「女の子は数学ができない」、「理工系分野は男性のほうが得意」……そんなバイアスが社会に浸透しているがゆえ、夢をあきらめてしまう学生がいるとしたら? 未来のテクノロジーの健全な進化が妨げられるのではないか。
学問や職業に根付く性のイメージを取り払い、周囲から求められる枠を超えて、誰もが自ら将来を切り開けるよう後押ししたい。
本稿では日本の若きイノベーターによるピッチコンテストと、Waffleの森田久美子さん、フェムテック企業Cradle CEOのスプツニ子!さんによるトークセッションの様子をお伝えする。
※ノンバイナリー=戸籍上の性別に関係なく自身の性自認・性表現に男性や女性の枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティのこと。
「AI×折り紙」で認知症予防。中学生チームがダブル受賞
中学生3名チーム「Spes Dojo」。プレゼンテーションでは、アプリに活用した3D技術と考え抜かれた事業プランで会場を沸かせた。 撮影/MASHING UP編集部今回の日本公式ピッチイベントでは、日本全国から集まった13~18歳の学生、述べ400名以上85チームの中から選抜された10チームが、スポンサー企業5社の審査員に対し、5カ月かけて開発したアプリと事業計画のプレゼンテーションを実施。今年は大手企業による協賛に加え、文部科学省の後援もあり、社会的意義のあるコンテストとしてパワーアップした。
審査で重視されたのは、社会貢献度の高さ。10チームのなかで文部科学大臣賞とMetLife賞のダブル受賞を果たしたのは、中学生チーム「Spes Dojo(スペスドージョー)」だ。折り紙とAIを掛け合わせた認知症予防アプリ「OriPal(オリパル)」を開発した。
そのほか企業賞には、若者向け政治参画アプリや聴覚障がい者向け災害時支援アプリ、車椅子ユーザーのための電車乗り換え案内サポートアプリなどを開発した4チームが選ばれた。
本コンテストに参加した10チームなどが、2024年10月にアメリカで開催される世界大会へチャレンジする予定だ。
多様な角度から課題を見つける。ジェンダー平等がもつ意義
森田久美子さん/長野県出身、新卒でNTTドコモに入社。ネットワークエンジニアとして、巨大データセンターのプロジェクトマネジメントや、アジア各国の携帯キャリア向けのネットワーク構築のコンサルティングなどに従事。2022年にWaffleに参画し、現在はパートナー企業との協業や政策提言などを担当。 撮影/MASHING UP編集部「Waffle Festival」2日目、Waffleディレクターの森田久美子さんが登壇。森田さんは、「IT分野を進路に選ぶ女子学生が非常に少ない。本イベントが女子学生やジェンダーマイノリティの学生の後押しになれば」との想いを述べた。
「ITはアートや美容、ファッションや農業、産業、ヘルスケア、医療など、多様な分野と組み合わせて多くの課題を解決することができます。IT分野で活躍する女性が増えれば、社会のあらゆる問題を見つけて解決策を導くことも可能に。
続いてマイクを握ったのはスプツニ子!さん。現在は東京藝術大学デザイン科准教授であり、フェムテック事業を展開するCradleのCEO。STEM分野で活躍する日本の女性のロールモデルだ。
スプツニ子!さん/インペリアル・カレッジ・ロンドン数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。RCA在学中より、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた映像インスタレーション作品を制作。テクノロジーとジェンダーをテーマにアーティストとして数々の作品を手がけ、過去に男性も体験できる「生理マシーン」を発表。 撮影/MASHING UP編集部10代の頃からテクノロジーに興味があったスプツニ子!さんは、学生の頃に抱いたSTEM分野におけるジェンダーギャップに対する違和感を語り、多様な視点から問題提起をすることの重要性を指摘。
「私がイギリスの大学院で学んでいたのが、スペキュラティブデザインというもの。これは、目の前の課題を解決するだけでなく、もっと未来に視野を広げて課題を探し、解決策を考える学問です。10年、20年先の世界をイメージして、問いを立てていく──デザイナーに限らず、エンジニアなどにも今後求められる考え方です。
私がずっと課題に感じていたのは、テクノロジーの世界で女性のニーズや視点が軽視されてきてしまったこと。ジェンダーギャップがあると男性中心の視点に偏り、女性にとって重要なテクノロジーの開発が遅れる傾向がみられます」(スプツニ子!さん)
最後に「ダイバーシティによって多様な視点が入ることが、テクノロジーやサイエンスの進化にとって重要。
参加者からは「女性×テクノロジーの可能性を感じて励まされた」「ITの力を使って世界の認識を変えることができるということを知れた」などの声が上がった。