去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き...の画像はこちら >>



Text by 生田綾



映画界のジェンダーギャップや労働環境の改善に取り組む団体「Japanese Film Project」が7月5日、業界の制作現場におけるジェンダー比率や労働環境の実態についてまとめた調査結果を発表した。調査によると、2021年に劇場公開された映画465作品のうち、女性監督は57人。

12%という少ない割合にとどまり、ジェンダーギャップがいまだ改善されていない現状が浮き彫りになった。



調査を実施した「一般社団法人Japanese Film Project(以下、JFP)」は、映像作家の歌川達人氏、ジャーナリストの伊藤恵里奈氏、映画監督の西原孝至氏が2021年7月に設立。映画業界におけるジェンダーギャップや労働環境、若手人材不足などの問題解決を目的としており、実態調査や提言などの活動を行なっている。



7月5日、日本外国特派員協会でJFP代表理事の歌川、理事の近藤香南子が記者会見を開き、最新の調査結果を報告した。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?



同団体は、2021年に劇場公開された作品465本を調査。対象は予算規模に関わらず、キネマ旬報社の「映画年鑑」に記載された劇場公開作品だ。調査では、監督・撮影・編集・脚本に加えて、照明、録音など、職能別のジェンダー調査を実施した。



その結果、監督の女性比率は12%、撮影は9%、照明は3%など、多くの部門で低い割合であることがわかったという。



映画界をめぐっては、性加害やハラスメントの問題などの報道もあり、近年はジェンダーギャップの問題に注目が集まるようになった。女性比率が低いことがすでに周知されているなか、歌川は「変化率が重要」だと指摘。資料では、過去3年間でどの程度女性比率が向上したかも示している。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?

監督総数は471人だったが、女性監督は57人。

比率は12%だった。2020年からは1ポイント上がっていいる。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?

撮影は、総数429に対し、女性は37人(9%)だった。前年比では2ポイントダウンしている。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?

脚本では、監督などと比べると比率はやや向上。女性比率は21%で、前年比でみると2ポイント上がった。



歌川は、「3年間でほぼ変化がない。問題意識が高まっているなか、それを受けても全然変化がないということがデータとしてわかった。社会的には認知されてきたとしても、変わらない」と、ジェンダーギャップ改善への取り組みの鈍さを指摘。「積極的に手を加えていかないと、改善されることはないということが読み取れる。要は『黙っていたら変わらない』ということ」と訴えた。



また、「映画年鑑」や公式サイトなどにスタッフの名前が記載されていない職種もあり、ジェンダー比率を調べられないという障壁もあったという。



例えば、衣装は延べ132本(全体の3割程度)しかスタッフが記載されておらず、メイクに関しては一切の記載がなかった。衣装・メイク・美術・装飾などの職種も、映画制作に欠かせない重要な役職だ。会見では、撮影や監督などが表に出るような「花形の職種」とされ、ほかの多くのパートに対するリスペクトが欠けているのではないか、とも指摘された。



資料でも「今後、映画に携わったすべてのスタッフの記録を残す仕組みをつくることが望ましい」と提言している。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?

装飾では、記載があったのは98人のみだった。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?

衣装は記載があった132人中、女性は99人。もともと女性比率が高い職種のため、75%となっている。



さらに、大手4社(東宝、松竹、東映、KADOKAWA)が公開した2019年~2022年(公開予定も含む)の実写作品に絞って女性比率も調査。それによると、4年間に公開された181作品中、女性監督の割合は約5%(9人)で、20人に1人という低い水準だった。



2021年に劇場公開した実写作品は40作品だったが女性監督は0人で、2022年も42作品中女性監督が4人(9.5%)にとどまっている。



大手4社の役員の女性比率についても調査したところ、4社全体の女性役員は108人中10人で、8%という割合だったという。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?



JFPでは、日本映画監督協会や日本映画撮影監督協会など、映画・映像関係の職能団体の女性会員比率についても調査を実施。

映画監督協会は女性監督や若い世代の会員数が少ないことが明らかになるなど、課題が浮き彫りとなった。



近藤が指摘したのは、若い世代が多い「助手」の入会が少ないという点だ。「トップの技師になってから入るような協会なので、助手など(若い世代)の声を掬い上げられないシステムになってしまっている」と話す。



去年公開された映画、女性監督の割合はわずか12%。調査が浮き彫りにしたこととは?



JFPが強調するのは、ジェンダーギャップの問題は、業界の低賃金や過酷な労働環境などの問題と地続きであるということだ。JFPが実施したアンケート調査では、ハラスメントなどの相談窓口の設置や、契約書・発注書が締結されない問題など、改善を求める声が多く上がったという。



現場の逼迫の要因となっているのは「予算の低さ」だとも指摘する。歌川は、「業界の改善のためにお金を回せる組織が必要」だとし、是枝裕和、諏訪敦彦ら有志の映画監督らが立ち上げた「日本版CNC(セーエヌセー)設立を求める会」(action4cinema)にも言及。



「CNC」とは、入場チケット税を財源の一部とするフランスの国立映画センターだ。フランスでは映画産業を支える中枢機関として機能しているが、日本にはそうした機関が存在しない。



「日本版CNCのような機関がうまく回らないと色々な課題が解決しないのではないかと感じている。課題が見えた先に、どう解決していくかというのは、この日本版CNCの活動とも結びついている」と話した。



レポートはJFPの公式サイトで公開されている。

労働環境やジェンダーギャップなど、業界の問題の「見える化」を続けるJFPでは、今後2年間の活動に必要な資金を募るクラウドファンディングも実施中だ。

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