Screenshot by MASHING UP

テクノロジー業界の先駆者アップルが描く、「包摂的な社会」の未来像とは。

世界をリードするこのブランドは、ひょっとしたら社会のありかたを変えようとしているのかもしれない。

2024年9月に行われた発表会では数々の革新的なアップデートが発表され、多くのメディアはその話題に湧いた。iPhone16シリーズはApple Intelligenceに対応、AIを使いこなすために設計され、カメラ機能に大幅な進化がみられた。さらにApple Watchの従来モデルよりも薄型化が進み、そのクリアなディスプレイにも注目が集まった。

しかし筆者がそれに加えて注目したのは、アップルが多様性と包摂性の推進にも同様のクリエイティビティを発揮していることだった。

アップルのカンファレンスの映像から見える「包摂性」

まずはカンファレンスムービーで伝えられているメッセージに注目したい(カンファレンスムービーはこちら)。

アップルが考える包摂的な社会、社会におけるウェルビーイングのイメージは冒頭の2分でわかる。

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最初に出てくるのは片腕の女性、MelissaShapiro。スニーカーを履き、軽やかにダンスをする姿。片手の親指と人差し指の先をちょんちょんとジェスチャーするAssistiveTouchで、Apple Watchを操作するところから始まる。

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手話で話す黒人の男性がいる。このThyson Halley は、ろう者をサポートする団体の設立者であり、アメリカ手話の教師、そして通訳だ。彼は家族との会話にiPhoneのライブキャプションを使っている。

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笑顔で風を切って車椅子で移動するJocelyn Mondragonは、iPhoneの音声入力を活用して大学を卒業した。

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軽やかにダンスする黒人男性のSteven Luembaは、Apple Watchの心電図アプリで手術後の健康を管理。動画では、アプリで心房細動の通知を受け取ったMaurice Wrightが、緊急治療を受けたというエピソードも紹介されている。

ムービーには、いわゆる美男美女は登場しない。しかし、音楽とダンスでスムーズにつながった映像で描かれるのは、なんともいえない“温かく豊かな世界”だ。

個人と社会のウェルビーイングを支えるテクノロジー

ようやく2分過ぎたところで、アップルCEOのティム・クック氏が登場する。もちろん背景には、多様性を意味する「レインボーのモニュメント」だ。 Screenshot by MASHING UP

前述のように、今回の発表では数々の大きなアップデートがあったが、筆者が注目したのは、AirPods Pro2に追加される「耳の健康」に関する一連の新機能と、Apple Watchの「睡眠時無呼吸症候群」検知機能だ。

予防・認知・補助、“オールインワン” の聴覚サポート機能

AirPods Pro2は、今秋のアップデートで、既存の「大きな音の低減」に加え、ヒアリングチェック機能、ヒアリング補助機能も追加に。これにより、米食品医薬品局(FDA)が承認した市販の補聴器として使えるようになる。

取材のなかでアップルの担当者に「耳の健康」に関するプロジェクトを本格的に始めたきっかけを聞いたところ、「すべては消費者からの声から始めている」という回答を得た。

また、ハーバード・ロー・スクールを卒業した初の盲ろう者であるハーベン・ギルマ弁護士は、当事者としてアメリカのメディアMashableにコメントしている。(以下、翻訳引用)。

障がい者はイノベーションの原動力であり、そうした開発は時を経て主流へと広がっていきます。将来の人々は、補聴機能が常に備わっていたわけではない補聴器の歴史を知って驚くことでしょう。

Appleは、障がい者向けのイノベーションが私たち全員のテクノロジーを進歩させることを示す先導的な役割を担っています」(ハーベン・ギルマさん)

Apple Watchに「睡眠時無呼吸症候群」の検知機能を搭載

今回の発表で、Apple Watchで睡眠時無呼吸症候群の兆候を知る機能も発表された。睡眠時無呼吸は、睡眠中に一時的に呼吸が止まり、身体が十分な酸素を取り入れられなくなる疾患。この症状は世界中で10億を超える人々に影響を及ぼすと推定されている。この機能は、「Apple Watch Series 10」ほかで利用できるという。

1日中身につけるApple Watchで、心拍の計測や心房細動の兆候の検知などが実装されているが、そこに加わった革新的なアイディアも、「利用している方からの声」がもとになっていると関係者は話す。とにかく一般の人を大切にしたいし、そこを見ているというわけだ。

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ブランドの新製品発表、という文脈を差し引いてもなお、今回のカンファレンス映像には力強いメッセージがあったと思う。多様な背景を持つ普通の人たちの暮らしと生の声、そして包摂的な社会とコミュニティ像は、私たちに新たな視点と可能性を提示しているのではないか。

そしてこれは、社会の形や価値観さえも変える試みではないかと思う。「テックジャイアント」と呼ばれる企業だからできることかもしれない。

これらのプロダクトとこの映像は、ダイバーシティが単なる理想ではなく、イノベーションと成功の鍵であることを示していると感じる。多様性を受け入れ、活かすことが、企業の競争力と社会的責任の両立につながることを伝えている。

今後、企業や組織がこうした先進的な取り組みにどう応答していくのか、そして私たち一人ひとりはどのようにダイバーシティ推進に貢献できるのか。アップルの映像は、そんな問いかけと行動への起点になるのではないか。ダイバーシティの未来は、私たちの手の中にある。

取材・文/遠藤祐子(MASHING UP)

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