5月24日に「食品ロス削減推進法」が成立した。食品ロスの削減は、目新しいことではなく、2013年から官民協力による国民運動として「NO―FOODLOSSプロジェクト」がスタートしている。
もったいないということで、以前から気になっているのがテレビ番組だ。筆者は食の安全、食品表示、食品偽装等の専門家として、テレビ番組等のマスコミに出演したり、取材を受けることが多い。
10年以上前のことだが、地方ローカル局の午後から夕方にかけての生番組に出演したことがあった。ゲストコメンテーターとして、不定期だったが数回出演する機会があった。私は、出演する時間が終わっても「視聴者からの質問があるかもしれないので、エンディングの前まで残っていてほしい」とスタッフから言われていたので、いつもは控室で待っていた。ある時、スタジオの様子も見ておきたいと思い、スタジオの隅で待っていたことがあった。
エンディングの前は、地元の料理専門家が出演する料理コーナーだった。コーナーが終わった後、料理専門家の方がスタジオの隅にいる私を見つけて「先生、今つくった料理を食べていただけませんか?」と声をかけてきた。声をかけられてビックリしたが、「すみません。新幹線の時間があるので、すぐに帰らなければならないので食べている時間がありません。申し訳ありません」と断ると、その方は「せっかくつくったのに、皆忙しいようで、誰にも食べていただけないんですよね」と残念そうに話されていた。
その時、私の担当スタッフが駆け寄ってきて「今日は質問なかったので、これで結構です。タクシー来ていますから、玄関までお送りします」と言うので、私は、料理専門家の方に「申し訳ありません。これで失礼します」と挨拶をして、スタジオをあとにした。
料理番組を見ていて「つくった料理は食べているのか? 捨てているのか?」と、気になるのは私だけではないだろう。料理番組やバラエティ番組のなかで料理する時間は、つくり始めてから完成するまで非常に短い。そのため、途中で「あらかじめ煮込んでおいた、タレにつけておいた、揚げておいた、電子レンジで10分温めた」といったつくり置き(下ごしらえ)の半調理食材を、途中から使うことが多い。それまで料理していた食材を下げ、半調理した食材を使ってさらに料理を続け完成させる。
一度の料理に、同じ材料が2回、3回と使われることもある。完成した料理はもちろんだが、完成途中のつくり置きした食材や最終調理食材と交換された半調理済み食材は、番組終了後食べられているのだろうか。
半調理済み食材は、最終調理までしなければ食べられない。番組収録が終わった後で調理されて食べられているのだろうか。それとも、完成した料理や半調理食材は、誰かが持ち帰って食べているのだろうか。
そこで提案なのだが、少なくとも半調理食材(下ごしらえ、つくり置き食材)をつくらない方法で番組を制作してはどうだろう。収録番組なのに、調理してから完成まで、ノンストップでカメラを回していることがある。
海外の料理番組では見かけるが、調理時間がかかるところは、カメラを回さずに調理をする。その部分はカットして、半調理された食材そのものを使って料理をするところから放送する。完成させるまで、食材は通して使う。交換はしない。時間がかかる調理段階が何回かあっても、その都度、30分でも1時間でも調理をして、調理をしたあとから再度カメラを回して制作する。収録なのだから、多少時間がかかっても、余分な食材を使わないで料理を完成させるという方法はとれないのだろうか。
収録番組であれば、そうした編集をしても「食材を使いきることを優先する」という姿勢であれば、視聴者には受け入れられるはずだ。カメラマンやスタッフの拘束時間が長くなるが、半調理している間は誰かが拘束されているのだ。
●旅番組で飲食店に残された料理
もうひとつ気になるのが、散歩や短い旅番組での「飲食店での食事」だ。一日に、あるいはもっと短時間に何軒もの飲食店に立ち寄って食事をすることが多い。
食べるよりトークが主になるのは仕方ないが、出演者が料理を少し食べただけでほとんど手つかずのこともある。しかも、残したまま席を立って次の場所に向かうという場面もよく見かける。料理を残したまま、席を立って店を出るまで、カメラを止めることなく、次の目的地に向かう姿を映している。
店を出ると、カメラクルーが2~3組いて、それをさらに別角度からとらえている場面もある。それを見ていると、大勢のスタッフが出演者と共に店を後にしていると想像できる。残った料理は、誰が食べているのだろうかと気になって仕方がない。ときどき「スタッフみんなで全部食べました」といったナレーションが入ることもあるが、そうなると「ナレーションを入れていない場合は食べていないのか」と疑ってしまう。ほとんどのスタッフが出演者と行動を共にし、ごく一部のスタッフが店に残って、出演者が食べ残した料理を食べているのだろうか。そうであれば「スタッフが残って、ちゃんと食べていますよ」ということを伝えてほしい。
これも料理番組と同じだが、録画なのだから次に行くことを最優先しないで、店で提供された料理を食べ終わってから、出演者もスタッフも出発すればよい。誰が食べるにしても「完食しましたよ」ということを視聴者に伝えるべきではないだろうか。
●「もったいない」はテレビから実践してほしい
生番組でも気になることがある。今は、生番組で日本中の名産品や和菓子、洋菓子などを紹介している。その際、実物を取り寄せてスタジオの出演者に食べさせることがある。出演者が、一口だけ食べて皿をテーブルに戻す。そのままテーブルごと下げられ、次のコーナーに移るという様子が映し出されることがある。
それを見ていると、一口食べて残されたものを誰が食べているのだろうと気になる。生放送中である。スタッフが、裏で残された食べものを食べている余裕はないだろう。ましてや、出演者がスプーンで一口食べ、そのスプーンが置かれた皿にあるケーキを食べたいだろうか。それでも、もったいないからといって、番組が終わってから、みんなで残りものを食べているのだろうか。
視聴者には商品は別撮りで紹介するのだから、出演者には、生放送で食べられる分量だけを皿に盛るべきだ。特に、コーナー進行者には食べさせないほうがいい。
食品ロスを削減する国民運動が、法律で推進されることになった。「もったいない」は、影響力が大きいテレビだからこそ率先してほしいものだ。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)