1977年に『アニー・ホール』でアカデミー賞を受賞し、中高年となっても『恋愛適齢期』など数々の映画で変わらずキュートな演技を見せているダイアン・キートン。

68歳を迎えた2014年、その自伝的エッセイ『Let's Just Say It Wasn't Pretty』を発表し、美や生き方、結婚、容姿、老化などについて、独特ののびのびした語り口で思いをつづりました。

不完全だと不満もある、でも、だから良い

そこにあるメッセージはざっくり言うと「不完全な私でもOK! それを直そうと無理してもしなくてもOK!」といったもの。読んでいてとても元気の出る内容だったので、そのエッセンスをご紹介します。

完ぺきじゃないから、良い

『Let's Just Say It Wasn't Pretty』は「間違ってるは、正しい(Wrong is right)」と題する序文から始まります。

私はいつだって、インディペンデントな女性、歯に衣を着せない女性、エキセントリックな女性、おかしな女性、欠点のある女性が大好きです。誰かがある女性について「悪いけどきみ、間違ってるよ」なんていえば、私は彼女が正しいことをしているんだと思ってしまいます。

(『Let's Just Say It Wasn't Pretty』より抜粋して翻訳)

そして、母親から「醜いモンスター」とよばれながらファッション界の伝説となった元Vogueの編集長、ダイアナ・ヴリーランドや、アカデミー賞にドレスでなくパンツスーツで登場したキャサリン・ヘプバーン、ドラマ「Girls」でたびたびぽっちゃりヌードを披露しているレナ・ダナムなどを例に挙げ、「やってはいけないことをする女性」を尊敬すると言っています。

ダイアン自身もまさにそんな女性のひとり。ウディ・アレンやウォーレン・ベイティなどとの恋愛を経験しながら誰とも結婚せず、50歳を超えてふたりの養子を迎えています。子供がいればどこか保守的になるかといえばそうではなく、ファッションは今も流行と関係なくタートルネックや帽子、男性的なジャケットやパンツが大好きだし、南カリフォルニアで数々の豪邸を買ってはリノベーションして移り住み、次の理想の家を見つければ今の家を転売するというほとんどデベロッパーのようなこともしています。

またエッセイの中では、子供の学校につい素足で行ってしまい子供に恥ずかしがられたり、赤ワインをマグで飲みながらジョギングしたりという、大人らしからぬ行動も語られています。

美容整形する理由、しない理由

そんな彼女の考え方は、美容整形に対する姿勢にもっともよく表れています。ダイアン自身は美容整形をしておらず、反対派として知られていますが、それについて次のように書いています。

ジョアン(・リバース)、フィリス(・ディラー)、そしてトーティ・フィールズは、複数回美容整形を受けたことを公言した初めての女性たちでした。自分の不完全さを認めることは、強くなければできません。私はなぜ美容整形をしたことがないのかよく聞かれますが、美容整形した女性にも、したことがない女性にも、同じように敬意を抱いています。私たちはみんな、ただ日々を乗り越えようとしているだけなんです。

(『Let's Just Say It Wasn't Pretty』より抜粋して翻訳)

つまり、気に入らない部分を直そうとあくせくするのも良し、しないのも良し。どちらも良く生きようとするための懸命の努力なのだから、そのことを大事にしようという姿勢です。

また自分自身が整形をしない理由についてはこんな風に表現しています。

あらゆる選択にメリットがありえる分、デメリットもあります。私がなぜ手術やフィラーを使ったことがないのか、少なくとも今はまだ、自分でもはっきりとは言えません。でもだからって、まして今さら、どうなんでしょうか。(略)私は自分自身、真実を偽らず、本物であるべきだと思っています。でも私は「本物」なんでしょうか? ひとつ言えるのは、私には何が本物なのか、本当にわからないということです。

(『Let's Just Say It Wasn't Pretty』より抜粋して翻訳)

今やハリウッドでは、特に高齢の女性では整形やボトックスなんて当たり前になっています。人とは違う選択をしつつ、それを無理に正当化したり説明したりしないことで、立場を異にする人を尊重できるんですね。

割り切れない容姿の悩み、髪の悩み

自分自身も他人のことも、今でこそここまで割り切っているダイアンですが、若い頃は自分の容姿やキャラクターにかなりの不満・不安を持っていたようです。

20代前半、私はよくウディ(・アレン)に自分の不安をぶつけていました。「良い映画に出られると思う?」「ちょっとだけど絶対曲がってるこの鼻のせいで、仕事がもらえないのかも?」(略)ウディは、大丈夫だと言いました。「ダイアンは面白い、面白いはお金になる」

私は「この人バカじゃないの」と思いました。面白い女性はジョークを言うものです。私はジョークが顔にぶつかってきてもわからないんです。面白い女性は話のツボを押さえています。私なんていつも、何を言えばいいか迷うばかりでした。

(『Let's Just Say It Wasn't Pretty』より抜粋して翻訳)

特に容姿に関しては、ローティーンの頃に鼻にピンを止めて寝たり、笑顔の練習をしたり、目の体操をしたり、そのことを日記に書いたりと、かなりコンプレックスがあったようです。20代の頃には摂食障害に悩んだことも語っています。

また68歳になった今もそれが完全に解消したわけではなく、むしろ老化によるしわや体力の衰えを嘆いてもいます。たとえば髪が減ってきて薄毛ではないかと悩んでいること、その対策としてウディ・アレン愛用の薄毛予防シャンプー(説得力ありますね!)を送ってもらったりしていることまで明かしています。

悩みも丸ごと受け入れる

それでもダイアンは、これからの人生に前向きです。「Old is Gold(老いは金)」とする章では、老化のありとあらゆるデメリットをこれでもかと列挙しつつ、ウディ・アレンやジャック・ニコルソン、ラルフ・ローレンの妻リッキーなどの名前を挙げて、「これからも続く偉大なる未知への旅、長くて魅惑的で新しくて永遠に進化していく旅に向けて、この人たちが私のメンターで、ヒーローです」とつづっています。

エッセイの締めくくりは「夜を愛して(In love with the night)」と題して、闇があるからこそ美しいと語っています。そして、そんな自分だからこそ結婚はしないと言います。

ダイアン・フォン・ファステンバーグは言いました。

「(略)この人(夫のバリー・ディラー氏)は私の恋人で、友人で、今は夫になったの。彼とは35年も一緒にいるのよ。別れたときもあるし、ただの友人のときもあったし、ときには夫と妻にもなる。それが私たちの人生なの」

たしかにそう、でも私の人生は? 私は絶対結婚しません。一緒に嵐を乗り越え、約束を守り合う彼女たちがうらやましいかって? それはうらやましいけれど、私にとっては、できないことを追い求めるのが好き過ぎて、長続きする関係の良さがかすんでしまいます。

私は傷ついた鳥の美しさ、失敗のエクスタシーに魅入られているんです。

(『Let's Just Say It Wasn't Pretty』より抜粋して翻訳)

人とは違う自分も、老いていく自分も、今までの選択から来るデメリットも、人をうらやむ気持ちすらも、こんな風に率直に認めています。ネガティブなこともきちんと受け止めているからこそ、前向きに生きられるのでしょう。

思えば誰もが不完全で、人と違っていて、型破りと言える面すら持っています。でも特に今どきの働く女性は、仕事もプライベートも人並み以上に完ぺきにしようとがんばっていて、さらに「これでいいのか」と悩んだりもしています。そんな葛藤まで全部含めてきちんと直視して、何もかも正しくあろうとするのをやめてみると、ダイアンのようにのびやかな60代になれるのかもしれません。

[Let's just say it wasn't pretty]

photo by Getty Images

(福田ミホ)

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