テレビシリーズが開始されて以降、15年以上も高い人気を誇り続け、いまや国民的ドラマとも言われている作品はほかでもない『相棒』。テレビとは違うスケール感とストーリー展開が繰り広げられる劇場版も待望の4作目がいよいよ公開となる。

本作でも杉下右京と4代目相棒である冠城亘のコンビは絶好調だが、今回は2人の前に過去の集団毒殺事件と少女誘拐、そして無差別大量テロという難題が次々と立ちはだかることとなった。

首謀者とされる謎の国際犯罪組織が大きなカギを握っているが、その主要メンバーとしてシリーズ初参戦となったのは、実力派俳優の北村一輝さん。撮影を通じて感じた思いや今後の役者としての展望を語ってもらった。

あくまでも自分のやるべきことをやるだけ

これだけ長い間多くのファンに支持され続けている作品だけに、参加するにあたってはプレッシャーを感じる部分もあったのではないだろうか。

「僕は、どの現場でも作品の規模には左右されず、フラットな状態で入るようにしています。今回は『相棒』という確立されたチームへ入るという意味での緊張感はありました。

『水谷さんとの共演は緊張しましたか?』とよく聞かれますが、じつは逆。本当に素晴らしい俳優の方は、相手にプレッシャーを感じさせないように入りやすい現場づくりをしてくださいます。だから、気負いすぎることなく参加させていただきました」(北村さん)


水谷さんのドラマを見て育った北村さんにとって、水谷さんは少年期からのヒーロー。そのため、今回の共演はこれまでを振り返るきっかけにもなったという。

「初心というか、幼少のころを思い出すと同時に、いまの自分と照らし合わせてみました。『この仕事が好きだという気持ちをどれだけ保てているのか』と。

水谷さんの年齢でこれだけ現場と真摯に向き合いながら、ひとつの役を深く掘り下げて全力で挑む姿を見て、『自分はどれだけできているだろうか』と。根っこの部分について考えさせられました。

そういう先輩を前にすると、自分を見つめ直すきっかけになり、まだまだ自分の未熟な部分が浮き彫りになるので、いい刺激を受けましたね」(北村さん)

さらに、水谷さんの現場での様子からは役者として学んだことも多かったと付け加えた。

「現場を俯瞰で見て、全体のバランスをいつも考えていらっしゃいますよね。常日ごろから準備して考えているからこそ、すべてがちゃんと計算されていますし、とにかく引き出しが多く、芝居を真似したからといってできることではないですが、まずその姿勢を勉強させていただきました」(北村さん)

キャリアが長くなればなるほど初心を忘れがちだが、そんなときこそリスペクトする先人の姿は、どんな言葉よりも胸に響くものがあるのかもしれない。そして、北村さんはこの作品に込められた"いまの世の中に通じるメッセージ"を伝えたかったとも話す。

「相棒シリーズは、右京さんがひとつの事件を解決する話でもありますが、本作は『どこに正義があるのか』という強いメッセージも込められています。僕は敵対する側でしたが、なぜそうしたかという部分も描かれている。つまり単なる勧善懲悪ではなく、人が動くのには理由があるということ。

観客を魅了するための構成もありながら、人間がきちんと描かれているのが『相棒』のおもしろいところでもありますよね。アクションひとつにしても、どのシーンをとっても、最後のメッセージを伝えるためにチームで協力するというのが、一俳優のやるべきことだと改めて感じました」(北村さん)

今回の北村さんの役には"ある秘密"もあったため、常にバランスを考えながら演じることが必要不可欠だったという。

「どういう役が難しいのかというのは、考え方次第。

つまり、簡単な役に見えても考えれば考えるほど難しくもなりますし、難しい役でも簡単に考えれば簡単にできる人もいるということですよね」(北村さん)

自分の気持ちによっては、受け止め方も変わってくる。では、どのような基準で仕事を選んでいるのかも気になるところだが、意外にもオファーを受けた順番が優先。選んではいないという。そこには理由があるのだとか。

「自分で選ぶと偏ってしまうし、価値観がどんどん狭くなってしまうから、可能性を広げたいと思っています。台本をおもしろく演じることも俳優の仕事。どんな作品でも挑戦して、取り組むことが好きですね。

高い山の頂きを目指すのはいいことだけど、その分、視野は狭くなる気がします。いつも広く、いろいろな角度から物事を見られるようにしておきたいです。そうしないと、人間的にも考え方が狭くなり、他者を否定するようになったりするんじゃないかな。自分が役者を何年やってきた......というこだわりはあまりなく、タイミングさえよければ、引き受けたいというスタンスです」(北村さん)

47歳を迎え、長いキャリアを重ねてもなお貪欲であり続ける姿と飽くなき探求心はぜひ見習いたいところ。では、40代に入ってから仕事の向き合い方に変化を感じる部分とは?

「おもしろさを再認識できる年代だと思いますね。

20代、30代と突っ走っていた途中ではおもしろさを見出だせなかったこともありました。自分のポジションや結果を求めてばかりで、見えない何かを掴もうとしていた。

でもいまは、それよりも楽しみながら仕事をしたいと思うようになってきました。そのほうがただ突っ走るよりもじつはいい結果が出るんじゃないかなと。自分のペース配分がわかるようになってきたというのもありますね」(北村さん)

人のために妥協できることもときには必要

40代になってから先のことを考えるようになったと言うが、同じ気持ちを抱きはじめている読者も多いはず。

「若いころは考えなかった、『残されたあと何十年をどうやって過ごそうか』ということを想像するようになりました。やはり充実した日々にしたいから、最近は時間を大切にするようにしています。

そして、『余裕』を意識するようになりました。それは、何かをひとつをあきらめてみたり、少し妥協して生まれる余裕。昔は、妥協やあきらめという事は全否定で、ネガティブな言葉だと思っていました。でも、誰かのために一歩引いたりすることが自分の余裕にも繋がる。40代からは、そういうことも大切になってくるんじゃないかな。

どのジャンルでも同じだと思いますが、人間性も高めないと仕事も回ってこないですよね。30代より楽ではないですけど、泳ぎでいうなら、『40代はちゃんと息継ぎしています』という感じです」(北村さん)


歳を重ねると、それだけ"大人の余裕"が必要になってくるというもの。では、男性としても俳優としても目が離せない北村さんが50代に向けてやりたいこととは?

「昔から『50代で代表作をつくりたい』と思っています。だから、50歳になるまでのあと3年は準備期間。試行錯誤をしながら貪欲にチャレンジして、失敗もしながら、それを踏まえて勝負していけたらいいかなと。いまは焦って何かをしたいというよりも、あえて困難に立ち向かい、もがきながらも、楽なほうだけには進みたくないという思いです」(北村さん)

これまでに幅広い役柄を演じてきた北村さんだが、今後は社会派のドラマや歴史上の偉人といったジャンルにも挑戦してみたいと目を輝かせる。新しいチャレンジにも恐れずに参加していきたいそうだが、これだけの忙しい日々をどうやって乗り越えているのか。その秘訣について聞いてみると予想外の答えが返ってきた。

「ジンギスカンを食べることですね。40代以上の方には本当におすすめですよ。僕はネットで北海道から取り寄せています(笑)。ジンギスカンの鍋に、もやしをそのまま入れて肉を焼いたら1分もかからないから簡単。

あとはタレに擦った玉ねぎとリンゴとニンニクを入れるだけ。

何がいいかと言えば、食べた後に苦しくなることがないんですよ。胃もたれしないし、カロリーも低いし、パワーも出るし。週に3回は食べています(笑)」(北村さん)

思わず北村さんと一緒にジンギスカンを囲むところを妄想!最後にcafeglobe読者だけにメッセージを届けてもらった。

「40代、50代の女性は輝いていると僕は思っています。歳や容姿を気にする女性がいるけれど、たとえば主婦は主婦らしく、働いている人は働いている人らしくいること自体がすごく素敵だと思います。

人からどう思われるかより、まずは『自分はやるべきことをやっている』と自信を持つことが大切。だから、目に見えるものよりも何かをやりきること。それぞれの個性を活かして、みんなが自信を持って生きていたらかっこいいと思うし、大人の男性はちゃんとわかっていますよ。でも、もしいま悩んでいて楽しみがないという人がいれば、ぜひ僕にファンレターを書いてくださいね(笑)」(北村さん)

優しい言葉と笑顔だけでどんな悩みでも吹き飛ばしてくれそうな北村さん。その溢れだす魅力の虜にならない人はいないはず。内に秘めた思いに葛藤するミステリアスな北村さんに会いに劇場へ足を運んでみては?


相棒-劇場版IV-首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断

2017年2月11日 丸の内TOEIほか全国ロードショー

出演:水谷豊 反町隆史

仲間由紀恵 及川光博/石坂浩二

北村一輝 山口まゆ/鹿賀丈史

脚本:太田 愛 音楽:池 頼広 監督:橋本 一

(C)2017「相棒-劇場版IV-」パートナーズ

www.aibou-movie.jp

撮影/柳原久子

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