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Text by 上村窓
Text by 家中美思



30歳の誕生日に写真集『MOOD BOARD:』を発売した俳優・橋本愛。約13年半ぶり2冊目の写真集は、20代最後の春夏秋冬を4人の写真家とともに記録した一冊だ。



週刊文春の連載でヘイトスピーチや性的マイノリティの権利について綴るなど、俳優活動にとどまらず「書く」ことでも社会と向き合ってきた橋本だが、巻末に収録されたエッセイでは、10代、20代を経た自身の内面や、戦争や虐殺が終わらない社会に向ける視線が綴られている。



「尊厳を奪われている人たちのためにならないことはしたくない」「エンタメがすべきことは、見えないことにされてきた人たちがちゃんと存在する、健全な景色にしていくこと」。表現することについて、彼女はこう語る。



ある経験をきっかけに「知ることから逃げない」覚悟を決めたという橋本に、演じること、書くことを通して届けたい、まっすぐな思いについて聞いた。



―20代最後の1年を記録した写真集とのことですが、制作が決まったときはどう思われましたか?



橋本愛(以下、橋本):最初は、自分から写真集を作りたいとは思っていませんでした。



ほかの表現ですでに自分を残しているからこそ、わざわざ違う表現をする意味は何だろう、と考えてしまって。見せたことのない自分をどう表現できるだろうという不安も、正直ありましたね。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い

橋本愛(はしもと あい)
1996年、熊本県出身。2009年に『ミスセブンティーン2009』に選ばれ、『Seventeen』創刊以来最年少の13歳で専属モデルになる。主な出演作に、『告白』(2010年)、『桐島、部活やめるってよ』(2012年)、『あまちゃん』(2013年)、『熱のあとに』(2024年)、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(2025年)などがある。独自の感性を生かしてファッション、書評、コラムなどの連載を持ち幅広く活躍中。



―そうしたことをふまえ、巻末エッセイにもご自身がもつ少女性、ダークでアンニュイな雰囲気、無邪気な童心などいろいろな人格を見せた1冊でもあると書かれていました。

一つに定まらない自分らしさについて、橋本さんはどう感じられてきたのでしょうか?



橋本:私が一番苦しんでいるのは、ギャップなんですよね。パブリックイメージと本当の人格があまりにもかけ離れすぎていてずっと苦しんできたというか。



もちろん、みなさんが持ってくれているイメージも嘘ではないのですが、それ以上にいろいろな人格が自分のなかにあって。私は「自分らしさ」っていう言葉が一番しっくりこないタイプなんじゃないかなって思ってるんですよ。



だからこそ、私にいろいろな側面があることを少しずつ出していかないと、心の健康にもよくない気がして。そんな自分を表現していきたいし、この写真集を通して「『自分らしさ』が揺らいでも決しておかしくないんだよ」と、過去の自分に言ってあげたい。そして、同じように迷っている人にもそう伝えたいです。



―巻末エッセイに書かれていた、20代前半の頃のテーマは「VS. THE WORLD」だった、という言葉も印象的です。当時を振り返り、何と闘っていた感覚があったのでしょうか?



橋本:たしかにそう書きましたね(笑)。心の内ではすごいギラギラしてたというか、 ギラギラしないと負けてたっていうか。ずっと戦闘姿勢だったんですよね。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



橋本:それは何に対してかって言うと、女性であるがゆえに被るさまざまな理不尽——たとえば、性暴力被害にあった人がいたとして。

「なんで自衛をしていないことを責められるの?」「なんでいつも被害者のほうが糾弾されるの?」と思っていました。自衛をすることって権利であって、責任ではないはずなんですよ。



容姿に対して中傷するような言葉も、そしてそれに対して「言論の自由」を振りかざす人がいるということにも、怒りを抱いていました。「言論の自由」というものがなかった時代に、声を上げることを許されなかった人たちがどのような思いでその権利を獲得していったのか……。



社会だけじゃなくて、若くて未熟だった自分にももどかしさを感じていて、つねに戦う姿勢じゃないと、思うような成果を出せなかったというのもあります。



そういったいろいろなことに対して、「勝つ」というよりは「負けない」というほうが強くて。心を強く持っていないと生きづらかったというのはありましたね。



―さらに、20代後半からは「今を生きる人々の悲痛な現実から目を背けない覚悟を決めました」と書かれています。それには何かきっかけがあったのでしょうか?



橋本:はい。大いにあります。



無知ゆえに、自分の言動で心を寄せている人たちを傷つけてしまったことがあって。人の人生を知らないままに、傷つける言葉を発してしまったんです。



その経験は私のなかではすごく大きくて。それまでは、「どう言葉にするか」ばかりを考えていたのですが、知らないんだったら言わないほうがいいときもある。言葉にしない誠実さもあるなって。



それから、「知ることから逃げないよう」にしようという覚悟もそのとき決まりました。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



―「知ることから逃げない」というのは、役に向き合ううえでも大切にされているのでしょうか?



橋本:はい。演じることは「傷つく行為」だと、私は思っているんですよ。



誰よりもその役を理解して、その人が過去に負った傷やいま背負っているものをすべて引き受けないといけない。それは、たとえファンタジーであっても。どこかひとつだけでも現実と重なる部分があるなら、それはフィクションではなく、この世に存在する誰かの人生といえると思っています。



そうしたすべての役の人生を背負うのは、ある意味自傷行為と言えるかもしれません。でも、そうでもしないと私が思う表現にはたどり着けないんですよ。



私自身、エンタメに助けられてきましたし、見た人の人生がどう変わるのかを、自分の人生をもって体感しているんです。

「必ず誰かに届く」という自信もあるからこそ、責任を感じています。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



―橋本さんは演じるほかに、週刊文春でコラム『私の読書日記』を連載されるなど、「書く」行為も大事にされていますね。ほかの表現に比べて、書くことは橋本さんにとってどのような行為なのでしょうか?



橋本:演じることは誰かの思想を理解して、誰かの表現を膨らませるというアウトプットです。一方で、書くという行為は、誰の思惑も介在させず、純度100%で自分の思いが伝わる。だから怖さもあるんですが、好きなんです。



ただ、私は「誰かを救いたい」から書いているんじゃなくて、「誰も傷つけたくない」が一番の原動力になっています。傷つけないように表現した結果、誰かが救われたらすごく嬉しいですけど。



だから、「言わない誠実さ」もあるように、「何を書かないか」についてはものすごく考えています。



―「何を表現しないか」を含めて、橋本さんの文章を読むと、誠実に社会やいまを生きる人と向き合われていると感じます。橋本さんは、いまの社会について、どう思いますか?



橋本:率直に言って、しんどいです。排外主義が広まっているし、セクシュアルマイノリティの方々の権利が脅かされ続けている。



でも、そういった実際に存在する問題について身近な人と話したとき、必ずしも意見が一致するわけではなくて。

「私と同じ考えの人なんて全然いないんじゃないか」と、孤独を感じてしまいがちなんですよね……。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



橋本:絶対的な正しさはないし、自分は間違っているんじゃないかと疑い続けることは必要だと思うんですけど、「自分はおかしいのではないか」と自己否定に入ってしまう危険性もあるじゃないですか。だからこそ、同じ考えを持っている人と出会うと「ここにも味方がいる!」と嬉しくなるんですよね。



似た考えをもつ人とつながりたいという思いもあって、書くことを通して自分の考えや思いを伝えているところもあります。対話を重ねていったら違う部分も出てくるかもしれないけど、一点だけでもすごく深くつながれるかもしれない。そのことを通して同じ考えをもつ人がいると思ってほしいし、行動する勇気につながったらより嬉しいですね。



―実際に書く行為を通して、「同じ」と思える人に届いた経験はありますか?



橋本:ありますあります! 私、結構エゴサするんですけど、私の文章を読んでくれた人の感想とかを見ると、考えや思いが届いていることを実感することも多くて。すごく嬉しいしモチベーションになっています。



以前は自分の心の健康のためにSNSを閉じていましたが、SNSって正しく使えば、匿名という安全性をもって同じ意見の人とつながることのできるツールなんですよね。ネット上の声も社会のリアルであって、決してバーチャルではないなと感じます。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



―逆に、「全然考えが違う」という人に届けたいと思ったことはあるのでしょうか?



橋本:うーん、それってすごく難しいことだと思っていて。すごく素直か柔軟な人でない限り、自分とは違う意見を受け入れることって難しいと思うんですよね。

もちろん、「変わってくれたらいいな」という祈りはいつも込めているけれども、届かない人はいるし。だからこそ誠実に、素直に発信し続けて、変わる可能性を模索したいと思っています。



それから、これから学びたいと思っている人にも届けたいと思っているんです。私が考えを発して、それが腑に落ちて、学んだり行動を起こしたりするきっかけになってくれたらすごく嬉しいなって。



ただ、対面している相手には、ちゃんと言います。作品に入る前は、脚本や企画書で気になる表現があったら、自分が何を懸念しているのか、思ったことは全部言っていますね。風紀委員長みたいに思われているかもしれないし、煙たがられているかもしれないですけど、責任があるから。通らないときもありますけど、いつもそこは100%やっています。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い



―書くことをはじめ、表現を通して橋本さんが実現したいことは何なのでしょうか?



橋本:本当にいっぱいあるんですよね……。



まずは、マイノリティの人たちの存在を可視化させていくこと。エンタメがすべきことは、見えないことにされてきた人たちがちゃんと存在する、健全な景色にしていくことだと思っているんです。



でもそれって、「誰がどう表現するか」がすごく大事だと思っていて。そもそも私がやっていいのかということもあるし、自分がやるのだったらちゃんと考え抜いたうえでやらなきゃいけないし。



だからこそ、表現を通して世を変えたいというよりは、苦しんでいる人たち、尊厳を奪われている人たちのためにならないことはしたくない、という思いのほうが強いんです。



もし「何も言わないでほしい」というのであれば絶対に黙るし。でも、「こういう表現があればいいのにな」と思っている人がいるのであれば表現していきたい。これからも考え続けていきたいです。



橋本愛が社会に向けて発信する理由。「知ることから逃げない」と決めた20代と、表現にかける思い

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