撮影/MASHING UP

政府が主導する男女共同参画会議では、女性活躍・男女共同参画の重点方針として、「東証プライム上場企業の女性役員比率を2030年までに30%以上にする」という目標を掲げている。この目標を実現するには、企業のDEI推進責任者同士の知見を共有し、学びを一社に閉じずに進めるため、学び合う場を作ることが重要だ。

このような背景を受け、リクルートの人材事業に関わる有志メンバーがプロジェクトを立ち上げ、「203030 Diversity Leaders Meetup」を開催。2025年2月21日、東京で2回目の企業向けセミナーが実施された。

管理職要件の明文化によりバイアスをなくす

リクルート HRエージェントDivision 企画統括部 DEI推進部 部長の林素子さん。「人材は企業にとって重要な資本であり、その価値を持続的に高めることで企業価値につながる」 撮影/MASHING UP

過去には東京・大阪・名古屋でも開催され、累計182社が参加してきた「203030 Diversity Leaders Meetup」。厚生労働省の掲げる目標に対し、実際には制度整備や意識改革が十分に進んでいない企業も多いのが現状だ。リクルートの人材事業は、こうしたギャップを解消するために自社の取り組みを共有し、企業同士が学び合える場を提供することで意識改革のきっかけをつくりたいと考えている。

リクルートは2006年からワーキングマザー支援や多様な働き方の推進など、さまざまな施策に取り組んできた。2021年には、リクルートグループサステナビリティコミットメントの一つとして、全ての職階の比率を男女同等とするジェンダーパリティを目指すことを公表。多様な個人がパフォーマンスを最大化するための試金石として、本格的な取り組みを開始した。

リクルートは、多様な個人が最大限に力を発揮できるよう、働きがいと働き方の両輪で多くの施策に取り組んできている。2021年にはサステナビリティへのコミットメントの一環として取り組むことを発表した。 資料提供/リクルート

林さんによると、リクルートでは2006年に専任組織を設置し、基盤となる働きやすさとなる両立支援や、働きがいを追求する施策・研修の実施などを通じて、多様な従業員が能力発揮する機会を増やすため、施策を進めてきた。中でも効果を上げたのが「管理職要件の明文化」だ。

管理職に求める能力を明文化したところ、試行組織では管理職候補者は女性で1.7倍に、男性も1.4倍に増加したという。

「管理職に求められる要件として、例えば 『管理職になる覚悟はあるか』『お客様とのお付き合いにいつでも対応できるか』といったバイアスが無意識にあるのではないかと考えました。そこで、『管理職とはこうあるべき』という固定観念をなくし、能力に基づいて判断できるよう管理職候補者の選定・育成要件を明文化しました」(林さん)

複眼で人物理解を促進する「Co-ALプログラム」

リクルートでは、もうひとつ独自の人材育成施策を実施している。それが「Co-ALプログラム」だ。このプログラムでは、直属の上司だけでなく、第三者である他組織の管理職がキャリア構築を支援。複眼的な視点での人物理解を促進することで、より適切な人材育成を可能にする。管理職の人材育成スキル向上にもつながることから、社外からの問い合わせが取り組みのひとつだという。

リクルート、2024年4月時点での女性の管理職比率の進捗。課長、部長、役員及び役員相当、ワーキングマザー比率、全ての項目において結果が出ている。 資料提供/リクルート

また、林さんは「DEIに対する意識のギャップは、経営層と現場の間で生じやすい」と指摘する。その解決策として、各事業責任者がDEI推進の3年計画を策定し、経営改革に組み込み、取り組んでいく仕組みが重要だと話した。

「重要なのは、単に女性比率を高めることがゴールではないという点です。多様な従業員がいることが企業の成長につながる──その意義を、すべての事業責任者が自分の言葉で語れるようになることを目指しています」(林さん)

情報を共有する企業同士のワークショップ

ワークショップでは、DEI推進に関する各社の取り組みや課題に対する議論が行われた。
撮影/MASHING UP

全国から33社、47名の人事・DEI担当者が参加したこの日のワークショップでは、各社のDEI推進に関する進捗や課題を共有。実際の取り組みやアイデアを持ち寄り、学び合う機会となった。ある企業(A社)は、育休後のキャリアサポートに課題を抱えているという。

「産育休を取得した後、それまで積み重ねてきたキャリアが一時的に分断されてしまうことがあります。例えば、現場で働いていた社員がスタッフ職に異動し、経験を活かしつつも昇格が遅れることがある。他社の取り組みを知りたかった」(A社の担当者)

一方、B社では「育児と仕事の両立」を支援する社内サークルを設けた。このサークルを通じて、従業員同士がモチベーションを高め合い、視野を広げるきっかけを作っているという。

参加企業からは、「共通の課題を持つ他社と議論できる貴重な機会だった」といった声が寄せられた。企業間の情報交換を通じて、自社に還元し、より良い施策を生み出し、社会全体のDEI推進へとつなげていく。今後もそのような意義のある場になるだろう。

取材・執筆/杉本結美

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