性別を意図的にはっきりさせないために、代わりに「they」を使うというもの。いったい、英語の世界に何が起きているのでしょうか。
性的マイノリティへの配慮"Taro went to the library, and they borrowed two books."
上記の英文は、以前なら文法的に間違いとされました。太郎さんはひとりの男性なのだから、andの後は「he」のはずです。
でも、もし太郎さんの見かけが男性でも、心の中は女性だったら? もしくは、太郎さん本人が、自分が男性なのか女性なのかを明確に認識していなかったら?
そんな疑問から生まれたのが、男女を区別しない代名詞を使うという方法です。この場合の「they」は「彼ら」という複数ではなく、性別不明のひとりの人間をさす単数形。なので、ちょっと違和感のある英文ですが、間違いではありません。
トランスジェンダーや、性別を男女で区別できない人たちがめずらしくなくなった現代。そんななか、言語で性別を限定することはナンセンスだという考えが、人々のあいだで次第に広がりつつあるのです。
大学や辞書でも認められる第3の性このトレンドは、LGBTのコミュニティだけでなく、ハーバード大学やMITをはじめとするアメリカの大学にも広がっています。
たとえばハーバードでは、学生たちが入学するときに、大学内における書類などで自分にどの代名詞を使ってほしいか選択できるようになりました。
また、性別フリーの「they」の単数扱いは、オックスフォードなどの英語辞書にも記載されているほか、言語学者らによる「2015年の流行語」にも選ばれるなど、市民権を得つつあります。
言葉は生きもの、変化していくのが自然アメリカで暮らすなかで、いまのところ一般的なビジネスや日常会話ではあまりお目にかかりませんが、男女を限定しない代名詞として使われるのは、ほかにも、
「ze」
「ey」
「E」
「hir」
「xe」
「hen」
などがあります。ずらりと並べてみると、まるで元素記号のよう。とくにネイティブ・スピーカーじゃない外国人にとっては、はっきりいって、ややこしいです。
ですが、言葉は生きており、時代によって変化していくもの。かつては女性を既婚か未婚かで区別して「Mrs.」「Miss」と呼んでいましたが、いまではほとんど「Ms.」で一本化されているように、これからは「she/he」という言い方が時代遅れになっていくのかもしれません。
ただ、この「ジェンダーフリー」の代名詞、訳すときには日本語ではなんと言えばいいのでしょう。今後はこれに対応するあたらしい日本語も、編み出さなくてはいけないかもしれませんね。
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