『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪...の画像はこちら >>



Text by 家中美思



夏帆、竹内涼真W主演のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。



「恋人ファースト」を演じてきた鮎美と亭主関白思考の勝男がプロポーズ直前に別れ、「料理を作ること」をきっかけに成長する、谷口菜津子原作のドラマだ。



同作では、料理を切り口にしながら、人に合わせすぎてしまう鮎美の繊細さや、異なる価値観を理解しようと努める勝男の姿も描かれている。



ドラマの脚本は、劇団アンパサンド主宰で、『歩かなくても棒に当たる』で第69回岸田國士劇曲賞を授賞した新鋭・安藤奎(1992年生まれ)が務めている。CINRAでは、安藤にメールインタビューを実施。異なる価値観にどう向き合っていけばいいのか、自分を大切にするために必要なことは何か、聞いた。



—本作は、ジェンダー観や他者への思いやりについて、「料理を通して」考えさせられる点で画期的だと感じました。原作を読んだとき、安藤さんはどう感じられましたか?



安藤奎(以下、安藤):原作を読んだとき、「料理を通して人の関係性がこんなにも立ち上がるんだ」と驚きました。「誰かのために何かを作る」という行為には、その人の価値観や相手との距離感、思いやりのかたちが、そのまま表れるところがありますよね。



また、ジェンダー観についても大きな主張としてではなく、日々の生活のなかの小さな違和感や気づきとして描かれているのが新鮮でした。



『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪くない世界」をどう描いたか

©Natsuko Taniguchi/BUNKASHA



—本作のオファーがあった際、どう思われましたか?



安藤:日常のなかの小さな違和感や優しさ、そして誰かのために何かを作るという行為に宿る温度を、映像として立ち上げられることに大きな魅力があると思いました。そんな作品に、自分が脚本として携われることは、純粋に嬉しかったです。



『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪くない世界」をどう描いたか

安藤奎(あんどう けい)



脚本家・演出家。1992年、大分県生まれ。

劇団アンパサンド主宰として作・演出を手がける。劇団公演以外では、GAGコント企画「×魅力人」の演出や、南海キャンディーズLIVE内舞台の作・演出、エッセイ執筆など幅広く活動している。2024年、舞台『歩かなくても棒に当たる』で第69回岸田國士戯曲賞を受賞し、2025年同名作品が書籍化。



—本作に登場する登場人物は、全員が魅力的な性格で、悪者が登場しない点が印象的です。原作をふまえ、キャラクター設定やセリフを作る際に意識したことは何でしょうか?



安藤:悪人ではなく、「気づいていないだけ」だったり「思いがすれ違っているだけ」だったりすることって、実際の生活でも多いと思うんです。



なので登場人物を描く際には、全員が善人すぎたり、悪人すぎたりしないということを大事にしました。原作がもつ、誰も悪くない世界のなかで生まれる小さなズレや優しさを、そのままキャラクターのセリフや行動に落とし込むよう意識しました。



—ドラマでは、竹内涼真さんが勝男、夏帆さんが鮎美を演じています。脚本を書くにあたり、お2人に合わせた部分があれば教えてください。



安藤:竹内さんは、走る姿がとても似合う方だなという印象を受けました。思ったらすぐ行動に移せるような、スポーツマンのようなエネルギーがある。そのエネルギーが勝男に乗ると、弱さを隠したまま衝動的に動いてしまう人として魅力が出ると思い、ドラマではよく走る勝男になっています。



『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪くない世界」をどう描いたか

ⒸTBSスパークル/TBS



安藤:夏帆さんはクレバーな印象に加えて、とても温かくてかわいらしい方でした。原作の鮎美は、最初は周囲との関係を閉ざしていますが、心を開くと周りが興味をもって寄ってきてくれるタイプ。そのイメージは夏帆さんと重なる部分があったので、強調して描いています。



また、原作の鮎美には、ぶりっ子のような「演じているかわいらしさ」があり、それがとてもチャーミングで面白いキャラクターだと感じています。ドラマでは、その魅力を踏まえつつ、控えめさや自信のなさ、人に合わせすぎてしまうような繊細さを強めることで、映像としてよりリアルに伝わることを目指しました。



—鮎美は基本的に受け身な性格に見えます。鮎美というキャラクターについて、どんな印象を持ちましたか?



安藤:鮎美は、幸せの基準が自分の内側ではなく、勝男や雑誌が示す「こういう女性が良い」という外側のイメージに引っ張られてしまった人だと感じています。



その結果として、人に合わせすぎてしまう部分が出てきてしまうのですが、本当は芯が強くて、「こうしたい」と思ったことに一生懸命になれる人なんですよね。



自分が幸せになるために一生懸命変わろうとするところは、勝男と鮎美のすごく似ている部分だと思います。



『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪くない世界」をどう描いたか

ⒸTBSスパークル/TBS



—鮎美のように、人からどう見られるかを気にすると自分の望みがわからなくなってしまうと思います。自分を大切にするためには何が必要だと思いますか?



安藤:自分の幸せを、誰かの匙加減に委ねないことだと思います。



自分が大切だと思うことは、誰かが関わらなくても大切にできるようにしておくこと。

そして、「自分はどう感じるか」「何を心地良いと思うか」という感覚を意識すること。その小さな積み重ねが、自分を大切にする第一歩になるのではないでしょうか。



—勝男のように、自分のこだわりの強さから無意識的に人を傷つけてしまう人は少なくありません。日常のなかで、周囲を傷つけていることに気づくためにできることは何だと思いますか?



安藤:自分の内側にある「当たり前」がほかの人にとっても当たり前だとは限らない、という前提をもてるかどうかが大事だと感じています。



また、周囲の人たちも相手を責めるのではなく、「私はこう感じたよ」と自分の感覚として伝えることが大切なんじゃないでしょうか。「あなたが悪い」と言われると人はどうしても責められた気持ちになりますが、「私はこう受け取った」と言われると、相手も自分ごととして受け止めやすい。



人にはそれぞれ背景があって価値観ができあがっているので、必ずしもこだわり自体を変える必要はありません。ただ、それを押し付けないという姿勢が共有できれば、関係性はずっと良くなると思います。



—自分の価値観と真逆の考えに出会ったとき、誰もが勝男のように混乱し得ると思います。新しい価値観に出会ったときに柔軟に受け入れるということについて、この作品を通して感じたことはありますか?



安藤:価値観って、誰かに強制されて身につくものではなくて、自分が育ってきた環境や経験のなかで自然にかたちづくられるものだと思うんです。



この作品を通して感じたのは、「柔軟に受け入れる」というのは、いきなり自分の考えを変えることではなくて、まずは「そう思う人がいる」という事実を受け止めるところから始まる、ということです。



勝男も、最初から自分の価値観を意識していたわけではなく、鮎美との関係が揺らいだことで初めて「自分の当たり前」を疑うきっかけが生まれました。



人って、そういう小さなショックや気づきの積み重ねでしか変われないんだと思います。だからこそ、新しい価値観に出会ったときに「自分はどう感じるか」を丁寧に見つめること。そして、すぐに理解できなくてもわかろうとする姿勢をもっておくこと。それだけで、柔軟さって自然と育っていくのではないかと感じました。



『じゃあ、あんたが作ってみろよ』脚本家インタビュー。「誰も悪くない世界」をどう描いたか

ⒸTBSスパークル/TBS

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