記事のポイント
- at FORESTが循環葬®︎「RETURN TO NATURE」を開始し、遺骨を森に還す新たな埋葬方法を提案。
- 葬送の課題と森林保全を掛け合わせ、持続可能な森づくりと多様な価値観の受容を推進。
- 墓標を立てない埋葬に共感が広がり、関東への拠点拡大や資金調達も進行中。
少子高齢化が進む日本で、埋葬の新たな選択肢が生まれようとしている。at FORESTが2023年7月から提供を開始した循環葬®︎「RETURN TO NATURE」は、お墓と森林保全を掛け合わせた国内初のサービスだ。「森と生きる・森に還る・森をつくる」を合言葉に、墓標を立てることなく、火葬した遺骨をパウダー化し森林に埋葬する。その革新性は応募総数2,000件を越える日本最大級のクリエイティブアワード「2024 64th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」でも認められ、「クリエイティブイノベーション部門」にて《ACC ゴールド》を受賞した。
誰にでも訪れる死を森づくりにつなげ、豊かな自然を未来世代に遺す──。環境保全と多様な価値観の両立を目指す同社代表取締役CEOの小池友紀さんに、循環葬への思いを聞いた。
多死社会の到来が浮き彫りにする葬送の課題
小池友紀(こいけ・ゆき)/広告クリエイティブの世界に入り、フリーランスのコピーライターとして15年活動。商業施設やホテル、コスメ、子ども園など様々なコピーライティング、コンセプトメイキングを手がける中、両親の改葬(お墓の引越し)をきっかけに日本の墓問題と向き合い、死と森づくりを掛け合わせた「循環葬 RETURN TO NATURE」を創案。at FOREST株式会社を設立し、2023年7月に関西・北摂の霊場 能勢妙見山にてサービスをスタート。 ©atFOREST循環葬®︎「RETURN TO NATURE」が生まれた背景には、少子高齢化とともに到来した「多死社会」があると、小池さんは語る。日本の年間死亡者数は増加の一途を辿り、2023年には157万人を超えた。戦後の第一次ベビーブーム世代が高齢期を迎えたことから、この数字はさらに上昇していくという。
「これに伴い、葬送を取り巻く環境も大きく変化しています。核家族化や都市部への人口集中により、地方のお墓の継承が難しくなるケースが増加。また、未婚率の上昇なども相まって、従来の家族単位での葬送の形を見直す必要性が高まっています」と、小池さん。
その課題は、すでに具体的な形となって表れている。公営墓地の管理費の滞納発生率は50%を超え、管理や継承の問題が各地で表面化。従来型の墓石ではなく、管理が不必要な自然葬や樹木葬を選ぶ人が増えており、新規のお墓選びでは半数以上を占めていると話す。
「自分らしい人生の終え方」ってどんなもの?
コピーライターとして約15年のキャリアを持つ小池さん。新しい葬送の形を考えるきっかけになったのは、30代半ばで起きた3つの出来事だった。
1つ目は、お世話になった先輩の死だ。
「突然のことでしたが、パーティのインビテーションのような葬儀の案内状が届いて、『喪服も香典もお花もなし。いつも私と会うような格好で来てください』と書かれていました。自分らしい人生の終え方を生前に完璧にプロデュースされていたことに、衝撃を受けました」
2つ目は、結婚していたときのこと。夫の親の葬儀で「あなたもうちのお墓に入るんだし」と親戚から言われ、家制度の根深さや、女性の選択権の不在を痛感したという。
3つ目は、実家の墓の移転検討時だ。
「管理のしやすさから樹木葬を検討しましたが、実際に見学すると、自然に還るというイメージとは異なり、骨壺を石室に埋葬する形式でした。樹木葬といっても樹を植えないケースもあり、そのギャップに違和感を覚えました」
「Death Tech」の発想でお墓のモヤモヤを解決したい
©atFORESTそんな折、コロナ禍でリモートワークが可能になった。自然遊びが好きだった小池さんは、MacBookを抱えて兵庫県の森で仕事をするうちに、日本の森林が抱える課題が見えてきたという。
「ボランティアやNPOの方々が保全活動をされていましたが、高齢化が進み、継続的な管理が難しくなっていた。お金を生み出す仕組みがないと、この森は守れないだろうと感じました」
この気づきが、お墓にまつわる小池さんのモヤモヤと結びついた。海外では「Death Tech」と呼ばれる、死に関する課題を革新的なアイデアで解決する企業が増えている。日本にも、もっと多様な選択肢があってもいいのではないか──。そう考えた小池さんは、お墓と森林保全を掛け合わせたサービスの構想を練り始めた。
寺院と協働し森の再生を目指す
循環葬®︎の第一拠点となった能勢妙見山(大阪府・能勢町)は、開山から約1200年の歴史を持つ“北摂の霊場”のお寺として知られる。この地には氷河期から続くブナの原生林が今も残されており、天然記念物としても指定されている。しかし、広大な敷地内には管理が行き届かない森林もあり、不法投棄や放置された山小屋も残されていた。
貴重な森を残すための活動をどう進めていくかを検討していた能勢妙見山は、“収益の一部が拠点となる森の保全に充てられ、全国で活動する森林保全団体にも寄付される”という循環葬の構想に賛同してくれた。既存の葬儀業界ではなく、お寺との協働を選択したことは、「結果として理想的な形につながった」と小池さんは振り返る。
「400年、500年と続いているお寺には、葬送に対する深い理解と真摯な姿勢があります。循環葬という新たな形を、多様性を認める豊かな社会の礎となり、世界の森を救う一助となると認めていただけたことは、大きな励みになりました」
土壌学の専門家と「循環葬」の仕組みを確立
循環葬の森林内にはベンチやデッキが配置され、ハイキングや森林浴ができるようになっている。 ©atFOREST循環葬の特徴は、自然科学的な知見に基づいた設計にある。遺骨を土に還りやすい粉末状に加工し埋葬するという方法は、神戸大学の土壌学の専門家の監修のもとで確立したものだ。
「遺骨の主成分はリン酸カルシウムで、土壌の肥料として実際に販売されている成分と同じものです。適切な量で埋葬することで、樹木の栄養となり、森の循環に良い影響を与えることができます」
小池さんによると、すでに数名の埋葬が実施され、約50名が契約しているとのこと。生前から森との関わりが持てるように、森林内にはベンチやデッキが配置され、ハイキングや森林浴が可能となっている。従来の「お墓参り」の概念を一新し、森での時間そのものを供養・癒しの機会として提供しているのだ。
料金は生前契約の場合48万円からで(2025年2月時点)、管理費は不要。特にペットとの共同埋葬プランへの問い合わせが多いという。
多様な価値観を受け入れ、未来へと続く森を育む
サービス開始から約1年半が経ち、予想以上にさまざまな反響があったと小池さん。
「問い合わせの7割が女性からで、LGBTQの方、異教徒の方、国際結婚のご夫婦、友達同士でペアを組む方など、従来の家族単位では捉えきれない新しいニーズが見えてきました。ご夫婦でも、一方は循環葬を選び、もう一方は別の選択をするケースもあります」
現在、関東での拠点開設も進行中だという。
「循環葬の理念に共感してくださり、守るべき森林を有する寺院と連携できるなら、拠点の拡大もていねいに進めていきたい。死はいつか誰にでも訪れるものです。私たちの事業や考えに共感してくださる方々と共に、課題に向き合いたいと考えています」
継続的な事業運営のため、Headline Asiaなど3社からシードラウンドでの資金調達も実施。単なるビジネスではなく、カルチャーとして根付かせることを目指し、投資家や事業会社との連携を進めている。
自然との共生、多様な価値観の尊重、そして持続可能な社会の実現。循環葬の取り組みは、現代社会が抱えるさまざまな課題にひとつの解を示している。
それは、人生の最期の選択が、次の世代のための豊かな森づくりにつながっていくという新しい可能性だ。その文化の種が、静かに、しかし着実に根づき始めている。
[ at FOREST ]