LGBTQ+の認知は高まりつつあるが、いまだ当事者が生きやすい社会になったとは言い難い。ジェンダーやセクシュアリティで差別されない社会はどう実現できるのか。
「多様性のある社会をめざして、同じ思いを持った企業同士が連携し世の中を変えていこう」と今回声を上げたのは、ダイバーシティ推進における先進企業、パナソニック コネクトだ。
パナソニック コネクトは、東京レインボープライド2024の最上位スポンサー「レインボースポンサー」として協賛することを発表。東京レインボープライド(2024年4月19日~4月21日)に先駆けて、一般社団法人MASHING UP アドバイザリーボード 一木裕佳さん、特定非営利活動法人 東京レインボープライド 営業/フリー株式会社 DEI Lead 吉村美音さん、およびパナソニック コネクト DEI担当役員 山口有希子さんなどの有志メンバーの想いから、LGBTQ+に関する情報交換やネットワークの機会となるイベント企画がスタート。「レインボービジネスネットワーク」と称し、2月27日に開催した。
本イベント前半では、パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント・CEOの樋口泰行さんと東京レインボープライド 共同代表理事 杉山文野さんが、LGBTQ+を取り巻く課題について対談。
後半では、電通ダイバーシティ・ラボ(DDL)中川紗佑里さんがLGBTQ+に関する最新情報の開示セッションを行った。最後に、プライドハウス東京 共同代表の五十嵐ゆりさん、パナソニック コネクトの山口有希子さんが登壇し、参加者へメッセージを送った。
パナソニック コネクト取締役 執行役員/CMOの山口有希子さん。 撮影/中山美華まず、山口さんがイベント開催の思いを伝えた。
「私たちは、DE&Iを推進したいという強い思いがあります。同じ思いをもつ企業が集まり、学び合って、声を上げて行動ができれば、企業は必ず変わっていくことができます。
本イベントが、より良い力をつくる場になれば本当にうれしい。皆さんにはぜひこの場でご自身で学んでいただき、交流し、それぞれの企業の活動へと繋げていただければと思います」(山口さん)
課題の可視化から、具体的なアクションへ
1970年に「自分のセクシャリティに恥じることなく、誇りを持って生きていこう」というメッセージのもと、アメリカでスタートしたプライドパレード。日本では、2011年に任意団体 東京レインボープライドが発足して以降、毎年継続して行われている。
東京レインボープライド 共同代表理事 杉山文野さん。 撮影/中山美華東京レインボープライドの参加者は、 2014年と2015年に急増。渋谷区と世田谷区でパートナーシップ制度がスタートしたことが大きな反響を呼んだと杉山さんは説明する。
「パートナーシップ制度が導入により、『LGBTQ+の人たちなんていないよね』という前提が、日本社会において大きく変わったのです」(杉山さん)
東京レインボープライドが掲げるミッションは「可視化」「場づくり」「課題の解消」の3つ。これからの社会は、課題の可視化をしていくことと具体的な解決策=法整備をしていくことが重要だという。
例えば、婚姻制度。全ての国民に平等に与えられている権利とはいえ、結婚できる人とできない人がいるのが現状だ。同性婚法制化が進まなければ、法律上同性のカップルは、結婚制度を使うことができない。
「『理解』だけでは『差別』はなくならない。
人権の尊重が企業戦力に。パナソニック コネクトのDE&I
パナソニック コネクト 代表取締役 執行役員 プレジデント・CEOの樋口泰行さん。 撮影/中山美華パナソニック コネクトは「カルチャー&マインド改革」のもと、あらゆる先進的な施策と共にDE&Iを推進している。同社の代表取締役 執行役員 プレジデント・CEO 樋口さんは、マイノリティの方々に寄り添い、人権を尊重することがDE&Iを推進する根本的な理由だと話す。
「なぜ、DE&I推進に力を入れているのかというと、この一言につきます。Everybody is born equal(すべて人は生まれながら対等である)。みんな平等に生まれてきたはずなのに、誰かが苦しみ悩んだり、働きにくさを感じるのはおかしい」(樋口さん)
気持ちよく、そしてイキイキと働くことは企業としての生産性の源泉でもある。人権の尊重と企業競争力を掛け合わせることが企業の存続につながる、とも説明する。
「LGBTQ+の人々は、ビジビリティ(認知度)が低い故に、もっと周囲が積極的に理解をし、寄り添い、受容していくことが必要。たとえ、“インビジブル”な存在であったとしても、我々がアライなどで活動していくことで、マイノリティの人たちに心強さを感じてもらえるのではないかと思っています。社内に向けた啓発・啓蒙活動、環境の整備、それから個人の意識改革──今後はこれらが他社や社会へ波及する一助ともなっていければと思っている」(樋口さん)
「中立」を選んで「無関心」になっていないか?
樋口さんと杉山さんの対談では、LGBTQ+の課題を巡り両者が問いたいこと、その解決策を話し合った。
撮影/中山美華まず、「LGBTQ+の方々に、無神経な発言をしてしまうケースもあると思います。杉山さんから見て、改善すべきところ、またどういった配慮をすべきかなどを教えてほしい」と樋口さん。
杉山さんは「特別扱いをしてほしいわけではない」とし、例としてトイレの問題を掲げた。 「トイレは生理現象であり、皆さんは当たり前に自分のタイミングで行くことができます。しかし当事者にとっては、訴訟を起こさないとトイレにすら行けない人生なんです」 と、生きづらさを感じている人の目線に立って考えることの重要性を伝えた。
当事者が抱える問題に対し会社として何ができるのかを具体的に考えてほしい、と杉山さんは続ける。
「重要なのは、真の意味での“中立”、“公平”とは何かを考えること。たとえば、公園のシーソーに体重の重い人と軽い人がそれぞれ乗っているとする。均衡にするには当然、軽い方に乗る必要があるのですが、多くの人が『私は中立の立場なので』と真ん中に乗るのではないでしょうか。
立場の弱い人・強い人においても同様です。同性婚の話を例にあげると、賛成者と反対者がいるなかで、中立の立場にいようとする人が多すぎではないかと思うのです。そういった状況では、弱い立場にいる人たちの生きづらさが改善されることはありません。
自分の言動がシーソーのどこにあるのかを考えてほしいです」 (杉山さん)
中立な立場にいることは、「無関心」になることと紙一重だ。「相手を尊重する」=「自分には関係ない/どうでもいい」という感覚になってはいないだろうか、と訴えた。
続いては、会場からの「中間管理層に問題を認識してもらうためにはどうすれば?」という質問に両者が答えた。
LGBTQ+の啓発活動やサポート体制を整えていくには、中間管理層のリテラシーの向上や課題認識が欠かせないと前置きした上で、「やはり、海外で生活をしたことがある方、多様性への理解の進んだ外資系などで勤務経験がある方は、そもそもこうした社会課題への意識が高いのではと考えています。当事者の意見に直接触れられる体験が増えると、意識が高まるのではないか」と 樋口さん。
また、杉山さんは自身で体験した話を例に挙げながら、「すごく仲良くしていただいた先輩のなかに、最初はLGBTQ+への理解がなかったという方がいます。何回かお会いするなかで、『LGBTQ+のことはよくわからないし、どうしても気持ちがわるいと思ってしまう。それでも、俺はお前と仲良くなってしまった!』と言われたことが。それから、その先輩の意識は変わっていき、今となっては非常に心強いアライの1人になってくれなってくれました」とアライの存在の大切さを伝えた。
さらに、マイノリティのなかには心が折れそうになる人もいるが、全員で声を発することと、周りに伝えていくことが大切だ、と話した。
企業のコレクティブインパクトが世論を変える
電通ダイバーシティ・ラボ(DDL) 中川紗佑里さん。 撮影/中山美華イベントの後半には、DDL(電通ダイバーシティ・ラボ)の中川紗佑里さんによるセッションがあった。DDLは、多様性をめぐる社会全体の課題に対し調査を行い、クライアント企業と共に解決に取り組む電通グループ横断型の組織だ。
セッションでは、「LGBT」という言葉の認知度はどれほど上がったのか、日本のLGBTQ+関連の法整備の現状についての調査内容が発表された。
「日本では、欧米などの先進国に比べLGBTQ+に関する法整備は非常に遅れています。2020年に発表されたOECDの報告書によると、35カ国中、日本は34位という結果になっています。
ただ、この法整備の分野こそ企業が集まって、意見を発し行動に移すことで、コレクティブインパクトを与えられるのではと考えています。企業が社会に対してメッセージを提示すれば、その企業に関わるLGBTQ+の方々、その家族や友達を巻き込んで世論を変えて動かしていけるのでは」(中川さん)
プライドハウス東京 共同代表 五十嵐ゆりさん。プライドハウス東京は、オリンピック・パラリンピック東京大会開催にあわせて発足したプロジェクト。LGBTQ+に関する様々な活動の他、企業とのコラボレーションや協働プロジェクトなどを通して、マイノリティの人々にとって働きやすい環境づくりを推進している。 撮影/中山美華最後に、プライドハウス東京 共同代表の五十嵐さんからは、こんなアドバイスがあった。
「間違ったことをしてはいけない、ハードルが高いと感じてしまう人が多いのでは。正しい行動を完璧にできる人なんていないのです。間違った言動をしてしまうのではないか、その前提に立った上で、今できていないことをみんなで一緒に学んでいくことが大切です」(五十嵐さん)
本イベントの参加者に向けて、山口さんは「企業から変わる、企業から変える」という熱いメッセージを送り、イベントを締め括った。