撮影/中山実華

子どもは、自分の親を選べない。でもどの親のもとに生まれたかによって、人生が大きく左右されてしまう。

いわゆる「親ガチャ」だ。ある人たちにとってはラッキー、でもそうではない人たちにとっては不運、不公平、理不尽……。

そこであきらめてほしくない。平井大輝さんは、「運命にあらがう人たちを応援したい」とNPO「CLACK」を設立。プログラミングなどデジタルを使った教育や居場所作りを通じて、困難を抱える中高生が自分の力で歩いていけるよう、後押しをしている。

同じ境遇だからこその気付き

平井大輝(ひらい・だいき)認定NPO法人CLACK理事長/1995年大阪生まれ。自身が親の飲食店の廃業と離婚により貧困家庭として育った経験から、困難を抱える中高生が自分の人生を自分で切り拓いていくための「学ぶ」と「働く」の伴走支援を提供するCLACKを学生時代の2018年に設立。東京・大阪・愛媛などで困難を抱える中高生にデジタル教育やキャリア教育を無償で提供。デジタルスキルを身につけた高校生がIT関係の制作・開発を行うインパクトソーシング事業にも取り組んでいる。シチズンオブザイヤー受賞、FORBES JAPAN 30 UNDER 30受賞。 撮影/中山実華

平井さんが今の道を選んだのは、自分の生い立ちが大きく影響している。

「子どもの貧困」の当事者だった。中学2年のとき、父が経営していたうどん店が倒産、夫婦仲も悪くなって離婚した。

年の離れた兄と姉は独立、平井さんは「父をひとりにできなくて」父についていった。父は借金を背負い、派遣の警備員やキッチンスタッフとして働いた。平井さんにはお小遣いもなかった。でも文句も言えない。「高校の夏休みに隠れてカフェの店員のバイトをしたり……。誰にも相談できなくてつらかった」

浪人時代は母にお金を出してもらって独学し、奨学金をもらって公立大へ進学した。貧困に苦しむ子どもたちを支援するNPOでインターンをする。ここで、苦しむ子どもたちに多く出会った。

「自分は、努力できるだけまだ恵まれていたんだなと分かったんです。子どもたちがやる気を出して踏み出そうとしたら、家族が病気になったり、新たな借金を抱えたりしてさらに難しい状況に追い込まれる場面によく遭遇しました。そんな簡単な話じゃない。こちらが熱心に向き合ったからといって。

うまく変わらないことだって多い」

でも、だからこそ、あきらめたくない。やりたい。やらなくちゃいけない。心の中に突き上げてくるものがありながら、平井さん自身にも迷いがあった。自分が何をしたらいいのか、何ができるのか分からなかった。とりあえず会社に入っていろいろ経験してからNPOを始めようかな、と思っていたが、大学で起業した先輩に「今現場で見えていることも、就職しちゃったら結局やらなくなるよ」と言われた。そこで、大学を休学して「一年、とことん子どもの貧困に向き合ってみようと思ったんです」。アイデアはあった。NPOでインターンをしていたときに、プログラミングを教えてほしいという子がいた。「ITスキルはあったら重宝される。今後もますます必要になる」。でも自分がやるのがいいのだろうか。

アメリカで社会起業家に話を聞き、リーダーシップを学ぶプログラムに参加した。

「同じ境遇にいたあなたこそがふさわしい」。そう言ってくれた人がいて、自分がやるという覚悟が決まった。

8月に帰国するとすぐ行動を始めた。クラウドファンディングで資金集めをし、プログラミングを教える仲間を集め、場所を決め、子どもたちを募集し……2か月後の10月には、1回目の教室を始めた。翌2019年に「CLACK」としてNPO法人化。何かが不足している(luck)時に、ぶつかっていく(crush)という決意と、「苦しさも楽しさも知って、たくましくやさしい人になってほしい」という思いをこめて法人名をつけた。

伴走することで中高生の自走を支援

CLACK の自走支援モデル。自立に向けて「出会う」「学ぶ」「実践する」の3ステップで、高校生が自立するために必要なスキル・考え方を培っている。 撮影/中山実華

プログラミング教室「Tech Runway」は、週2回、3か月。パソコンも無料で貸与し、完走したらプレゼント。これで簡単なウェブサイトやアプリを作れるようになる。社会人や大学生がメンターとなって教え、休憩時間にも話しかけて言葉を交わす。

帰り道も一緒に歩きながら家まで送っていったこともあった。 「コミュニケーションが得意じゃない子も多いので……」。ちょっとずつ、子どもたちが口を開いてくれるようになって、「学校の体力テストで最下位で」「今日、マラソン大会だったんだけど、びりだった」等々。「そういうことが大事なんです。そうやって少しずつ、自分の思いを言葉にできるようになってくる」と、平井さん。

電車に1人で乗れなかった子が、次第に自信をつけて、自分で調べて専門学校のオープンキャンパスに出かけ、進学を決める。エンジニアになった子、スタートアップのCOOになった子……。Tech Runwayは大阪から東京、愛媛にも広がり、参加者は450人を超えた。完走率は94%だ。

「半分くらいになっちゃったときもありました。でも、中高生がどうやったら続けられるのか、探って可視化して、みんなで共有したんです。大学生が一人ひとりに寄り添えるように、プログラミングスキル以外でどうやって関わったらいいのか、振り返りや目標設定も含めて研修を行っています」

Tech Runwayを卒業すると、それを仕事につなげることも可能だ。

CLACKがウェブサイト制作やシステム開発を受注し、高校生に一部の仕事を切り出して委託する。もちろん対価も支払われる。高校生たちにとっては新たな挑戦だ。地域の企業やNPOのウェブサイトなどすでに実績もある。

デジタル活用で日本の底上げを

撮影/中山実華

2023年11月からは、「デジタルの居場所」として、中高生がテクノロジーにふれられる秘密基地「よどがわベース」を大阪市内に開設。3Dプリンタやレーザーカッター、PC,さまざまなソフトなどがおいてあり、自由に使えて大学生にプログラミングや動画編集、デザインなどを教えてもらうこともできる。漫画も300冊以上、のんびりできて、ごはんも食べられる。

よどがわベースには1日10人ほどの中高生が訪れる。「『Tech Runway』がちょっとハードルが高くて、という子もここでまず最初の第一歩を踏み出せる。逆に、デジタルスキルがある子は、ここにいろんなデバイスがそろっているので自分のペースでどんどん進んでいける。学校が合わない子でも、ここなら自分のペースで学べる。ここならいろんな子が自分のやり方でできるんです」。

高校生が中学生に教えることもある。「不器用だけど、先輩らしく。教える側にとってもそれがすごい自信になるんです」

デジタルの居場所は3月に東京の中野区にもできる。財源は企業や財団から。財政規模は2億円を超えた。

平井さんが、さらに今構想しているのが、NPOに加えて会社を設立することだ。雇用を大々的に作り出したい。そのためには、資金調達の方法が多様で、成長によりフォーカスできる株式会社という形も必要だと思ったからだ。「NPOと株式会社、どちらも良い面があると思う。株式会社のほうが成長のスピードが早く、規模も大きくできるかもしれない。でも株式会社だけだと、効率や利益重視になって自分たちが対象にしている層がこぼれ落ちてしまう。NPOはそこをきめ細かくていねいに対応できる」

株式会社はすで設立し、来年の春ごろに本格稼働する予定だ。夢は大きく「2040年までに20万人の雇用をつくり出す」ことだ。「世の中の流れを考えたときに、国際情勢は不安定で、日本の少子高齢化は進み、一方でテクノロジーはどんどん深化する。自分のできることは、デジタルを活用してマイノリティ層の仕事の創設をする。そうやって日本の底上げをしたい」。2040年は、日本の高齢化がさらに進み、65歳以上が人口の35%を占めると予測されている。しかし、CLACKが日本を支える柱の一つになっているであろう年でもある。そこに日本の希望があるかもしれない。

CLACK

取材・文/渥美雲、撮影/中山実華

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