テレビアニメ『氷菓』は、部活動が活発な神山高校の「古典部」に入部した部員達が、高校生活で起こる出来事に隠された謎を解き明かしていくというお話。謎解きの爽快さだけでなく、ストーリーを通して揺れ動く、部員達の思春期らしい繊細な心理描写が視聴者の心に響く、とても瑞々しい作品です。


 そんな中、いかにも青春な舞台にも関わらず、ややバイタリティに欠けた部員が一人・・・。主人公「折木奉太郎(おれきほうたろう)」です。省エネ主義を掲げる奉太郎は部員に促され、渋々ながらも色々な出来事に身を投じる事になります。謎解きや仲間とのやり取りから見えてくる奉太郎の魅力とはどのようなものなのでしょうか?

【※一部、ネタバレの内容を含む可能性が御座います。ご注意下さい。】

■モットーと推理力

 「やらなくてもいいことならやらない。
やらなければいけないことなら手短に」をモットーにする奉太郎。チャットで自分の名前を間違って打っても直しませんし、慣用句を微妙に間違って覚えていたり、モットーに違わず面倒くさがりのうっかり屋さんです。決して無気力と言う訳ではないんですけどね。

 腰は相当重いですが、ここぞで見せる洞察力と推理力はさすが主人公。皆が思いもしない切り口で謎を解決していきます。持ち前の気怠さを伴いながら真実に迫る独特で不思議な雰囲気の推理シーンは必見。
考えながら前髪をいじる仕草が醸し出すアンニュイさがなんとも艶っぽくて・・・女子人気が高いのも頷けますね。

■やたらと面倒くさい性格

 一見だらしのない印象ですから、作中でも自堕落な人間と見られがち(まあ事実と言えば事実ですが)。自分の事すら無頓着で執着心も薄いためか、その推理力を褒められてもただの閃きだと言い捨てます。真剣な質問にも、文庫本を読みながら生返事をする事が多く、他の部員に対して不遜な態度(に見える)な事がほとんどです。実際にその辺にいそうな男子高校生っぽいと思いませんか?

 「完璧でないが秀でた能力をもった人物」というのは、よくありがちな主人公像だと思いますが、奉太郎は妙に生々しいのです。それ故に奉太郎の言動に、より深く共感したり、反感を抱いたりしてしまいます。
実際に友達を見ている様な感覚に近いのかもしれません。アニメの端々に見え隠れする奉太郎の意外と気の利いた所や、色恋に奥手な所などもリアルですね。

■成長する高校生

 物事に対し興味が薄い奉太郎が、様々な経験から自らの心模様を少しずつ変化させていく姿は、奉太郎の魅力であると同時に氷菓というアニメ自体の魅力とも言えるのではないでしょうか。

 いつも奉太郎を推理の場に引っぱりだすのは、部長の千反田える(ちたんだえる)の「わたし、気になります」の一言なのですが、物語終盤の第18話では、奉太郎は自ら進んで中学時代のなにげない出来事へ執着を見せます。

「なんというかこう・・・気になるんだ」

 奉太郎の自発的な発言に部員は騒然。帰って寝ろとまで言われる始末。
部員の失礼加減に閉口する奉太郎もまた可愛らしい。18話は少しのほろ苦さを残して幕を閉じますが、奉太郎持ち前の優しさと高校生活がもたらした心境の変化が描かれた、とても印象深いお話でした。見た事のない方は是非チェックしてみて下さい。

■親友の存在

 奉太郎の魅力を語るなら、親友の福部里志(ふくべさとし)との名コンビっぷりは外せませんね。「データベース」を自称するだけあって、(無駄に)広い知識を持っています。その知識が奉太郎の推理に欠かせないものであるのは、視聴者目線からは明白です。


 中学校からの付き合いらしく、会話一つとっても親密さが伝わってきます。第21話のバレンタインのチョコを巡るお話では、里志に思いを寄せる伊原摩耶花(いばらまやか)の想いを無下にするような事をしてしまう里志に対し、意外に熱い所を見せる奉太郎にびっくりします。ニクいです、折木奉太郎。

 アニメは奉太郎がえるに対する恋心を自覚した所で奇麗に幕を閉じましたが、原作である小説『古典部シリーズ』の最新刊では、2年生に進学した古典部の面々を見る事が出来ます。高校卒業まで描かれる予定との事ですので、もしかしたら、いつかアニメ2期のアナウンスがあるかもしれませんね。奉太郎の益々の成長を期待せずにはいられません!

【原稿作成時期の都合により、内容や表現が古い場合も御座いますがご了承下さい】

★記者:つよろく(キャラペディア公式ライター)

(C)米澤穂信・角川書店/神山高校古典部OB会