Text by 原里実
「もし明日が人生最後の日だとしたら、あなたは何がしたいですか?」
バラエティ番組のMCから画面越しに問いかけられて、ハッとする。7月4日からテレ東系で放送中のドラマ『40までにしたい10のこと』、第1話の一幕だ。
主人公は、10年以上恋人がおらず、家と職場を往復するばかりの毎日を送る39歳の会社員・十条雀(風間俊介)。ふと感じた焦りから「40までにしたい10のこと」リストを作るが、それを部下の田中慶司(庄司浩平)に見られてしまう。ところが慶司はおどろくことに、二人で一緒にリストを叶えていくことを提案。雀にとって代わり映えのしない毎日が輝きはじめる……というオフィスラブストーリーだ。
BLコミックを原作とした本作だが、原作者のマミタ氏からの「BLというジャンルに馴染みのない人たちも楽しめる作品にしてほしい、と依頼した」とのコメントどおり、ジャンルを超えて人間のリアルな感情がしっかりと描かれている。
冒頭のシーンは、40歳の誕生日を3か月後に控えたある夜。雀は、「死ぬまでにしたいことリスト」をテーマにした番組を偶然視聴する。
「自分のしたいこと、意外とわかってないってことありません?」
「けっこう、諦めてることあるでしょう」
MCに畳み掛けられて、雀が「死ぬまでにしたいこと」として挙げたのは、「世界一周」「無人島キャンプ」「オーロラを見る」……。
しかしそこで、違うと気がつく。そんなのはどこかで聞いた誰かの望みだ。……では、自分が本当にしたいこととは?
ここに、現代を生きる30代の普遍的な葛藤を見る。20代の頃のように、自分の人生が可能性に満ちているという万能感はもはやなく、代わりに仕事には慣れ、自分なりの暮らし方のスタイルも確立しつつあるが、ふとSNSで他人の「幸せ」を目にしたりすると、「自分の人生はこれでいいのだろうか?」と不安に苛まれる。
パートナーがいても、いなくても。子どもがいても、いなくても。どんなセクシュアリティでも。誰でも身に覚えのある感情なのではないだろうか。

©マミタ・libre/「40までにしたい10のこと」製作委員会
雀は行き詰まりかけるが、「死ぬまで、という設定が長すぎるのかも」と気づき、「40までにしたい10のこと」とリストのタイトルを書き換えてみる。すると、最初に浮かんだのは「タコパ」。
このときの雀の表情がいい。「俺ってタコパがやりたかったんだ」という驚きと、自分の本当の望みを見つけた喜び。
それから続々と挙がってくる「デパ地下のケーキ全制覇」「服の趣味を変える」「オーダーメイドのヤバい枕作る」などの「したいこと」にも、「ずっと頭のどこかにはあったけど、『常識はずれだから』『時間がないから』などの理由で向き合ってこなかった思い」という感じが表れていて、いちいち身につまされる。
そして、自分の本当の気持ちを掘り起こすことができた雀に、「よかったね」と心から思わされる。

©マミタ・libre/「40までにしたい10のこと」製作委員会
原作コミックは雀が「リスト」を作ろうとするシーンからはじまる一方、ドラマではそれ以前に、雀の自宅や職場での普段の姿を映し、その暮らしや人物像を描いている。
また、俳優陣の芝居も魅力的だ。素朴で飾らない立ち居振る舞いの風間俊介は、誰もに感情移入させるだけの余白のある「普通さ」と、もこもことしたクマの着ぐるみのような服をルームウェアとして着こなす雀というキャラクターならではの「かわいさ」の絶妙なバランスをとり、見事に役にハマっている。
オーディションで決定したという部下の慶司役を務めるのは、スーパー戦隊シリーズ『魔進戦隊キラメイジャー』で俳優デビューした経歴を持つ庄司浩平。雀が見惚れるほどのすらりとしたスタイルや見目麗しさを持ち、少々強引に上司である雀を誘う慶司というキャラクターは、下手をすると現実離れして見えてしまいかねないが、言動に人のよさや誠実さ、血の通った人間らしさが滲み出る芝居のおかげで、視聴者は安心して物語に没入できる。

左から、十条雀(風間俊介)と田中慶司(庄司浩平)©マミタ・libre/「40までにしたい10のこと」製作委員会
放送済みの第2話では、雀のリストの一番上に挙げられた「タコパ」を達成。次回放送の第3話は、同じくリストのひとつである「シーパラ(八景島シーパラダイス)」に行きデートを満喫するが、帰ろうとした二人に突然の雨が振り出して……というストーリーが展開される予定だ。
すでに少しずつ心を通わせつつある雀と慶司のやりとりは、もどかしくも微笑ましい。リストを達成する過程で、二人の関係がどのように変化していくのか、そして、雀という一人の人間がそれによって何を思うのか。温かく見守っていきたい。