「カルティエ ウーマンズイニシアチブ(CWI)」の2024年度フェローたち。アワードセレモニーでは、2024年度の受賞者と2025年度のプログラム詳細が発表された。
©Mao Chung

ラグジュアリーメゾンのカルティエが創設した「カルティエ ウーマンズイニシアチブ(CWI)」の2024年度のアワードセレモニーが5月、中国・深圳で開催された。この記事では17年にわたって続いてきたCWIの取り組みを紹介し、今年のアワードの様子をレポートする。

社会課題解決を目指すビジネスが成長できるよう、多角的に支援

女性起業家が乗り越えなくてはならない壁は多い。ジェンダーバイアスや社会の固定観念、ロールモデルの不足はもちろん、男性起業家に比べ支援のネットワークが限られ資金調達に苦労する傾向にある。ビジネスを通して社会や環境をよくしたいと願うインパクト起業家にとってハードルはさらに高くなっている。

CWIはインパクト起業家がその可能性を最大限に追求できるよう、多角的な後押しをしているグローバルな取り組みだ。起業家のエコシステムをよりインクルーシブなものにするため、2006年に創設された。

さまざまな支援が受けられるこのプログラムは、国や分野を問わず、女性が主導、あるいは所有しているビジネスを対象としている(※)。社会や環境に強力かつ持続可能なプラスの影響をもたらすことを目的とし、喫緊のグローバルな課題に対し有益なソリューションを提供するビジネスであることが条件となる。

※ 11のカテゴリーのうち、ダイバーシティ エクイティ&インクルージョン アワードだけは、すべてのジェンダーを対象としている。

助成金が得られるだけでなく、ビジネススキル獲得や人脈構築のチャンスも

毎年世界中から応募を受け付け、その中から9つの地域と2つのテーマごとに3名のインパクト起業家がフェローに選ばれる。各カテゴリーのフェローは1年間のフェローシップ プログラムに参加。フランスの有名ビジネススクールINSEADのインパクト起業家向けトレーニングのほか、リーダー向けのコミュニケーション術やエグゼクティブ・コーチングを提供するこのプログラムでは、事業成長に必要なさまざまなスキルや知識を身につけられる。

このほかにも、過去のフェローも利用できる定期的なピアラーニングのセッションやワークショップ、リソースも提供されている。

アワードセレモニーでは、カテゴリーごとに1~3位が発表され最優秀賞は10万ドル、2位と3位の受賞者にはそれぞれ6万ドルと3万ドルの助成金が授与される。

CWIのアワードは、9つのリージョナル アワードと、2つのテーマ別アワードで構成されている。オリンピック飛込競技の金メダリストで公共福祉と環境保護の推進に取り組むグォ・ジンジン(右から二人目)も、壇上でスピーチを行った。 ©Mao Chung

CWIには、もうひとつ大きな特徴がある。それは現在と過去のフェローやメンター、審査員、コーチ、投資家など700名を超えるメンバーで構成されるコミュニティだ。オンラインやリアルで定期的にイベントやワークショップを開催しているこのコミュニティに、フェローは選ばれた年だけでなく生涯にわたり参加することができる。

このコミュニティは、人脈構築や学びの場であるのはもちろん、心的サポートも提供している。日々さまざまな問題に直面し難しい判断を迫られる起業家は、リーダーという立場上周りに気軽に相談できず孤独を感じやすい。CWIのコミュニティは、起業家同士が損得抜きで対話し、助け合えるセーフスペースとなっているのだ。

今年のテーマは「Forces for Good(世界をよくする力)」

2024年のCWIのテーマは「Forces for Good(世界をよくする力)」。アワードは9つのリージョン別カテゴリー(中南米およびカリブ海地域、北米、ヨーロッパ、フランス語圏サハラ以南アフリカ、英語圏およびポルトガル語圏アフリカ、中東および北アフリカ、東アジア、南アジアおよび中央アジア、オセアニア)のほか、「サイエンス&テクノロジー パイオニア アワード」と「ダイバーシティ エクイティ&インクルージョン アワード」の2つのテーマ別カテゴリーがある。今年も各カテゴリーで3名のフェローが選ばれ、プログラムに参加した。2024年の参加者の事業には以下のようなものがある。

スモールビジネスや個人向けの低金利の少額融資アプリ(コロンビア、エジプト)や、手数料を抑えた海外送金(ルワンダ)などのフィンテック。

自然由来の殺虫剤(エジプト)、フードロス解消(ケニア、フランス)、栄養豊富な食事へのアクセス向上(ケニア、ルワンダ)を図るサービスなど、農業や食に関するビジネス。

小規模店舗向けの物流(セネガル)、水質浄化(インド、モロッコ)、バイオ生産を効率化する濾過システムなどのインフラ的なソリューション。

子どもの学びを深めるラーニングツール(ナイジェリア)、テック系スキル習得(アメリカ、カナダ)や投資教育(ニュージーランド)などの教育プラットフォーム。

認知症ケア・アプリ(オーストラリア)、母親向けのセラピー(オーストラリア)、乳がんサバイバー向けの下着など、ウェルビーイングに関するサービスや商品。

目の不自由な人を助ける音声アプリ(アメリカ、インド)、身体に障がいがある人のための服飾ブランド、発話障がいのある子どものリハビリなど、インクルージョンを促すサービスも複数あった。

コロナ禍で広がったジェンダーギャップの解消は喫緊の課題

5月22日、フェローを讃えるアワードセレモニーが起業家の街として知られる中国の深圳で行われ、33名のフェローたちが一堂に会した。

セレモニーは、浙江音楽学院舞踊学院による鮮やかなパフォーマンスで幕を開けた。 ©Mao Chung

浙江音楽学院舞踊学院のパフォーマンスで幕を開けたセレモニーのホストを務めたのは、英国の司会者でジェンダー平等推進の活動に取り組むサンディ・トクスヴィグ。最初に登場したカルティエのプレジデント&CEOのシリル・ヴィニュロンは、コロナ禍でジェンダーギャップが再び大きく開いてしまった現在、その解消に向けた取り組みが切実に求められていると語った。

カルティエ プレジデント&CEOのシリル・ヴィニュロンがトークに登壇。「女性が輝けば、人類・社会全体が輝く」というメゾンの信念を伝えた。写真右はホスト役の作家でジェンダー平等の推進に取り組むサンディ・トクスヴィグ。
© Floris Heuer

起業家として活躍するスーパーモデルのカーリー・クロスや、オリンピック飛込競技の金メダリストで公共福祉と環境保護の推進に取り組むグォ・ジンジンなど著名人もゲストとして登壇。誰もが自分の可能性を追求できるインクルーシブな社会の重要性を訴えた。

セレモニーには、スーパーモデル、起業家であり、慈善家のカーリー・クロスが登壇。誰もが自分の可能性を実現できる社会の重要性を訴えた。 ©Mao Chung

次に、2024年度のフェローたちの事業が紹介され、カテゴリーごとに3位から1位までの順位が発表されトロフィーが授与された。

セレモニーの最後に、各アワードの1位から3位の受賞者が発表された。 © Floris Heuer

女性が輝けば、人類・社会全体が輝く

カルティエは2025年の大阪・関西万博で、内閣府、経済産業省、博覧会協会とともに「ウーマンズ パビリオン」を出展する。これは2020年ドバイ国際博覧会に続くもので、「When women thrive, humanity thrives ~ともに⽣き、ともに輝く未来へ~」をコンセプトに掲げる。

ウーマンズ パビリオンの出展に合わせ、2025年の5月22日に開催されるCWIのアワードセレモニーでは過去のフェローたちがそれぞれの分野でもたらしたインパクトに焦点を当てる。国連のSDGs(持続可能な開発目標)に基づく「Improving Lives(生活の向上)」「Preserving the Planet(地球の保護)」「Creating Opportunities(機械の創出)」のカテゴリーで、9名のインパクト起業家を表彰する。日本の起業家にとっても大きなインスピレーションとなることだろう。

Cartier Women's Initiative

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