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Text by 原里実



よく知らないアーティストのコンサートに、友達に連れられて行ったらすっかりハマってしまった——そんな経験をしたことのある人は、少なくないのではないか。



もし、それがVRコンサートだったら、果たしてどんな体験になるのだろう?



たとえばミュージックビデオなら、あまり詳しくないアーティストのそれを何時間も見続けるのはなかなか辛いものがある。

「VRコンサートは没入感がすごい」と噂には聞くが、果たしてその体験は、現実のコンサートとミュージックビデオの間のグラデーションの、どのあたりに位置するものなのだろうか?



そんな疑問を胸に向かった、グローバルグループ・ENHYPENによる『ENHYPEN VR CONCERT : IMMERSION』のプレス向け試写会。同公演は、8月8日から日本4都市の映画館にて開催される。普段はSTARTO ENTERTAINMENTに所属するグループを推しているCINRA編集部員が、その体験をレポートする。



ENHYPENは、HYBE MUSIC GROUPのひとつ、BELIFT LABに所属する。プレス試写会に登壇したHYBE JAPANのイ・スヒョン氏によれば、同グループがVRコンテンツ事業に乗り出したのは2024年のこと。



同グループのBIGHIT MUSICに所属するTOMORROW X TOGETHERが先駆けてVRコンサートを実施した際には、「想像以上のリアルさ」「最前列より近い体験」が好評を博し、来場者満足度99.5%という驚異の数字を記録したほか、チケットの売上も想定を遥かに超える結果となったという。



その成功により、VRコンサートという新たなエンターテイメントコンテンツへの期待が高まるなか、ENHYPENもこの新たな舞台に挑むこととなった。



生歌じゃなくても本当に感動できる?ENHYPENのVRコンサート『IMMERSION』試写会レポ

会場で迎えてくれたENHYPENのパネル。左から、NI-KI(ニキ)、HEESEUNG(ヒスン)、SUNGHOON(ソンフン)、JAKE(ジェイク)、JUNGWON(ジョンウォン)、JAY(ジェイ)、SUNOO(ソヌ)



筆者は普段STARTO ENTERTAINMENTに所属するグループを推しており、恥ずかしながらENHYPENについてはメンバーの顔と名前も一致していないような状態のまま訪れたのだが……結論からいうと、素晴らしい体験だった。



通常のアイドルのコンサートにおいて、体験の重要なポイントになるものはいくつかあるだろう。その場限りの生歌やパフォーマンスはもちろん、うちわやペンライトを使ったメンバーたちとの交流、そして、メンバーやファンと同じ空間・時間を共有する特別感、高揚感。



それらが欠けていてもなお、VRコンサートに感動できたのはなぜだろう?



※以降、『ENHYPEN VR CONCERT : IMMERSION』に関する微細なネタバレを含みます。



一つには、やはりその「リアルさ」。開始早々、メンバーが一人ずつ登場して、ものすごく至近距離からじっとこちらを見つめてくる。その瞳を覗き込むと瞳孔までしっかりと見え、まさに「吸い込まれそう」。本当に見つめられているようで、VRゴーグルをつけるときに乱れた髪の毛が終始気になったほどだ。



アイドルのコンサート中に双眼鏡を覗くファンは多く、筆者も例に漏れない。体験前はVRコンサートについて「双眼鏡の『すごい版』か?」と想像していたが、双眼鏡とVRの決定的な違いは「相手から『見られる』かどうか」だと思った。



生歌じゃなくても本当に感動できる?ENHYPENのVRコンサート『IMMERSION』試写会レポ

イントロシーンのJUNGWON (C) HYBE JAPAN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.



その後もシーンの切り替わりで、メンバーの手のひらに目を塞がれるような演出があったり、MCの合間に「VRゴーグル、ちゃんと付けられてますか」と調整するフリをしてくれる一幕があったり。「現実ではない」とは重々理解しながらも、あまりにもリアルな映像体験により「脳が現実と思い込まされる」ような不思議な感覚があり、テクノロジーが持つ力を思い知らされた。



そしてもう一つには、VRコンサートというENHYPENにとっても初めての試みのなかで、彼らがENGENE(ENHYPENのファンダム名)を心から思い、試行錯誤しながらコンサートを作り上げたことがMCの端々から伝わってきた点。



試写会に登壇したキム・キョンクック監督によれば、世界観やコンセプト、ショーの流れなどについて事前にメンバーたちとも協議を重ねたうえで撮影に臨んだという。ENHYPENは普段、ステージを広く使ったダイナミックなパフォーマンスを披露することが多い一方、今回はVR特有の演出のため、同じ振り付けを3メートル×4メートルの限られた空間で見せるという挑戦があった。



そのためメンバーたちは振付練習やリハーサルの段階で、動線や表現方法について積極的に意見を出しながら取り組み、VRにぴったりフィットした密度の高いパフォーマンスが完成したという。



また、彼らは事前にTOMORROW X TOGETHERのVRコンサートを体験し、それがいかなるものであるかを十分理解したうえで、撮影当日はカメラをENGENEだと思ってパフォーマンスを披露したそうだ。「どうすればファンに楽しんでもらえるか」を念頭に置き、メンバー自ら積極的にアイデアを出しながら演出を考えたという。



コンサート終盤のMCで、メンバーのHEESEUNGから「ENGENEのためなら時間も空間も超えて会いに行く」との発言があった。彼らがそういう思いでこのステージ——実際に「ステージ」はないのだが、あえてこの言葉をつかおう——を作り上げたのなら、それはまぎれもなくENHYPENがENGENEと「共に過ごす」空間であり、たしかな「コミュニケーション」の方法の一つなのだと思わされた。



と同時に、「時間も空間も超えて会いに行く」ことが可能になった時代にアイドルが持ちうる影響力の大きさ、そして彼ら自身の「見られること」への意識や感覚を思うと、そのあまりに人間離れしたありように気が遠くなりそうになる。



『ENHYPEN VR CONCERT : IMMERSION』は、日本、韓国のほか、アメリカ、中国、東南アジア、ヨーロッパなどの世界約40の主要都市での公開が決まっている。また、先行したTOMORROW X TOGETHERのコンサート同様、コンサート制作を行ったAMAZEの公式アプリから、自宅で視聴できるようにすることも予定しているという。



AMAZEのCEO、イ・スンジュン氏は、VRコンサートについて「アーティストにとって、自分たちの音楽をもっともよく表現できるツールになり得る」との期待を抱いていると語った。たしかに、「ファンの『目の前』でパフォーマンスを披露する」という点のみならず、実際のコンサートではできないさまざまな演出がVR空間では可能になる。



生歌じゃなくても本当に感動できる?ENHYPENのVRコンサート『IMMERSION』試写会レポ

撮影はグリーンスクリーンを背景に行われた (C) HYBE JAPAN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.



また、アクセシビリティの点においても、VRコンサートはさまざまな事情で場所の移動や時間の制約を抱えた人々に体験の可能性が開かれている。VRコンサート市場がこれからも拡大を続けるとすれば、それはリアルなコンサートの「代替品」としてではなく、新たな表現ツール、アーティストとファンがつながるツールとしてなのだろう。



実際、自分の推しグループにもぜひVRコンサートを開催してほしいと思ったが、それがあればリアルなコンサートがいらないかというとまったくそんなことはない。

たとえ「神席」じゃなくても、生の場でしか得られない充実感が確実にある。



「すべてのアーティストがアルバムを出すたびに、あるいはライブコンサートを開催するたびにVRコンサートも一緒に制作するようになったら」とイ氏はいう。それはたしかにワクワクする未来な気もするが、一方で、それほどまでにアーティストにとって、そしてファンにとってVRコンサートが当たり前のものになったとき、今回私が感じたような「特別感」はどれほど残っているのだろう、とふと思った。



技術の進歩によって何が可能になるのか、そして私たちがそれによって何を思うのか。まだまだ想像のつかない未来が私たちを待っている。

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