女性向けファッション誌「ViVi」(講談社)と、自由民主党とのタイアップらしき企画が話題を集めている。6月10日、同誌の公式Twitterアカウントが「みんなはどんな世の中にしたい?」と問いかけ、それに対するアンサーに「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」という2つのハッシュタグをつけてツイートすると、メッセージ入りオリジナルTシャツが抽選で当たる──という大胆過ぎるプレゼント企画を告知したのである。



 ファッション誌が特定の政党とコラボをするというのは極めて異例。これに対しSNSなどでは批判的な見解が一気に拡散。大手メディアまでも報道するに至り、例えば毎日新聞は、「ViVi、自民党とのネット広告で批判殺到 『機関誌になったのか』『Tシャツより年金を』」という見出しで記事化した。

 この企画のメインビジュアルは、7名の女性モデルが横一列に並んだ写真で、公式サイトにはほかに、彼女たちそれぞれの「どんな世の中にしたいか」が掲載されている。

 しかしこの7名、藤田ニコル(21)、八木アリサ(23)といった「ViVi model」と呼ばれる同誌の顔的な専属モデルではない。彼女たちは「ViVi girl」なる、“ViVi公認インフルエンサー”という位置づけのプロ・アマのモデルたちなのだ。同誌の公式サイトには49名の「ViVi girl」が掲載されており、そのメンバーは普段、Instagramなどで特定の商品の情報などを発信している。

●読モらを従え、センターに立つ元Berryz工房メンバー

 当該企画に登場した7名は、芸能プロに属するモデルなどもいるが、ほとんどが事務所に属していないアマ(読モ、インスタグラマー)ばかり。だが、そこに1名のみ、輝かしいキャリアを誇る人物が紛れているのである。

 その人物とは、かつてハロー!プロジェクトに属し、Berryz工房、Buono! という2つのグループで活動していた夏焼雅(26)。彼女は現在、PINK CRES.という新しい3人組ユニットに所属し、この5月にファーストシングルをリリースしたばかり。NHK紅白歌合戦』(2007年)への出場歴もあり、さいたまスーパーアリーナや日本武道館でコンサートを行った実績もある。
2002年に9歳でアイドル活動を始め、すでにキャリア17年目の大ベテランなのだ。7名のなかで彼女がセンターに立っているが、実績的にはそれが当然だろう。

 ただし、自民党であろうと共産党であろうと、政党とのコラボ企画に登場というのは、SNSでコスメやファッションアイテムを紹介するのとはわけが違う。特定の政治団体のカラーがつくというのは今後の芸能活動に支障をきたす可能性も考えられ、夏焼のキャリアを考えれば、敬遠してもよさそうなものだが……。

 いささか不可解ではあるが、芸能界の慣例から考えても、彼女が起用された事情が今後、明らかになることはないだろう。

 ちなみに、「ViVigirl」には、NMB48AKB48の現役メンバーである渋谷凪咲(22)も名を連ねているが、この企画には参加していない。

●【01】政治家になったアイドル、第1号は三原じゅん子・参議院議員

 日本の芸能史上、アイドルが政治にかかわるのは、もちろんこれが初めてではない。
 政治家を目指し立候補する、政治的な発言をする、モデルとして政党の広報活動にかかわる……等々、段階はいろいろだが、ここではそれら諸々をひっくるめて、“アイドルと政治の接近”について、過去の例を振り返ってみたい。

 まずは、政治家になったアイドルについて。

 古くは山口淑子(故人)、扇千景(86)から、現職では蓮舫(51)まで、芸能活動歴のある女性政治家は少なくない。だが、歌って踊る狭義の“アイドル”出身の政治家が誕生したのは意外に最近のこと。第1号はおそらく三原じゅん子(54)だろう。


 かつては、同期デビュー(1980年)の松田聖子(57)と、“ぶりっ子の聖子か、ツッパリの順子(当時)か” と対比される存在で、1982年には『紅白歌合戦』への出場歴もある彼女は、2010年の参院選に自民党から比例区で出馬し当選。2015年の選挙では神奈川県選挙区に転出となるが、またも当選。現在2期目である。

 これに続いたのが今井絵理子(35)だ。SPEEDのメンバーとして1990年代にミリオンセラーを連発、ドームツアーを成功させるなど、アイドルとしては三原以上の成功者といえる。彼女は、2016年の参院選に自民党公認で比例区より立候補し、当選している。

 この2名よりネームバリューはかなり劣るが、東京大学文学部卒業という学歴を誇り、アイドルグループ「仮面女子」のメンバー「桜雪」として活動していた橋本侑樹も、今は政治家である。彼女は、この4月の統一地方選に立候補し、渋谷区議となっている。

●【02】政治活動をしたアイドル、ラストアイドルが実は政権批判?

 政治的発言をするアイドルというのはなかなか見当たらない。選挙の際、タレントが立候補者の応援演説に立つということはまれにあるが、アイドル活動をしているタレントがそれをやることはまずない。

 ただし、具体的に政治的活動をした元アイドルとしては、かつては“電脳アイドル”と呼ばれ、実業家に転向した千葉麗子(44)がいる。彼女は、東日本大震災をきっかけに反原発運動に参加するが、その過程で市民活動家たちの思想、言動に疑問を感じたようで、「パヨクは時代遅れ」と批判し決別。
その後、保守派に転向して活動している。

 また、『ViVi』の版元である講談社主催のオーディション「ミスiD 2016」出身の町田彩夏(23)は、「政治アイドル」と称し、「政治を語ることをタブーから日常にすることが夢です」と表明している。ただ、アイドルといっても歌ったり演じたりではなく、「政治アイドル」として問題提起をするなどが活動の中心。就職活動中に受けたセクハラについて実名で告発するなどもしている。

 ほかに、政治的活動を明確に行ったグループアイドルも存在した。「制服向上委員会」である。このグループは、2010年頃から「反原発」「反TTP」「反自民党」のメッセージソングを歌ったり、政治色が強いイベントに参加するなどしていた。どちらかというと社民党や共産党とつながりが深く、両党の機関紙で取り上げられることもあった。

 さらに、西日本短大が開設したメディア・プロモーション学科が、「烈風」「晴」そして「銀河」という旧日本軍の戦闘機の名称を冠したアイドルグループを送り出している。この学科の長である教授は民族派右翼として知られる人物。2013年の誕生以来、メジャーな活動は確認できないが、珍しい右寄りのアイドルグループということになる。

 一方、秋元康(61)の企画・原案のオーディション番組『ラストアイドル』(テレビ朝日系)から生まれたアイドル集団「ラストアイドル」内のユニット「Good Tears」は忖度ナシの異色の楽曲を歌っている。
近田春夫(68)プロデュースのもと2018年にリリースされた『へえ、そーお?』という曲は、直接的な政権批判ソングではないのだが、その歌詞は某総理大臣、某副総理大臣を皮肉った内容のようにも聴こえるのである。

●【03】政治と接近したアイドル、朝ドラ主演を急遽降板の“悲劇のヒロイン”

 最後は、アイドルではないが、若手女性タレントが政治に接近したことで生じた悲劇について触れておきたい。
 
 1989年10月スタートのNHK連続テレビ小説『和っこの金メダル』の主演には当初、当時20歳の市川紀子という新人女優が内定していた。ところが、土壇場になって、このキャスティングが取り消され、別の女優(渡辺梓)の名前が発表されるという一件があった。

 というのも、市川が当時の野党政党「民社党」の広報ポスターのモデルとして起用されていたことが明らかになったからだ。彼女は特に民社党を支持していたわけでもなかっただろうが、当時のNHKのバランス感覚では、これはNGだった。

 不幸にも“朝ドラヒロイン”というガラスの靴を失った彼女は翌1990年、「市川翔子」と改名。石原プロの刑事ドラマ『代表取締役刑事』(テレビ朝日系)の刑事役でレギュラー出演するチャンスを掴んだ。ところが、こちらもなぜか途中降板。また、NHKの温情だったのか、ほとぼりが冷めてから『ええにょぼ』(1993年)、『春よ、来い』(1994年~)と2本の連続テレビ小説作品に端役で起用されているが、やはり主演とは注目のされ方が違った。

 結局、この“幻の朝ドラヒロイン”は、女優として大成することなく、1990年代が終わらないうちに芸能界を去っている。
(文=ミゾロギ・ダイスケ)

●ミゾロギ・ダイスケ
ライター・編集者・昭和文化研究家/映画・アイドルなど芸能全般、スポーツ、時事ネタ、事件などを守備範囲とする。
今日の事象から、過去の関連した事象を遡り分析することが多い。著書に『未解決事件の昭和史』(双葉社)など。

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