玉名市)が開発した「ワンペダル」だ。ペダルはブレーキの1つしかない。
つま先を右へ倒すとアクセルになる。アクセルをかけたままでも、踏めばアクセルが外れてブレーキがかかり反応も速い。開発者の鳴瀬益幸社長(85歳)は「以前、踏み間違いで怖い思いをした。アクセルもブレーキも動作が同じだからこうなる」と強調するがその通りだ。筆者は10年ほど前までスバルの「フォレスター」に乗っていたが、アクセルとブレーキのペダルの位置が他車よりも接近しており「踏み間違えそうだ」と懸念していた。
  
 ワンペダルは20万円弱だが玉名市では取り付けに補助が出るし、NHKの『クローズアップ現代』などでも紹介された。しかし、「トヨタの系列会社も調査には来ても本社で採用されないなど、メーカーの反応は鈍い」と同社長も嘆いていた。

 ところが、最近の事故多発で注目が集まっている。

「開発から28年になりますが、今回の事故多発で注目されたのか、注文がかなり増えています。岡山県美咲町など補助を出す自治体も出てきました。東京も検討しているようです」(同社の荒田晃慎氏)

 6月7日に筆者が同社に電話した時も鳴瀬社長は取材応対中だった。
   
●そもそも原因はオートマ車の普及

 踏み違いの根本原因はオートマチック車だからだ。
マニュアル車はクラッチ操作があり発進にも手間がかかる上、クラッチを切らずにアクセルを踏めばエンストする。しかしオートマチックは発進が「ワン動作」で誤操作しやすい上、D(ドライブ)ではエンジンと駆動輪はつながるためアクセルを踏まなくともブレーキを離していると動き出す。これに慌ててブレーキと間違えてアクセルを踏むことも多い。

 筆者は停車時、N(ニュートラル)に入れてサイドギアも引く。ニュートラルではわずかな傾斜でも滑り出すからだ。普段、クラッチ操作の必要な大型バイクに乗るのでこうした癖があるのと、ドライブではニュートラルよりガソリンを消費する気がするからだ。もちろん、エンジンを切ってしまうことも多い。

 とはいえ乗用車のオートマチックは大昔から普及している。バスやトラックはマニュアル車が多かったがバス会社や運送会社が最近の運転手不足からオートマチック車に換えつつあることも、神戸市の事故などの原因だとみられる。

「坂道発進が難しい」「エンストする」などでマニュアル車運転が苦手な人も多く、国はかなり前にオートマチック車運転に限定した免許証をつくった。「マニュアル車が運転できない人に免許などやるな」と思ったものだが、要は「車を売らんかな」優先が招いた「積み残し課題」でもある。

●「訴訟恐れ」のハイテク優先   

 ナルセ機材の荒田氏は、「踏み違い事故はマニュアル車からオートマ車になる頃に多発した。
その頃に、クラッチが消えたスペースを使ってブレーキとアクセルを離すなど対策がとれたはず」と振り返る。

 国交省やメーカーがローテクよりハイテクを優先することについて荒田氏は「電子制御をメーカーが進めたがるのは、多種類の車に装備でき量産できるから。ワンペダルは車の形状に合わせなくてはならず、受注生産に近くなってしまうのです」と話す。

 一方、香川県在住の自動車事故鑑定人の石川和夫氏は「2つのペダルを踏み分けて真逆の働きをさせる構造を今さら変えれば、『今まで何をしていたのか』という批判や、運転ミスとされた人から構造欠陥と訴訟を起こされるのをメーカーは恐れているのです。コンピューターなどを使う開発なら産官学に広がるため国は歓迎するのでしょう」と指摘する。

「自動車が発明されて100年以上たつのに、アクセルとブレーキは進化してなかったようですね」との荒田氏の言葉は印象的だ。国やメーカーは「高齢者」を強調する前にすべきことがあったはずではないか。
(文=粟野仁雄/ジャーナリスト)

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