撮影/MASHING UP編集部

2024年11月25日、 ワーナーブラザース・ディスカバリーの日本法人各社にて「TRANSGENDER AWARENESS MONTH」の一環として、DEIのさらなる理解を深め、職場環境の向上をめざすべく、ミュータントウェーブをゲストに迎え、社内トークセッションを開催した。「ぶっちゃけトーク」と題された本イベントでは、事前に集めた質問や当日寄せられた疑問に対し、ミュータントウェーブの3名が本音で回答

個人の体験談や社会への率直な想いが語られ、DEIについて深く考える貴重な場となった。

DEIの本質的理解を深めるために

本イベントは、ワーナーブラザース・ディスカバリー日比谷オフィス、ワーナーブラザース スタジオ東京(以下練馬オフィス)合同で行われた。DEIへの理解を深めるべく多くの社員が集まった。 撮影/MASHING UP編集部

冒頭、同社のDEIアンバサダーよりトークセッション開催の意図が語られた。

「私たちがどう行動していけばより良い環境を作り出せるのかを、当事者である本日のスペシャルゲスト・ミュータントウェーブの皆さんと楽しく考えていきたい」

今回のゲスト、ミュータントウェーブは元なでしこリーグのサッカー選手であるAsahi、Ochan、Masaの3人で構成されるグループだ。現在は3人とも「男性」として生き、ジェンダリストとして活動している。「“世界中のすべての人々が自分を愛せる世界”の実現」をビジョンに掲げ、メディアや企業、教育現場、自治体など、さまざまな団体と協力しながら、ジェンダーや多様性について考えるきっかけを提供している。 現在、渋谷区観光協会渋谷観光フェローにも就任し、国籍年齢性別問わず多くの人とコミュニケーションを取り続けている。

「私たちのタグラインは『愛に触れて、溢れて』です。LGBTQという言葉や知識を知ることはとても大切ですが、それ以上に、人と人との関係を築くうえで本当に大事なことは何なのかを考えるきっかけを届けたいと思っています。

イベントなどを通じて、自分を愛する気持ちや満たされた感覚を感じてもらい、その思いが他者へと繋がっていく、そんな循環を生み出していきたいと考えています」(Ochan)

トークセッションでは、事前に集められた「3人に聞きたいこと」に加え、普段は聞きづらいことや素朴な疑問、3人の個人的な体験についてなど、さまざまな質問が飛び交い、活発なやり取りが繰り広げられた。今回はその一問一答をご紹介する。

大切なのは「その人自身」を見ること

右/練馬オフィスにて参加したミュータントウェーブのOchan。日比谷オフィスとはオンラインで繋ぎ、トークセッションを繰り広げた。
撮影/MASHING UP

──会話のなかのジェンダーに関する「無意識な偏見」にはどのように対処していますか?

「まず、言葉の受け取り方や伝え方について考える必要があると思います。家族や友人との自然な会話の中で出てくる無意識の偏見は、ある意味、自分自身を意識して当事者として捉えていないからこそ、無意識に発せられることもあります。気を遣いすぎると、そうした当たり前の会話さえも難しくなってしまうこともあるのです」(Ochan)

「僕は、信頼関係が前提にあると考えています。その人と関わった時間の深さや温度感、コミュニケーションの質や量によって、無意識の偏見に対する捉え方も変わると思うんです」(Asahi)

「2人が言っている通り、結局は信頼関係が全てだと思います。例えば、僕の家族の話をすると、帰省したときに父がペットの犬に『よかったね、お姉ちゃん帰ってきて!』と言うんです。最初は『やっぱり、お姉ちゃんか』と思いましたが、父は特にそのことを考えていない。それに、父にとって僕は娘であるからこそ、そんな風に自然に声をかけてくれたんです。互いに寄り添えるような信頼関係を築き、良いコミュニケーションを取ることが一番大切だと思います」(Masa)

──なでしこリーグで活躍されていた時、違和感を抱えたり悩んだりしたことはありますか?

「なでしこリーグにいたことは、私たちの活動に繋がっています。当時、メンバーに自分の性について明言しなくても、肯定されている感覚がありました。サッカーでは、それぞれのポジションがあって、得意不得意を補い合いながら試合を進めます。その考え方が、日々の生活にも浸透していました。一人ひとりの個性を尊重しながら人間関係を築き、サッカーを続けることが大切な社会だったんです。

しかし、引退してから違和感を覚える場面が増えました。特にホルモン注射で声が変わった後、初めて就職活動をしたときの経験です。名前や性別に関する質問が多く、仕事について話す時間さえ取れませんでした。トランスジェンダーであることを理由に、内定を断られたこともあります。

その後、オーストラリアで生活し、文化の違いを体感しました。日本では、トランスジェンダーであることに関心が集中しがちですが、オーストラリアではその人自身を見てくれる社会でした。この経験から、『その人自身を見る』ということの重要性を伝えたいと思い、現在の活動を始めました」(Ochan)

分断が生まれない職場環境を築くために

日比谷オフィスにて参加し、率直な疑問に自身の経験や体験から回答するAsahi(左)とMasa(右)。家族との関係性や自身の性について気づいた時の話なども語った。 撮影/MASHING UP

──性の多様性について理解を深めるために、どのような交流の形があるといいでしょうか?

「僕自身、活動を通じて初めてLGBTQ当事者の方たちに会うようになりました。企業であれば、アライコミュニティのような場が増えればいいと思います。当事者だけでなく、支援したい人たちも集まれる場があることで、理解が広がると感じます」(Asahi)

「コミュニティは、居心地の良い場所であるべきだと思います。属したい人が自由に属せる場が理想ですね。ミュータントウェーブでも、コミュニティを作りたいという話をしています」(Masa)

「私自身、コミュニティの友人がたくさんいますが、分断が生まれやすい印象を持っています。

企業でも同じことが言えるのですが、同質な環境では新しいことが生まれにくいですよね。多様なセクシュアリティや背景を持つ人同士が学び合うことで、新しい発想や価値観が生まれると思います。今後は、インクルーシブな環境を作っていくことが、より重要になると感じています」(Ochan)

──もし、トランスジェンダーであることを説明しても理解してもらえない場合、その人とはどのように付き合っていきますか?

「自分のジェンダーについて、無理に理解してもらおうという気持ちは最初からあまりありません。恐らく、トランスジェンダーについてよく知らないからこそ、脅威に感じてしまう人もいるのではないでしょうか。そんな中でも、自分の考えを整理する時間がほしいと素直に伝えてくれる人もいます。そういう方には、焦らず時間をかけて自分を知ってもらえればいい、くらいに思っています」(Ochan)

「僕も似たように考えています。トランスジェンダーについて知るきっかけが自分だったんだと感じることも多いですね。そういう場合は、自分が納得できるまで、その方とのコミュニケーションを諦めません。結局、LGBTQについて知らないことによる誤解や戸惑いが原因で壁ができているだけなので、対話を重ねることでその壁を少しずつ崩していけると思っています」(Asahi)

男らしさ、ではなく思い描く自分のありたい姿だった

「男らしさ」、「女らしさ」への見解について、わからないことも多いが、自分の中のフィルターにいかに気づくかが大切だと語るMasa。 撮影/MASHING UP編集部

──昨今、ジェンダー問題への意識が高まり、「男らしさ」、「女らしさ」を避ける風潮にありますが、ミュータントウェーブさんはどのように考えていますか。

「正直、『男らしさ』、『女らしさ』への答えは未だわかりません。でも、僕自身、メンタルトレーナーとして活動する中で『男』ってなんだろうと考えたことがあります。

かつての僕は『泣かない』、『弱音を吐かない』といった理想の男性像を持っていました。でも、それは『男らしさ』というよりも、僕が思い描く『なりたい未来像』だったんです。そう気づいたことで、自分自身のジェンダーに対するフィルターが外れ、より心地よく生きられるようになりました」(Asahi)

「僕も自分の中でまだ整理できていませんが、かつて『男らしさ』に対する固定概念を抱いていました。しかし、この活動を通じて、ジェンダーを含む多様な人々の存在を学び、多くの方とコミュニケーションをとる中で、自分自身の固定概念に気づき、それを手放すことができました」(Masa)

──カミングアウトはご自身からされたいですか?気づいた時にこちらから性について聞いても差し支えないのでしょうか? また、もしカミングアウトをしてくれた時の失礼じゃない反応は?

「カミングアウトするかしないかは、個人の選択であるべきだと思います。そして、カミングアウトされた側の反応にも正解はありません。ただ、『言ってくれてありがとう』と建前で答えるより、驚いたなら驚いたと、正直な気持ちを伝えてくれる方が嬉しいです。当事者として、相手の率直な反応を聞けると安心感があります」(Asahi)

「僕もAsahiと同じ考えです。僕らはカミングアウトする相手を選んでいるので、もしその場で打ち明けられたら、素直に受け止めてほしいと思います」(Masa)

「職場で親しくなった同僚2人に打ち明けたことがあります。2人は驚きつつ、『一度理解するために考えたい』と素直に伝えてくれました。その時、相手が誠実に向き合おうとしていることが伝わり、傷つくことはありませんでした。

カミングアウトのタイミングや、それを待つべきかどうかについては、自分がなぜその人の性について知りたいのかを考えてみるといいと思います。その動機を見つめることで、相手との本質的な関わり方が見えてくるのではないでしょうか」(Ochan)

ミュータントウェーブの3名が語る体験や思いに、時折頷き、微笑みながら真剣に耳を傾けていたワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの社員の方々。

このような社内イベントを通じて、多様性や包括性への理解を深め、より良い職場環境の実現を目指している。

取材・執筆・撮影/杉本結美

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