5月の大型連休が終わり、3週間と少しが過ぎました。「大型連休」と言っても長い人で10連休。
そんなことを考えていたときに目に留まった本があります。上田啓太さんの著書『人は2000連休を与えられるとどうなるのか?』です。読んでみると冒頭に、6年間の休日だったので厳密には2190連休だと書かれていました。同書には、上田さんが京大卒業後、人生の行き詰まりを感じて仕事を辞めたあとの日々が詳細につづられています。
そもそも自分が2000連休を与えられるとどうなるのかを少し考えてみると面白いかもしれません。とにかく怠惰の限りを尽くし、それに満足したら趣味を楽しんだり旅行に行ったり、普段できないようなことに挑戦してみるのもいいなあ。個人差はあれ、最初に浮かぶのはこうした楽しいものが一般的でしょうか。
「決まった時間に無理をして起きる必要がない。これこそが人間のあるべき姿だと感じる。
だいたい、アラームというものが昔から嫌いだった。何がピピピだ。無機質な音で偉そうに人間に指図してくる。小鳥の鳴き声で自然に目覚める。太陽の日ざしでふと目を覚ます。それこそが人間の理想的な日常なのだ」(同書より)
朝ゆったりと起きられるのはとても気持ちがいいですよね。「これこそ休日!」と心の底から幸せを感じる人も多いでしょう。しかし、この幸せも続くと日常になってしまうようです。2ヶ月が過ぎると連休の幸福感は薄れ、4ヶ月が経つころには幸せどころか不安を感じるようになった上田さん。
「アルコールは現実逃避の意味合いを持ち始めている。昼間から酒を飲んでいても、心の底から快活に笑えない」(同書より)
「数ヶ月前まで毎日のように職場に行って人に会っていた。信じられない。当時の自分を超人のように感じる。本当に自分は週五で働いていたのか?」(同書より)
「最近、やたらと昔のことを思い出す。過去のさまざまな記憶の断片が脈絡なく飛び出してくる。そのたびに感情が揺れ動く。日常から刺激が消えたからだろうか」(同書より)
上田さんの心は少しずつ壊れていってしまいます。そのなかで上田さんは、メンタルを安定させるためにあらゆることを試します。散歩や読書など簡単にできることのほか、行動を分単位で記録して生活リズムを解き明かしたり、これまで読んだ本や観た映画、出会った人々まで、あらゆるデータを登録した「上田さんのデータベース」を作ったりしました。その分析力や洞察力はさすがの一言に尽きます。
そのなかで恐ろしいと感じたのは「封印していた感情を書き出す」という作業です。淡々とした口調でつづられていますが、上田さんの心はみるみる壊れていきます。
「後に知ったが、カルト宗教や悪徳セミナーは洗脳手段としてターゲットに延々と記憶を書き出させることがあるらしい。納得した。悪意ある第三者によってこの精神状態を作られてしまえば、そこに新しい何かを植え付けることは、ずいぶん簡単になる」(同書より)
読めば読むほど予想外の展開が待ち受けていて、ページをめくる手が止まらなくなります。こうした内容が決して暗くなく、ユーモアのある文章で構成できているのは、上田さんの素晴らしい表現力・文章力はもちろんのこと、上田さんの日々を支えている杉松さんの存在も大きいです。上田さんが2000連休を経てどんなことを感じて何を得たのか、杉松さんがどうしているのか、ぜひ見届けてみてください。
[文・春夏冬つかさ]
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