多様な顧客接点を活かした、同社ならではのサステナビリティ経営とは?
小売とフィンテックという両軸を強みに、ステークホルダーとの「共創」を掲げる丸井グループの取り組みに迫る。
信用は与えるものではなく、つくるもの
丸井グループ 執行役員 サステナビリティ部長 兼 ESG推進部長の塩田裕子さん。 撮影:中山実華現在、「マルイ」「モディ」を全国に22店舗展開する丸井グループ。
リアル店舗とECを通じて顧客を獲得する一方、エポスカードの会員数は750万人以上となり、「小売・フィンテック一体型」という独自のビジネスモデルを強みとしている。
その経営の中心にあるのが「共創」という考え方だ。これは、“信用は私たちがお客さまに与えるものではなく、お客さまと共につくるもの”という創業者の言葉に由来する。
「私たちは商品、お店、クレジットカード、新規事業に至るまでお客さまと“共につくる”ことを大切にしています。
近年ではこの考え方をすべてのステークホルダーに広げ、『お客さま』『株主・投資家』『地域・社会』『お取引先さま』『社員』『将来世代』との共創に取り組んでいます」(塩田さん)
ペットボトルでできたパンプスは、なぜ生まれたのか
画像提供:丸井グループ共創事例の一つが、2021年に立ち上がったライフスタイルブランド「Kesou(ケソウ)」だ。
「サステナビリティ」と「履き心地」の両立を目指して開発されたKesouのパンプスの素材は、捨てられるはずのペットボトルからつくられた再生糸。アウトソールに天然ゴム、中敷きにはペットボトル再生素材と、サステナブルな素材が多く使われている。
手に取って驚くのは、靴とは思えないほどの軽さ。履いてみると抜群のフィット感に感動すら覚えるほどだ。「おしゃれをしたいけれど無理はしたくない」という人にぴったりの安定性とデザイン性、そしてサステナビリティを兼ね備えたパンプスが誕生した。
「素材には、マルイ店舗をはじめ国内で回収されたペットボトルが使われています。
そのペットボトルから高品質な糸をつくり、パンプスに仕上げてくださったお取引先さま、ペットボトルの回収やサンプルの試着にご協力いただいたお客さまなど、ステークホルダーとの共創によりKesouというブランドが成り立っています」(塩田さん)
脱炭素への貢献とビジネスをどう両立する?
店舗や顧客との接点を活用した丸井グループの取り組みはほかにもある。
脱炭素社会の実現に向け、2018年に国際的イニシアチブ「RE100」に加盟し、2030年までに全店舗・全施設への再エネ100%電力導入と100万トンのCO2削減を目指している。
その一環として、全国の発電所から電力を調達するUPDATER社と提携し「みんな電力」を利用してマルイ各店舗への再エネ導入を進めるほか、エポスカード会員に再エネへの切り替えを促すなど、事業特性を活かした施策にチャレンジしている。
「これまで約1万人のお客さまに再生可能エネルギーへの切り替えをお勧めしています。
またエポスカードを通じて月々の電気代をお支払いいただくことで当社の収益を高め、『インパクト』と『利益』の両立を目指しています」(塩田さん)
サプライチェーンを通じたGHG排出量に着目するScope1~3に加え、最近では企業がビジネスを通じてGHG削減に貢献した量を算定する「Scope4」が注目されている。
日常生活に欠かせないクレジットカードと再エネ活用を紐づけたこの取り組みは、自社の商品やサービスを通じてGHG排出量の削減に貢献できる独自の好事例と言えるだろう。
途上国の3万3000人を支援
撮影:中山実華丸井グループでは、環境(Environment)だけでなく、社会(Social)に関する取り組みにも注力しているという。
その一つが、主に知的障害のあるアーティストの作品をさまざまなプロダクトを通じて社会に届けるヘラルボニー社とのコラボレーションにより生まれた「ヘラルボニーカード」だ。
カード作成時、利用者は好きな作品や作家からデザインを選ぶことができ、利用額の0.1%はヘラルボニーを通じて作家の活動支援や福祉団体に寄付される。 資料提供:丸井グループ「現在、ヘラルボニーカードの会員数は2万人を超えています。美しいデザインと『作家さんを応援したい』という理由からこのカードを選ばれるお客さまが多いですね」(塩田さん)
「応援したい」という気持ちを後押しするもう一つの取り組みが、ブロックチェーン技術を活用した「応援投資」だ。
これは丸井グループが発行するデジタル債に対し、エポスカード会員から集まった資金がパートナー企業を通じて途上国の低所得者層などに融資されるものだ。
2億円の募集枠に対し35億円の応募が寄せられるなど高い関心が集まっており、これまで途上国の小さな子どもを持つ女性を中心に3万3000人への支援を実施してきた。
「取り組みにご参加いただいたお客さまは、以前と比べてカード利用額が1.3倍に増えていることが分かっています。
お客さまの資産形成と『誰かの未来を応援したい』という社会貢献への思いを両立させる応援投資を通じてエポスカードのファンになっていただき、それが当社の収益向上につながっています」(塩田さん)
最後にガバナンス(Governance)について、丸井グループでは2021年より重要なステークホルダーである「将来世代」の人材をアドバイザーとして迎えることで、新たな視点を取り入れ未来志向の経営体制の強化を図っている。
これまでに、初代ユーグレナCFO(Chief Future Officer)に就任した小澤杏子氏、Stake Technologies 創業者でWeb3起業家の渡辺創太氏をZ世代の代表としてアドバイザーに迎え、将来世代との共創を通じて未来に向けた価値創造を加速中だ。
本気のサステナビリティ経営、カギは「対話」
丸井グループは「丸井グループビジョン2050」に基づき、2021年にサステナビリティとウェルビーイングに関わる目標を「インパクト」として定義し、あわせて2022年にはKPIを設定。
進捗状況を定量的に把握し、インパクトと利益の両立の実現を目指している。
資料提供:丸井グループまた、役員報酬についてもサステナビリティ指標を組み込むなど、サステナビリティ経営に対する“本気度”がうかがえる。
資料提供:丸井グループサステナビリティ経営において、丸井グループが一貫して重視しているのが「情報開示」だ。以下のようにさまざまな媒体で企業の方針や取り組みの進捗を公開している。
- ESGデータブック
- 共創サステナビリティレポート『VISION BOOK 2050』
- 共創経営レポート(統合レポート)
- インパクト共創マガジン『& magazine』
- インパクトブック
「情報開示によってステークホルダーの皆さまとのダイアローグ(対話)が始まります。
お客さま、投資家の皆さま、社員など、さまざまな人との対話により改善ポイントが見えてきたら、それを改善・開示して、さらなる展開につなげていく。
そのサイクルを回し続けることが、真のサステナビリティ経営の実現につながると考えています」(塩田さん)
※2024年4月に実施された、台湾政府・企業による日本のESG視察ツアー時の内容を抽出・編集したものです。
※本記事は、2024年7月3日掲載Business Insider Japanの記事の転載です。
文/星野愛、撮影/中山実華、編集/中島日和[Business Insider Japan Brand Studio]