SHIBUYA109エンタテイメント社長 石川あゆみ氏

「SHIBUYA109」と聞いて、連想されることはなんだろうか。ルーズソックスを履いた女子高生、カリスマ店員ブーム、ギャルの聖地……。

連想される風景は、世代によってさまざまな絵を描く。とはいえ、どの世代にも共通していえるのは、「渋谷の象徴としてそこに在り続ける」イメージだ。今回は、そんなSHIBUYA109渋谷店を運営するSHIBUYA109エンタテイメントの社長・石川あゆみ氏にインタビュー。

石川氏は、2021年4月にSHIBUYA109エンタテイメントの新社長として着任したばかり。新しい経営方針として、「Z世代と企業・社会の架け橋となる“若者ソリューションカンパニー”」を掲げた。私たちのイメージ通り「渋谷の象徴」として、率先して若者の価値観や消費行動をキャッチしてきたSHIBUYA109。

彼らは「今の若者」Z世代をどう捉え、彼らの抱える課題をどう解決しようと取り組んでいるのか。そこには、前衛的な未来が存在するに違いない。これは、ワクワクするお話が聞ける。……そういった確信を胸に、SHIBUYA109の「新たな試み」について石川氏に聞いた。

「SHIBUYA109 lab.」を通じてZ世代のインサイトを深掘りし、課題解決へと生かす

1977年生まれという彼女自身も、SHIBUYA109の煌めきを肌で感じていた。だからこそ、SHIBUYA109を通じてZ世代が社会に貢献できることは、多大であると考えている。

新たな経営方針「Z世代と企業・社会の架け橋となる」を実現する第一歩として、SHIBUYA109は新しい世代を「around20」=15~24歳と定義し、彼らの価値観や違和感を探るべく、マーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」を開設

毎週のように当該世代にグループインタビューを実施し、毎月およそ200人を超えるaround20、すなわちZ世代と向き合っているという。

「世代の違う私が、同じ気持ちで若者世代を捉えることはどうしても難しい。だからこそ、生の声を常にヒアリングし、どういったところに価値観をもっているかを理解するべき。例えば、消費行動も昔とは異なります。より価値があると感じるコトやトキに消費し(参加型消費)、自分が「推し」ているものに消費し(メリハリ消費)、SNSを駆使して情報収集をした上で慎重に消費し(間違えたくない消費)、自分が応援するものへ消費し(応援消費)という傾向が見られます」(石川氏)

Z世代はSNSの使い分けだけでなく、「相手によって、見せたい自分を調整している」という。多様化しているからこそ本当に難しい、と語る石川氏。「だからこそ、ユーザーオリエンテッドで考えることが絶対です」

さらに、彼らの特徴として挙げられるのは、「社会課題に対しての意識の高さ」。Z世代の視点で館を盛り上げるには、このポイントは外せないという。それはもはや、「モノを売る」商業施設運営にはとどまらない。その具体的な施策とは、どんなことだろうか。

Z世代と手を取り合って「ジェンダー」「サステナビリティ」の課題に取り組む

社会課題の最たる切り口として取り上げられる「ジェンダー」や「サステナビリティ」。「SHIBUYA109 lab.」においても重要なトピックであり、SHIBUYA109としても、新経営方針「若者とともに向き合う地球の未来」としてSDGsの課題に取り組み、4つの目標「ジェンダー」「街」「ファッション」「パートナーシップ」に取り組んでいく。

「『LGBTQ+やジェンダーの不平等を解決したい!』と叫ぶZ世代は、とても多いです。

まず、きっかけとして身近にそういった子がいる。彼らにとっては友達なのに、『なぜ社会は批判するの?』と疑問に思っている。TikTokerでもLGBTQ+の方が、自分の差別に対する意見を言っていたりして、それを見聞きしている。こういった社会課題を、彼らはもはや身近な課題として、『日常的な違和感』として感じています」(石川氏)

「SHIBUYA PRIDE MONTH」(2021年7月1日まで開催中)

そんな彼らの「違和感」を課題と感じ、解決するための新しい取り組みの一つとして行われているのが、「SHIBUYA PRIDE MONTH」

ウォルト・ディズニー・カンパニーが、LGBTQ+コミュニティを支援する世界中の団体に寄付を行っている団体「The Walt Disney Company’s Pride collection」に賛同し、オリジナルアイテムの販売や性別にとらわれないスタイリングを提案。クリエイティブディレクターには、ボーダレスな視点で「カワイイ」を発信する五十嵐LINDA渉氏を起用している。

「私たちはこの企画を通じて、『ファッションも自分らしくていいよね』という考え方を応援しています。デジタルカタログを公開したり、スペシャルオンラインイベントを生配信したりするなど、コロナ禍の今だからこそ自宅で楽しめるような形に落とし込んでいます」(石川氏)

また、サステナビリティへの取り組みの一環としては、2021年4月22日のアースデーに行われた「Z世代と企業のサステナ提案」ワークショップがある。

このイベントは、株式会社メルカリと共同で行われたもの。サステナビリティに関心を持ち、持続可能な社会に向けたライフスタイルを発信しているモデル・長谷川ミラ氏をゲストとして招き、Z世代の参加者とともにエコが学べる座学を開き、彼らの価値観や身近に行うことができる「環境に優しい活動」について話し合ったという。

そこでは、メルカリとSHIBUYA109が取り組むべき「地球にやさしいアクション」について議論され、参加者により提案されたのが、SHIBUYA109渋谷店に「古着回収ボックス」を設置するというものだった。

「以前にSHIBUYA109で購入して、今は着なくなったものを回収して“SHIBUYA109ヴィンテージ”としてブランディング・販売したらどうか」、という声が上がりました。

その他にも、いろんなアイデアが出ました。こういう取り組みを通じて、Z世代がサステナビリティについて考えるきっかけを作るとともに、彼らのアイデアをもとに、メルカリさんと次の新しい取り組みをうまく探っていけたら、と思っています。

SHIBUYA109渋谷店という発信力がある場所から広く知ってもらい、ゆくゆくは文化となっていく。それを実現するには私たち1社ではできることが限られてくるので、他企業さんと一緒にそのきっかけ作りをしていきたいと思っています。Z世代に取り入れやすいようになるべくわかりやすい形でデザインをしたり、より身近に感じられるようなイベントをしたり。押し付けではなく、Z世代と一緒に考えながら仕組みを作っていこうとしているところです」(石川氏)

ファッションテナントを新しい在り方に、社会的な課題解決やZ世代の熱量と向き合う

「SHIBUYA109 lab.」を通じてZ世代に寄り添う新しい商業施設の在り方を模索する中で、無視できないのが、「ネットで買い物するのは当たり前」という市場の変化や、SNSの台頭

「変な話、もうユーザーのほうが行動も感覚も進んでいるんです。逆に館の方が、在り方という意味では遅れたものとなっている。ユーザーが普通にデジタルを駆使して、いろいろと比較して消費活動をしているのに対して、館は売ることの最大化を目指し続けるのは、もはや見ている視点からして違っている。リアル店舗の体験価値が『試着できる場』だけではつまらないですよね。だからこそ、デジタル世代が持つリアルの価値観を、慎重に再定義していくべきだと思っています」(石川氏)

「それが分からずしては、イケてない施設になってしまうのは時間の問題」と、石川氏は語気を強くして語る。

Z世代は、体験にとても価値をおいています。だからこそ、商業施設である私たちができるのは『リアルな体験の提供』。

より多角的な体験を提供できる館として生まれ変わるために、館におけるファッションテナントの比率を下げ、社会をよくしていくためのトピックや、Z世代の熱量が高いトピックをリアルで体感できる場所へと変えていきます。モノとコトの掛け合わせで、館の価値を高めていけたら」(石川氏)

ファッションビルというイメージが強かったSHIBUYA 109渋谷店は、時代の潮流にフィットする形でどんどん変化していく。

コロナ禍を、いまのZ世代によりコミットするきっかけと捉える

オンライン優勢の市場にて商業施設の在り方を探っていく中で、さらに追い打ちをかけるように訪れたのが、コロナ禍……。体験創出の価値に歯止めをかける懸念材料になってしまったと思いきや、石川氏はそれをさらに逆手に取っている。

「コロナ禍で状況はまたがらりと変わってしまいました。ただね、難しい状況にならないと、変わっていけないんですよ。こういう状況になって、私たちもそうですし、お取引先にも『変わらなきゃ』っていうのが共通マインドになりつつあります。私たちは、それをいいきっかけと捉えていて。企業が一丸となってユーザーに追いつき、さらにもう一歩価値を生み出すにはいいタイミングではないでしょうか」(石川氏)

いかなる社会情勢もポジティブに捉え、「その時代の若者世代を輝かせて、夢や願いを叶えていく」……。それが、SHIBUYA109が常に掲げるビジョン。「Z世代の生声」を通じて彼らのフィーリングを肌で感じ、彼らの違和感や課題感に応える形で、他企業と共に解決するべくアクションを起こす。

Z世代を輝かせることは、現代を生きる「人」の、ひいては「社会全体」のエンパワーメントに繋がる。そういった考えを形にしてくれるのが、SHIBUYA109という存在感だ。

今も昔も変わらないその煌めきは、これからも私たちの“ワクワク”、“ドキドキ”を生み出してくれるにちがいない。

取材・執筆/松崎愛香、 撮影/田尻陽子

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