2010年代のスタートアップブームを牽引した一人であり、Uberの最初の従業員であり、元CEOとして知られるライアン・グレイブス(Ryan Graves)さんがキーノートに登場した。現在は創業したSaltwaterで投資家として、活躍している。
ライアンさんは、現代のビジネスリーダーには政治的な視点や動きも大切だと言う。
そんなライアンさんから、AI時代におけるリーダーシップとキャリアの築き方について聞いた。
投資もAI推し、ただし大きなエグジットはまだない
──Uberに入社したときと比べて、現在のスタートアップのエコシステムは変わりましたか?
今の主な話題は、あきらかにAIです。大量の資金が投入されている一方で、まだエグジット(※)はありません。資金調達のラウンドは大きくなっています。ただ、リターンへの期待はどんどん落ちています。
私が投資をはじめたのは、Uberを退社した2017年、18、19年のことでした。投資をはじめるには最悪の時期で、投資後のエグジットをあまり見たことがありません。
もし私が2008年ごろから、2013年の初期のエンジェルやベンチャー投資をはじめていたら、2018、19年、20年、そしてCOVIDまでは大量のエグジットがあったでしょう。
結局のところ、2つの大きな波はWeb3と暗号通貨でした。そして、多くのテクノロジーが、それほどおもしろいアプリを伴わずに存在しています。
そこで私が望むのは、アイデアや需要のある技術、技術者が蓄積され、今後3~5年かけて、エグジットが見えるようになることです。
※エグジット(EXIT):投資において投資家が保有する株式や資産を売却し、投資した資金を回収することを指す
AIを使わないことが一番のリスク
──日常的にAIツールやアプリケーションをどのように活用していますか?
AIについて心配しなければならないのは、「AIを使わないこと」だけだと思います。それで、私はスマホのホーム画面にChatGPTとClaudeを置き、常に使っています。
たとえば、スピーチを書くために、私は狂ったようにAIを使いました(笑)。それでも、それは私が作ったスピーチに違いありません。私のストーリーであり、私の経験であり、感情です。エンジニアがAIを使ってコードを書くのと同じことです。あなたが笑わなかったジョークも、それはAIが作ったもので、私のジョークではありませんよ(笑)。
──ほかにはどのように使っていますか?
私の息子たちは、GPTの音声チャットをよく使っています。異なるアクセントで話してもらったり、国内のさまざまな地域のスラングを教えてもらったりするのが大好きです。また、ChatGPTと議論するのも好きですよ。
AIを使わない理由はない
──AIとどのように付き合っていけばいいでしょうか? またその危険性は?
私たちは、AIが出したアイデアを判断しなければならない時代にいると思います。
Gmailを使えば、一番下に返信として5つの回答が表示されますよね。まだ、人間の目によって選別されている段階ですが、これからはAIが勝手に返信するようになるでしょう。
人間がそこに触れる必要がなくなるわけですが、人間であろうとAIであろうと、アイデアが素晴らしいのであれば、それを使わない理由はありません。
名古屋に来るまでに、東京から新幹線に乗りましたが、英語の音声はコンピューターで生成されたもので、とても明瞭で問題ありませんでした。一方、それを悪用する人がたくさん出てくると思います。でも、スピーチを書くのにAIを使うことに何の問題もありません。いや、今時使わないなんて誰も思わないでしょう。
ビジネスリーダーは政治に積極的なコミットが必要な時代
──2010年代から現在に至るまで、リーダーに求めているものはどう変化したと思いますか?
2010年から2022年にかけての大きな変化の1つは、すべてのリーダーが政治的見解を持つ必要が出てきたことです。
以前はそうではありませんでした。ビジネスリーダーは政治や政府に干渉せず、自分のビジネスに集中するだけ、という感じでした。世界ではさまざまなことが起こりますが、必ずしもすべてについて意見を持つ必要はありませんでしたよね。
そして今、大きな課題は、大企業のリーダーが意見を持つだけでなく、これらのトピックに積極的な役割を果たさなければならないという点だと感じています。
また、大企業のリーダーになるには複雑な環境です。なぜなら、SNSや会議などで全員の意見が共有されるから。リーダーの仕事は、こうした会社のさまざまな意見や政治的見解をマネジメントすること。
AI時代のリーダーに求められるのは、共感力
──AI時代にリーダーはどのように立ち向かえばいいでしょうか?
AIによって、社会経済的なさまざまな人たちが影響を受けることになります。
そして、リーダーの役割は、自分が代表するさまざまなグループすべてに共感を持つことになるでしょう。
AIによって、特定の役割を担う人たちが、はるかに生産的になる一方、人々の仕事にも影響します。職を失う人もいるかもしれません。仕事が変わるかもしれません。5人を雇う代わりに、2人だけでよくなるかもしれません。
ですから、リーダーの仕事は、テクノロジーによって影響を受けるさまざまなタイプの個人を明確に理解することだと思います。こうした変化の一部はどうしても避けられませんが、影響を受ける人々をサポートする責任があるでしょう。
バークシャー・ハサウェイ元副会長からの人生アドバイス
──最後にもうひとつ。もしあなたが今20歳、あるいは30歳だとしたら、どうキャリアを築いていきますか?アドバイスはありますか?
キャリアの初期に私が大切にしてたアドバイスを、今でも常にすすめたいと思います。
動きが早く、変化の多い環境に身を置くこと
リスクに感じるかもしれませんが、実際にはリスクを減らすことができます。
なぜなら、あらゆることを経験することで、やりたくない仕事や自分に合わない働き方を除外することができるから。つまり、無数にある選択肢を減らせると言うこと。
私は、バークシャー・ハサウェイ副会長のチャーリー・マンガーが亡くなる前のコロナ禍で友達になり、素晴らしいアドバイスをもらいました。
それは、みんなとても賢くなろうとするけど、バカにならないようにするほうがずっとずっと賢いということ。
間違いを犯す可能性を排除すること。それこそが成功するために、本当に必要なことなんです。
TechGALAをチェック!※本記事は、2025年02月05日掲載のライフハッカー・ジャパン記事の転載です。
制作:ライフハッカー・ジャパン編集部