健やかに働きたい。だけど楽をしたいわけではなく、仕事も思い切り頑張りたい。
いかにしてそのバランスを取るか。生活はもちろん、今後のキャリアにも影響する重要な問題です。
海外に目を向けると、グーグル、アップル、ゴールドマン・サックス証券など、世界をリードする名だたるグローバル企業では、社員の健康促進を積極的に進めています。そのひとつが、「マインドフルネス瞑想」の導入です。
ストレスや不安の軽減や免疫力の改善などさまざまな効果があるとされるマインドフルネス瞑想ですが、仕事のパフォーマンスをどう変えるのでしょうか。そして仕事で結果を出すハイパフォーマーたちは、「健康」とどのように向き合っているのでしょうか。
今回は、サイエンスライターの鈴木祐さんと、健康経営優良法人として5年連続認定されたクロスメディアグループ代表の小早川幸一郎による対談を前後編でお届けします。

生産性を下げる罠
小早川 鈴木さんは科学の知見から健康についても発信をされていますが、健康と生産性のバランスについてはどう思われますか?
鈴木 健康と生産性は、相通ずるものですよね。ビジネスパーソンのなかには、仕事をなんとかするために睡眠を削って、ご飯も適当なもので済ませ、労働量を増やそうと考える人が非常に多くいます。しかし研究データを見れば、「労働量」を投下して仕事をなんとかしようとしている人々は、健康を損なうだけでなく、肝心の生産性も大きく低下していることがよくわかります。
健康に気を配らない人のなかでも、特におざなりになっているのが睡眠です。たった一晩の睡眠を取らなかっただけで人間のIQは急激に下がり、翌日の生産性は6分の1にまで低下することが、科学的に証明されています。
数週間くらいならどうにか耐えられるかもしれません。ただ、1年も2年も睡眠不足で働き続ける状態が続けば、トータルで考えたときに生産性は間違いなく下がっていきます。そんなことを長期でやっていたら、当然ながら身が持ちません。労働量だけで仕事をこなそうとするのは非常に不健康に陥りやすい論理だと、明確に言っておく必要がありますね。
小早川 よくわかります。「生産量」を増やすために労働量を増やすのは理解できますが、「生産性」を上げるためであれば、むしろ労働量を投入しない方がいいですよね。
鈴木 生産性を高めるというのは時間の質を上げるということです。睡眠を削って身体を酷使すれば、モチベーションも、脳の回転の速さも下がってしまう。それを補うために労働量を増やしても、かえって生産性を下げることになるでしょうね。

小早川 ビジネス書の出版社としては、経営者や専門家などの方々と多く関わります。ただ、頭が良くて優秀な人ほど、仕事をしすぎて身体を壊してしまう人が多いように思うんです。
優秀な人たちは基本的に生産性が高いんですが、身体を壊してしまうと、長い人生で見たときの平均的な生産性は低くなっているとも言えますよね。
優秀な人はどうして無理をしてしまうんでしょう。
鈴木 自分を過信してしまうのかもしれません。つまり「こうすれば体を壊さないはずだ」と自分で論理を補強する材料を考えることができてしまうわけです。すると、頭では健康の大切さをわかっていながらも、結果として身体の状態に合わない行動をしてしまいます。頭が良い人ほど認知バイアスが大きいんですよね。これは脳科学の分野でもよく議論される話です。
小早川 たとえば10年間、全力で走ったつもりでも、慢性的に疲労があれば結局は非常にパフォーマンスの低い10年を過ごすことになるかもしれません。一方で、俯瞰的に自分の健康状態を把握しながら、着実にストレッチ目標を超えていくなら、同じ10年間でも、最終的な生産性を比較すると大きな違いがあると思うんです。
鈴木 全力疾走するときがあってもいいと思いますが、持続的に走れる方が健康ですし仕事も長続きします。そのほうが多くの人は幸せになれるかもしれません。
社内で健康的に働く人を増やすには
小早川 誰でも健康的で生産性高く働きたいものですが、その考え方は立場によって違うように思うんです。というのも、私は経営者として社員に生産性高く働いてもらいたいので、そのためにも健康でいてもらいたい。
そのため社員に健康や生産性を呼びかけるのではなく、健康で働けるような仕組みづくりをしているんです。すると、本人が健康的な働き方を積極的に取り入れなくても、環境や機会によってパフォーマンスが上がっていくんです。

鈴木 仕組み化はすごく良いと思います。健康的じゃない人は少しずつその仕組みを利用すればいいし、すでに健康意識の高い人はさらに上を目指していけますね。
小早川 ただそれでも健康に興味がなくて活用しない人もいますよね。興味がない人にも興味をもってもらうための、科学的なアプローチって何かないですか?
鈴木 いくつかあります。ひとつは、「健康な人がいかにカッコイイか」を示すことですね。ぼくが見る限り、何かを訴求したいときに、それを実践している人の「カッコよさ」をうまく打ち出している企業は、興味のない人にも行動を促すことに成功しています。
人間は強制されることを嫌いますから、「これをやってください、あれをやってください」と言っても、なかなかやりません。
でも、周囲のハイパフォーマーを見たときに「なぜハードワークをこなせるんだろう?」と疑問に思うものですし、どこか輝いて映ります。その理由が「健康に気を使っているから」であれば、自分もやってみようと思う人は当然増えるでしょうね。
小早川 なるほど、わかりやすいですね。
鈴木 あともうひとつ挙げるなら、「もうみんなやってますよ」と訴求することです。
たとえば「タバコを吸うのをやめましょう」というポスターを見た人は、「自分もやめよう」と思うよりも、「みんなタバコ吸ってるんだな」と認識する傾向にあるんです。するとますますタバコを吸うようになってしまいます。
しかし「これだけ多くの人々が禁煙に成功しました」というポスターを見た人は、「みんなこんなに頑張ってるんだ」と思うので、自分も禁煙に挑戦してみたくなる。
これは心理学で「バンドワゴン効果」と呼ばれる認知バイアスのひとつです。

鈴木 関心のない人を巻き込もうとするとき、バンドワゴン効果を利用した取り組みは多いように思います。
小早川 すると、健康に配慮して働いてほしいなら、社内に健康的な風土をつくるのが効果的なのかもしれませんね。
クロスメディアグループの場合、経済産業省の「健康経営優良法人」に4年連続で認定されていたり、健康にまつわる発信をしてる鈴木さんにアドバイザーとして入っていただいたりと、風土づくりは進んできたように思います。
出版社でありながら、疲労回復ジム(『ZERO GYM(ゼロジム)』)を経営していることも効果があり、最近は営業やクリエイティブ人材でも、健康意欲の高い人々が応募してくれるようになってきたと実感しています。
マインドフルネスが、仕事のパフォーマンスを高める理由
小早川 鈴木さんもご存じの通り、クロスメディアグループでは、呼吸法に重点を置いたマインドフルネス瞑想を実施しています。社内に複数のプロのインストラクターがおり、その指導のもと毎週2回実施しているもので、これも健康経営の取り組みのひとつです。
マインドフルネス瞑想はグローバル企業でも取り入れられてきましたが、鈴木さんはその効果についてどう思いますか?
鈴木 これはいろいろ言えることがありますね。まず、マインドフルネスというと、よく「考えないこと」と表現されたりしますよね。
でも実際は違うんです。むしろめちゃくちゃ考えます。いま考えていることへと意識が向いている状態を「マインドフルネス(Mindfullness)」と言うんです。
たとえば、ある料理を初めてつくるとき、レシピを見ながら注意してつくりますよね。まず野菜を切って、鍋を用意して、炒めて……と、手順をひとつずつ頭のなかで意識しながらつくっていると思います。それもマインドフルネスな状態だと言えます。

でもだんだん慣れてくると、テレビを見たり、他のことを考えたりしながら適当にできるようになってきます。それは「マインドレス(Mindless)」な状態です。マインドフルネスと、そうでない状態には、それくらいの違いしかありません。シリコンバレーの人たちが言うような、何か超越的な状態ではなく、人々が日常的に体験していることなんです。
では、なぜビジネスに効くと言われるのか。それは料理をしているときのように、マインドフルな状態を「維持」できることに意味があるからです。簡素に言えば、集中力を保てる状態になるということです。仕事であれば、目の前の仕事に集中できる。これがマインドフルネスの効果のひとつです。
小早川 シンプルに考えるとわかりやすいですね。
鈴木 そしてもうひとつの効果は、集中が途切れても、すぐに集中状態に「戻せる」ことです。別のことを考え始めても、すぐに向かうべき思考に戻せる。これは、ネガティブな思考に陥っても、ポジティブで健全な思考に早く戻せるということでもあります。
たとえば何かに失敗したときに、「あちゃー、失敗しちゃった」と、その事実にばかり気を取られると、すぐにマインドレスな状態になります。しかしマインドフルネスで自分をコントロールできていると、すぐに向かうべきことへ意識を戻せます。すると集中力を維持できるだけでなく、メンタルも安定してきます。

やはり人間の集中力はどこかで途切れてしまうものです。そこには感情が大きく影響していますが、マインドフルネスをしていると「感情のコントロール」がしやすくなります。こうしたことから、マインドフルネスがパフォーマンスアップにつながるとされているんです。
小早川 非常にわかりやすいですね。ただ、そういう意味では、会社という環境はマインドフルネスな状態をつくりにくいのかもしれませんね。マルチタスクが多く、次々にメールが来るし、スマホも鳴ります。
昔はどちらかというとシングルタスクで、ひとつの仕事に没頭できることが多かったように思います。私たちはギリギリそういう職場を経験してきた最後の世代かもしれません。
鈴木 昔は携帯電話どころかインターネットもなく、会社間のやり取りはファックスでしたからね。いま思えば、当時はかなりマインドフルな環境だったのでしょうね。
〈後編に続きます〉
・鈴木祐 公式X :https://x.com/yuchrszk
・鈴木祐 公式ブログ パレオな商品開発室:https://nufu.online/
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The post 【鈴木祐さんに聞く①】仕事のパフォーマンスが高い人たちは、どう「健康」と向き合っているのか first appeared on アクティブヘルスラボ(ACTIVE HEALTH LAB).