痴漢を疑われた男性が、線路内に立ち入って逃走するケースが相次いでいる。4月24日には、渋谷駅で痴漢が線路に飛び降りて逃走、山手線が運転を見合わせる事態に発展した。

5月11日の朝にも、JR新橋駅で同様の事件が発生。通勤時間帯だっただけに、大混乱を引き起こした。


痴漢を疑われて焦る気持ちもわかるが、線路内に立ち入って逃げれば、痴漢以外の罪にも問われることになる。どのように対処するのが正しいのか落合洋司弁護士に話を聞いた。


「鉄道営業法」に違反するだけでなく「威力業務妨害」になる可能性も



落合弁護士によると、線路内への立ち入りは鉄道営業法に違反するという。



「線路内に立ち入ることは、鉄道営業法に違反します。

9万円未満ですが、罰金を科されることもあります。新幹線の線路に立ち入った場合には、新幹線特例法に違反しますので、懲役を科される可能性も出てきます」


また「線路内に誰かが立ち入ると、安全確認のために電車の運行を止めることになる」ため、「威力業務妨害に問われる恐れもある」という。



「その場合、損害賠償を請求されるかもしれません。これまで電車の運行を止めたことで損害賠償を請求されたという話は聞いたことがありませんが、今後もないとは言い切れません」


さらに、逃げることによってかえって逮捕される危険も高くなるという。



「たとえその時は逃げ切れたとしても、いまは防犯カメラが増えていますから、後々特定される可能性も大いにあります。一度、逃げてしまうと、再度逃走する恐れがあると思われ、逮捕状が出やすくなってしまいます」


「『やっていない』と説明しましょう。

目撃者の確保も必要です」


では、痴漢と勘違いされたときは、どうすればいいのだろうか。



「『やっていない』ということをきちんと説明しましょう。また、すぐに周囲の人に声をかけて、自分のために証言をしてくれる人を確保して下さい。逮捕されたら、無料で呼ぶことができる『当番弁護士』に助けを求めるのも有効です」


痴漢を疑われて焦る気持ちはわかるが、線路内に立ち入れば、様々な罪に問われるだけでなく、自身の命を危険に晒すことにもなる。2003年9月には、山手線の上野駅から線路に飛び降りて逃げようとした人が、電車にはねられて死亡する事故が起きている。


それにもかかわらず、なぜ多くの人が線路に飛び降りてまで逃げようとするのか。

背景には、痴漢を疑われて裁判になったときに無罪を証明するのが難しいというイメージが広まっているということがある。



「裁判では、やったやらないの水掛け論になりやすいことは確かです。証拠がないことが多く、女性の証言がどこまで信用できるかということになってしまいます。これまでの裁判では、一審では有罪だったけれど、二審では無罪になったり、逆に一審で無罪だったのに、二審では有罪になったりしたこともありました」


自分が痴漢したわけではないのに、裁判に時間が掛かったり、被害女性の証言だけで有罪になったりすることがあると聞けば、戦々恐々とするのも無理はない。しかし、痴漢冤罪が社会問題化したことで、警察も検察も以前より慎重になっているという。



「以前は、犯行を否認すると10~20日ほど拘留されることも多かったです。

しかし最近では、拘留されずにすむことも増えてきました。検察も以前よりも慎重になっています。とにかく線路内に立ち入ると、危ないですし、それ自体が違法行為です。落ち着いて行動するようにして下さい」