女性の健康課題への関心が高まるなか、日本の20代女性の5人に1人が将来的な健康リスクのある「やせ」状態にあることが指摘されている(「日本の若年層の健康課題」マイウェルボディ協議会調査資料より引用)。
他人から自分の体型に関してネガティブな気持ちになる発言を受けることで、ダイエットへの過剰な意識や行動を高めてしまう、SNSやメディアのダイエットを促すコンテンツに影響されてしまうといったきっかけから、自分らしく健康的な体を維持することが困難になりやすい傾向が生じている。
このような若年女性の不健康なやせの課題に取り組み、「自分らしく、心地よく、健康的な体を自らの意志で選択できる社会」の実現をめざして発足したのが「マイウェルボディ協議会」だ。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の活動から誕生し、「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」を行う。
同協会は2024年3月7日に協会発足を記念して「マイウェルボディ協議会 ラウンドテーブル・シンポジウム」を開催。本稿では、当日登壇した5名の専門家の中から、マイウェルボディ協議会 代表幹事 順天堂大学 国際教養学部 国際教養学科 教授 田村好史さんと副代表幹事 順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授 室伏由佳さんが発表した、日本の若年層女性の健康課題とその原因、及び同協議会の活動方針を紹介する。
「やせ」への願望をつくり出す社会構造を変える
マイウェルボディ協議会 代表幹事 順天堂大学 国際教養学部 国際教養学科 教授 田村好史さん。 画像提供/マイウェルボディ協議会まず、代表幹事の田村さんから同協議会立ち上げの背景と意義についてプレゼンテーションがあった。立ち上げの背景に、今までフォーカスされづらかった若年層女性の「やせ」の健康リスクがある、と田村さんは話す。
日本の若年層女性の運動頻度の割合。1週間で60分未満と運動をあまりしない層が18.1%と多いのがわかる。 代表幹事 田村好史さんの発表資料より抜粋(マイウェルボディ協議会提供)やせていることの健康リスクについて田村さんは次のように述べる。
「まず、糖尿病のリスクが高まる傾向にあります。肥満とやせの両方に糖尿病リスクはあるものの、これまでやせが糖尿病発症リスクになる原因はあまり解明されていませんでした。ただ、運動に着目すると、運動をする人とあまりしない人の二極化が進んでおり、これが関連する可能性があります。
そのため、やせた若年層の女性は、あまり食べずに運動もしないためやせているのではないかと考えました。実際に、やせている女性約100名を対象に調査したところ、あまり食べずに身体を動かさない人が多く、耐糖能異常が標準体重の人よりも7倍いることが明らかになりました」(田村さん)
耐糖能異常とは、血糖値が上昇して下がり切らない状態のことで、放置していると糖尿病になる確率が高まるという。また、食べない、運動しない、やせている。この状態を「エネルギー低回転型」と呼び、月経異常、不妊・低出生体重児、骨減少症、糖尿病などを引き起こす可能性があると田村さんは話す。
では、なぜやせている女性が増加したのか。その大きな原因の一つは、やせたい気持ちを過剰につくり出してしまう社会にあると指摘。体型に関する世間からの目、友人のやせ思考、SNS・メディアの影響により、体型不満ややせたい願望が生まれてしまうと田村さんは分析している。
「過剰なやせへの願望をなくすためには、社会を変えなければなりません。私たちは身体的、精神的、社会的に満たされている状態を『ウェルボディ』と定義し、社会的ムーブメント、健康支援・ヘルスケア・ボディイメージ教育の3つの柱からアプローチし、抜本的な価値観転換を進めます」(田村さん)
ウェルボディ実現への具体的な取り組みとして、企業同士の協働による新しい価値観・ガイドラインの設定やマーケットの創出、子どもたち一人ひとりのウェルボディ実現に向けた教材や教育方法の開発、職域・地域・学校教育などの場での「ウェルボディ」の社会実装などを行っていく予定だ。
最後に田村さんは、「ヘルスリテラシーの向上と社会全体のやせへの当たり前を崩し、医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を実現したい」と同プロジェクトがめざす先を語った。
「自分の体っていいな」と思うことから始めよう
マイウェルボディ協議会 副代表幹事 順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授 室伏由佳さん。 画像提供/マイウェルボディ協議会続いて、やせている女性のダイエット経験の有無による多面的な背景検証調査からわかった、体重への認識や行動、心理的背景等の違いを副代表幹事の室伏さんがレポートした。
16~23歳の女性1000人を対象とした調査では、やせている人(BMI値:18.5Kg/㎡未満)の割合は約25%、ダイエット経験の有無はおよそ62%が「ある」と回答。ダイエット経験の有無に着目してみると体型への認識や運動習慣、食習慣、摂食態度、性格特性などに興味深い違いがあるという。
「18~29歳約400名のやせ女性を対象に、なぜ『やせ』に至ったのかを検証した結果、ダイエット経験の有無によって、体重への認識や運動習慣、食習慣等、様々な背景が大きく異なっていることがわかりました。ダイエット経験のあるグループは、ダイエット経験のないグループに比べて『体重を増やしたくない』、『食事量を増やすことに抵抗がある』と回答する割合が高く、また、『肥満だと感じる体重が軽い』、心理尺度からは『メディアから受け取る美に対する情報の内在化傾向が強い』、性格特性として『勤勉性が高い』という傾向もわかりました」(室伏さん)
こうしたストイックなダイエット行動を生み出す背景には、美に対する情報に敏感になり、理想の体型や体重になる目標に向けて、一生懸命に取り組む特性の存在が浮き彫りになった。
一方で、ダイエット経験のないグループについては、「特徴として『運動習慣を持つ』こと、『体重や食事量を増やすことに対する抵抗は少ない』ことも分かありました。しかし、実際の行動に踏み出せていない特徴がみられます。このように、同じやせている女性でも、ダイエット行動の有無により、個人の認識や行動、健康課題は異なることを理解する必要があります。両タイプに必要となる健康改善や促進に関する情報を適切に発信し当事者に届けていく必要があります」と、室伏さん。
副代表幹事 室伏由佳さんの発表資料より抜粋(マイウェルボディ協議会提供)「理想体型に捉われすぎず、アクティブに動けたり健やかな『自分の体っていいな』と思うことが大切。これが『ウェルボディ』の実現と健康を維持する最初の一歩になるのでは。そのために重要なのは、やはり運動です。
運動は健康リスクの防止だけでなく、即自的に体型に対するポジティブな認識をもたらす効果があり、自信や『動けるっていいな』といった有能感にもつながりプラスエネルギーを与えてくれます」(室伏さん)
また、健康に対する正しいリテラシーをもち、社会のなかで発信されている健康や美に関する誤認性を改め正しい情報を発信し伝えていくことが重要だ、とも訴えた。
身体的にも精神的にも、そして社会的にも健康な状態であること。その「ウェルビーイング」な状態であり続けるためには、自分自身の体を好きになり、自分らしく健康的であることが不可欠だ。
「誰もが自分らしく健康的な体を自らの意志で選択できる社会」を実現するには、個人の力だけでなく社会全体の意識と行動を変えていく必要がある。第一歩として歩み出したマイウェルボディ協議会の今後の取り組みに注目したい。
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