Text by ISO
Text by 生田綾
Text by 上村窓
実写版『ONE PIECE』や『シティーハンター』、『地面師たち』、『トークサバイバー』……。近ごろNetflixが相次いで話題のオリジナル作品を発表しているが、その多くを手がけているのが髙橋信一プロデューサーだ。
岩井俊二監督の制作プロダクションからキャリアをスタートし、日活で経験を積み、2020年にNetflixに入社したという髙橋は、どんな思考で企画を見極め、作品をつくりあげているのか。Netflixの制作環境や今後の展望についても、1時間におよぶインタビューでたっぷり語ってもらった。
—まずは簡単に、Netlixに入るまでのキャリアを教えていただけますか?
髙橋信一(以下、髙橋):26歳くらいのときに岩井俊二監督が主宰する制作プロダクション「ロックウェルアイズ」にアシスタントプロデューサー(AP)として入社したのが、映像業界でのキャリアの出発点でした。プロデューサーであってもできることは全部するというのが会社の特徴だったので、製作から宣伝・二次利用の運用まで映像ビジネスの根幹に関わることはそこで学ばせていただきましたね。
2012年に日活という映画会社に転職をして、そこからいまに至るまで完全にプロデューサーとして作品をつくってきてます。
Netflixに入社したのは2020年の6月です。自分のキャリアの特徴としては、映画だけでなくMVやCM、ドラマ、そして少しですがバラエティなど、面白そうなものはなんでもやるということにあると思います。
髙橋信一
—Netflixのどのような部分に惹かれて入社したんでしょうか?
髙橋:2018年に『ひとよ』(白石和彌監督、佐藤健主演)という映画を日活で製作していたんですが、撮影現場で、全スタッフ・全キャストが『全裸監督』の話をしていたんです。現場で全員その話をしているなんてちょっと異常事態だったんですよね。
僕も観ていたんですが、題材や映像クオリティなど、観たことがないチャレンジがされているという感覚もあって。そこから日本の映像業界におけるNetflixの位置付けが僕もみんなも変わったと思うんです。それで『ひとよ』の公開が終わったタイミングで新しい挑戦をしたいと思い、Netflixの門を叩きました。
—手がける作品がバラエティ豊かだと感じていましたが、キャリアを聞いて納得しました。
髙橋:昔から特殊な作品をつくってきたなというのは、正直自分でも思ってます(笑)。日活には本当に感謝をしていて、白石和彌監督との作品もたくさん製作できましたし、好きなミュージシャンのドキュメンタリーも手がけました。はたまた『おかあさんといっしょ』を劇場版として製作し、公開してみたり。正攻法ばかりではない企画をいろいろと応援していただいたのはありがたかったですね。
—これまでのキャリアでは製作委員会方式を経験されてきたと思いますが、Netflixでの作品づくりとの違いは感じますか?
髙橋:僕は日活でもわりと自由度は高く、ご理解いただきながら製作をしてきました。ただ、委員会形式だと企画や実際の撮影だけでなく、製作予算を集める労力もありますし、投資規模や制作費、公開規模などの変更がある場合は委員会メンバーに承認を得なくてはいけません。
一方、Netflixはアメリカが本社という考えかたもなく、各国のチームが都度ベストな判断をしていくというのが基本ルールなので、意思決定はかなり早いですね。
—Netflixでこれまでどのような作品に携わってきたのか教えてください。
髙橋:作品自体は多岐にわたり関わってきて、現在は映画・シリーズの企画の編成を担当していますが、ジャンルを選ばず手がけています。Netflix入社後、一番最初の作品が『浅草キッド』、今年配信の作品だと『シティーハンター』『地面師たち』『極悪女王』『トークサバイバー』を担当しています。特徴的なものだと、実写版『ONE PIECE』のプロデュース業務を日・米・韓のグローバルチームで行なっています。
—ホームラン級の作品ばかり……。プロデュースというのは具体的にどのような仕事をされているのでしょうか?
髙橋:作品や人によって少しずつ違いますが、基本は企画を選定して、それをどれだけ面白くできるかを客観的にかたちづくる責任者の立場なのかなと。Netflixにおいては、その企画がどれだけオーディエンスに届くか、あるいはNetfilxに加入してまで観たいと思ってもらえるかを考え、それが本当に新しい挑戦で驚いてもらえるかをつねづね考えるポジションですね。そのために重要なのは、その新しい挑戦に挑んでもらうクリエイターやキャストを誰にお願いするかを考えることは最も重要な仕事かもしれません。日本のクリエイターの皆さんの力無くしては成立しない仕事です。
—誰に委ねるか、というのはどのように決めていくのでしょうか?
髙橋:たとえば『極悪女王』に関しては、僕が白石監督と過去に作品づくりをしてきたなかで僭越ですが白石監督の作家性に加え、彼のプロレス愛を知っていたので直感的にオファーさせていただきました。
開発中の企画については、いろんなクリエイターとお会いして、その企画への興味や新しい挑戦へのチャレンジの意欲など、目指している方向が合う方にラブコールを送ることが多いです。
『Netflix映画『シティーハンター』(Netflixにて独占配信中)
—技術スタッフに関しては監督の希望に沿うことが多いんですか?
髙橋:半々ですね。監督からの希望を最大限叶えたいとは思いつつ、我々から「こういうチャレンジをしてみませんか?」と提案することも多いです。
たとえば『シティーハンター』のカラーグレーディング(編集部注:映像の色彩やトーンを調整し、シーンの雰囲気をつくる工程のこと)がそうですね。僕自身が韓国のDexter Studiosというアジアでトップレベルの会社にグレーディングをお願いしてみたいという思いがあり、監督やスタッフのみなさんに提案させていただきました。初めての挑戦でしたが、素晴らしい結果になったと思いますよ。
髙橋:最近では、『ゴジラ-1.0』なども手がけたARTONE FILMという気鋭のカラーグレーディングスタジオが、僕たちの作品を多く手がけてくれています。ARTONE FILMは毎回熱い志を持って、新しいアプローチや視点で挑んでくれていると思いますし、技術力も素晴らしく、韓国のDexuter Studiosとも違う強みがあると思っています。ですので、僕も積極的に監督に提案するようにしています。実際提案した監督やカメラマンからも、このクオリティになるならぜひ一緒にやってみたいと言っていただくことが多いです。
僭越ですが監督やクリエイターがNetflixと仕事をする際には、やはり新しい挑戦をしてほしいと思っていて。そこでみなさんが新しい出会いや技術や表現の幅の広がりを感じてくれると我々としても嬉しいですよね。
—『シティーハンター』『浅草キッド』『幽☆遊☆白書』『地面師たち』『極悪女王』など、懐かしい題材や雰囲気を今風にブラッシュアップした作品がどことなく多い気がしますが、それは意識しているのでしょうか?
髙橋:たしかに……とは思いますが、あまり意識はしていないですね。それらの作品をつくるなかで共通して目指したことは、物語のなかに内包されている「驚くような世界観や映像表現・主人公たちの葛藤や成長の物語」をいかに魅力的に見せられるかということだったと思います。
—『地面師たち』は大根仁監督が企画を持ち込んだと先日のインタビューでお話されていましたよね。クリエイターからの持ち込みは多いんですか?
髙橋:ラインナップに並ぶ企画でいうと半分ぐらいが持ち込みで、半分がNetflixのプロデューサーたちが考えた企画ですね。Netflixオーディエンス内外の人々が何を求めているのかは、僕たちが一番わかっていなければいけないので、社内の人間もしっかり企画を考えるようにしています。そしてその企画をクリエイターの皆さんに「挑戦してみたい!」と思っていただけるように説明することも我々プロデューサーの重要な役割です。
Netflixシリーズ『地面師たち』(Netflixにて独占配信中)©新庄耕/集英社
—担当作品のなかでも『トークサバイバー』は異質ですよね。
髙橋:僕が佐久間(宣行)さんの作品の大ファンで、いつか一緒に仕事をしたいとは以前から思っていていました。私が入社したタイミングでNetflixがバラエティもやっていこうという環境になっていたので、佐久間さんの才能を信じて一緒にやれば新しいものができるのではないかと思い、フリーになられた直後の佐久間さんに声をかけさせていただきました。最初に5つくらい企画をいただいて、そのなかにあった『トークサバイバー』を「ぜひやりましょう」と進めていきました。ドラマのような物語とエピソードトークのバランスが思わず一気見してしまうバラエティとしてNetflixらしい企画になると思ったのです。
—髙橋さんはヒット作を連発していますが、その秘訣はあるんでしょうか?
髙橋:ひとえにクリエイターの皆さんの力のおかげですし、ヒットの秘訣は僕も知りたいですよ(笑)。でも、やはり観たことのない物語や映像表現、アプローチがNetflix作品を評価していただく一番大きなポイントになっているとは思います。
たとえば『サンクチュアリ -聖域-』の相撲の取組の表現は、通常の相撲中継では味わえない映像でしたよね。『地面師たち』では圧倒的な物語展開、『極悪女王』も映像やアクションや知らざるキャラクター表現など、かなり挑戦をしていますし。クリエイターやスタッフ・俳優の方々にとっても、観客の皆さんにとっても、その挑戦を魅力に感じていただき、Netflixで作品をつくろう、作品を観よう、と思っていただけることが一番の秘訣なのかもしれません。
Netflixにいるプロデューサーは全員個性が違いますが、僕はゼロから1を生み出すプロデューサーではないんです。でも1を見つけて10や100にできるかもしれないと考えるプロデューサーではありたいと思っていて。
—もちろんボツになる企画もたくさんあると思うのですが、採用の基準はどういったものなんでしょう?
髙橋:シンプルに面白そうかどうかですね(笑)。最近つくられていないけど需要がありそうなジャンルを掘り起こしたり、『極悪女王』や『サンクチュアリ -聖域-』に代表されるように、この企画の映像表現はすごいものになりそうと思えるかは重要だと思います。
「Netflixで観られそう」や「このジャンルは好かれそう」という基準も当然ありますが、それだけだと過去の作品の縮小再生産のような企画ばかりになるので、「新規性や驚き」と行った面は重要視するようにしています。
—ほかのドラマや映画との大きな違いが、世界中が視聴者ターゲットであるということですよね。作品をつくるうえで、日本の視聴者はもちろん、海外の視聴者をもターゲットとするために意識していることなどありますか?
髙橋:企画を選定するなかでグローバルを意識することはあまりなく、まずは日本のお客様にどれだけ観ていただけるのかを突き詰めています。
ただ、大根さんが「地面師」という題材に惹かれたように、半径100メートルで起こる身近な題材が人間の根源的なテーマに結びついていることもあるので、それを突き詰めていけば自然とグローバルに受け入れられるテーマに近付くのかなとも思っています。それは他国のNetflixも同様ですね。
—直近のニュースリリースによればNetflix全体の視聴数のうち1/3が非英語作品だそうですね。『シティーハンター』が世界で1,600万ビュー(総視聴時間を作品の時間で割った値)を記録したとか。
髙橋:鈴木亮平さんもエジプト旅行に向かう機内で「『シティーハンター』を観たよ」と声をかけられたそうで。
—やはり日本の優れたクリエイターやキャストを海外に紹介することもNetflixは意図しているのでしょうか。
髙橋:「意図」ということではないのですが……ただ、俳優やスタッフ含む日本のクリエイターの才能は世界でもトップレベルだと思うので、Netflixというプラットフォームが日本の才能にとって世界に出ていく窓になれば嬉しいですよね。これまでは、日本の映像産業の商慣習や言葉の壁で、なかなか世界に広がりづらい状況が続いていたと思うので。
Netflixのプラットフォームを通じて日本の作品が世界に羽ばたいていくのはもちろん、Netflixは各国にSNSなどのオウンドメディアもあるので、そういった特性を活かしながら日本の作品やクリエイターの認知が上がる助力になれば良いなとは考えています。
Netflixシリーズ『地面師たち』(Netflixにて独占配信中)©新庄耕/集英社
—『地面師たち』で大根監督にインタビューをした際、人道的な撮影スケジュールとお話されていましたが、通常製作時間はおおよそどれくらいなのでしょうか?
髙橋:作品ごとに適正な撮影期間を求めるようにしているので、当然一概には言えないのですが……直感的に申し上げると4か月~6か月ぐらいがドラマシリーズにおいては多いかもしれません。
僕が入社する前から、Netflixは1日の撮影時間の上限を12時間に決めたり、撮影をしない日を必ず週1回いれたりしていて。そのためほかの現場と比べて撮影期間はどうしても伸びてしまいますが、それは業界全体を底上げしていくために必要なコストだと思っています。
—Netflixが日本ではじめて『彼女』で導入したインティマシーコーディネーターがいまやあらゆる作品に参加したり、業界全体にポジティブな影響を与えていると感じていたのですが、やはり意識していたんですね。
髙橋:日本の映像業界に良くなってほしいと考えているのは業界のみなさんも同じなんですよね。ただ、そのなかでNetflixはグローバルカンパニーならではの視点で「日本の製作現場のために、こんなことができるんじゃないか」という提案ができている部分があるのではないでしょうか。
インティマシーコーディネーターや、17歳以下の未成年の撮影参加者(演者)へのケアをはじめ、現場ごとにどのようなサポートが適しているのかは日頃から考えていることですし、後学のため一緒に仕事をしたクリエイターに話を聞くこともつねにしています。俳優やスタッフの方が働きやすい環境を可能な限り提供することは、良い作品づくりのために必要なことですから。
Netflixシリーズ『ONE PIECE』(Netflixにて独占配信中)(C)尾田栄一郎/集英社
ー実写版『ONE PIECE』について、髙橋さんはこれまでメディアの取材などを受けていないと思いますが、どのような流れで携わることになったのでしょうか?
髙橋:日本の作品が海外で映像化される際には、仲介の方が映像化権のライツを預かる、もしくは購入して、海外の製作会社などに売り込んで成立するという流れが一般的です。ビジネス上の利点もありますが、ただそのなかで、クリエイターや原作サイドの意図や要望がこぼれ落ちることが多いんです。すなわち、作品のDNAが失われる、ということが起きかねない。
今回は原作サイドである尾田さん・集英社さんとNetflix・Tomorrow Studiosの両者のクリエイティブがかけ違わないように、USチームから「日本の窓口として誰か参加してもらえないか」とラブコールをもらい、僕が手を挙げたのがきっかけです。私だけでなく韓国チームのプロデューサーも参加をしています。
連載開始からリアルタイムで読み始めて、いまだに週刊連載で読んでいる漫画なので、その映像化に携われるなんて本当に嬉しいですよね。
—髙橋さんはどのようなかたちで製作に参加されているんでしょうか?
髙橋:本作においての僕の最大の役割は、作者である尾田栄一郎さんの意図や、原作のDNA、重要なポイントを明確にNetflixのUS Teamや制作スタジオに伝えていくこと。逆に制作チームの目標や実写化に対する思い、原作を翻案する際にはその意図やメリットなども丁寧に日本側に伝えることもしていきました。
ハリウッドと日本の漫画作品ではストーリーテリングの趣が異なるので、それを片側に合わせすぎると大事なDNAが失われてしまうと考えているんです。なので、それぞれのストーリーテリングの魅力やメリットを双方に説明してうまくすり合わせていく、ということを時間をかけて慎重にやっていきました。
—潤滑油兼、接着剤のような役割! なかなか難しい漫画実写化で、しっかりファンの期待に応えることができたのは丁寧なやりとりがあったからなんですね。
髙橋:根源的にはみんな『ONE PIECE』が好きだから実写化しようと考えているので、そこに立ち返ったことが良かったのだと思います。これを機に日本のIP作品が海外へと展開されていく機会が増えてくれればと思いますし、それがNetflixで多く実現してくれると嬉しいですよね。
—じつを言えば、私も観るまで大丈夫かなと感じていました。
髙橋:世界中で愛されている作品だからこそ、実写化において皆さんが不安を感じていたのは間違いないですよね。だから我々や尾田さんは、その不安をどう払拭できるのかをつねに考えていました。
—尾田さんは実写化にかなりのこだわりがあったとうかがっています。一部シーンは撮り直しをお願いしたとか。
髙橋:尾田さんはエグゼクティブプロデューサーのひとりでもあるので、作品を良くするため日々チェックをしてアドバイスをいただいていました。ただ僕らも言われるまま従うというわけではなく、そのなかで何ができるのかということを議論させていただいたり。おかげで両者にとって納得がいくものがつくれましたし、とても良い関係だったと思います。
—先日チョッパーの映像が少し解禁されていましたが、言える範囲で続編の状況を教えていただけたり……?
髙橋:撮影自体は非常に順調に進んでいます。チョッパーの情報が出たということで、なんとなくシーズン2で描かれるエピソードも察していただけると思いますが、それがどこまでいくのか……というのが今回の注目ポイントですね。麦わらの一味のキャストもシーズン1を経ての今回なので、お芝居の精度やアクションのクオリティもますます上がっていますし、その規模感なども含め、楽しみにしていただければと思います。
シーズン1の配信が始まったのは、ハリウッドのストライキなどさまざまな理由でどうしても俳優さんたちが宣伝できないタイミングだったんです。でも配信のタイミングでプライベートで日本に来ていたり、彼ら/彼女たちの『ONE PIECE』や実写化にかける愛情や思いはすごく強くて。シーズン2のとき、その思いがファンの方々に届いてくれるといいなと思っています。
—新キャラクターのキャスティングも絶妙ですし、本当に楽しみです。チョッパーがどんな仕上がりになるのかはまだ一抹の不安がありますが……(笑)。
髙橋:世に出るものは尾田さんがそれを認めて出してくれてるので、それを信じていただければ!
—先日、大根監督との5年独占契約が発表されました。ほかにもテレビ・映画プロデューサーの磯山晶さんや脚本家の坂元裕二さんなど、優秀なクリエイターの方々と5年契約をされていますが、そこにはどのような意図があるのでしょうか?
髙橋:契約する際に重視しているのは、長期的なチャレンジを一緒にしていきたいという目標が合っているかということ。「5年独占」と聞くと大きく聞こえるかもしれませんが、映像作品において1作品に2年かかることも多々あると考えると、決して長い時間ではないんです。
大根さんに関して言えば、Netflixの製作環境を気に入っていただいたこともあり、今回の契約のお話の前から新しい企画のキャッチボールを始めていたんです。新たなチャレンジをするためには長期的かつ密接に連携していかなければいけないので、今回の独占契約で開発を加速して進めていければと思っています。
大根さんにしかできない作品がありますし、『地面師たち』を経てその幅がさらに広げていこうと感じているので、Netflixでいろんな挑戦をしていただければ嬉しいですよね。
大根仁監督、Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデントの坂本和隆氏
—一方で、クリエイター育成などは行なわれているのでしょうか?
髙橋:大々的に育成をしているわけではないですが、たとえばNetflixの作品づくりを通じて、技術的な講習会をしませんかとお誘いをすることはあります。Netflixはリスペクトトレーニングを作品づくりに関わる方に受けていただいているんですが、リスペクトトレーニングとはどういうものなのか外部の方が受講できるものをVIPO(NPO法人映像産業振興機構)と協力して開催したり。それはかなりの数の方に参加していただけています。
—映像業界は過酷なイメージからか若手が減っているという話も聞きますが、Netflixでの働きかたを見て働きたいと考える人が増えると良いですよね。
髙橋:コロナ禍で全映像業界の製作が止まっていたときがありましたよね。そのときNetflixはフリーのスタッフに対する支援として「Netflix救済基金」を発表したんです。まだ入社前だった僕は「そんなことしてくれるの?」と衝撃を受けました。
髙橋:入社後もNetflixが持つ業界やスタッフたちに対する感謝はすごく感じています。やはり作品をつくり、提供するためにはスタッフの方々の力は絶対に必要ですから。その思いはNetflix全社に共通していると思います。そしてその姿勢を見て、映像業界に夢を抱いてくれる人が増えてくれると嬉しいですよね。
—言いづらいんですが、僕はNetflixが好きすぎるゆえにNetflixにはかなり厳しい目を向け、発言してきた人間でして……。
髙橋:もちろん知ってます! 発言、スクリーンショットしてますよ(笑)。
—うっ……。でも僭越ながら最近のNetflixは、作品だけでなく業界全体へのポジティブな影響も含めすごいと感嘆しています。髙橋さんが入社してから、変わったと感じることはありますか?
髙橋:映像業界やお客様が「Netflixだからできること」を以前にも増して期待していただいていることは感じています。ただそれはこれまでの『全裸監督』『今際の国アリス』『浅草キッド』『First Love 初恋』や『サンクチュアリ -聖域-』などを通しての積み重ねがあったからこそですし、その蓄積が『シティーハンター』『地面師たち』や『極悪女王』のヒットにもつながっていると思います。
毎回観客の皆さんの期待値を更新しているのであれば嬉しいですし、今後もみなさんの「次はどんな作品が出てくるんだろう」という期待に応えていきたいと思います。
—これからの期待作といえば『イクサガミ』ですね。
髙橋:『イクサガミ』は僕がこれまで手がけてきた製作規模感を大幅に更新しているのでお楽しみに。監督には藤井道人監督たち、岡田准一さんが主演に加えプロデューサーも兼任していますが、「時代劇をアップデートする」という目標を持って、アクションや時代劇性などものすごく研究をしたうえでいまだからこそできる新しいチャレンジをたくさんしてくれています。すごいですよ。
—楽しみです! 最後に、Netflixでの今後の計画や意気込みを教えていただけますか。
髙橋:クリエイターの皆さんあっての作品づくりですので、より多くの才能あふれるクリエイターの方々とシリーズ・映画・バラエティの垣根なく新しい挑戦を仕掛けられるように心がけたいです。そのうえで、『地面師たち』や『極悪女王』に驚いてくれたお客様に、「さらにこうきたか!」と思っていただけるような作品を来年以降も出していけると思います。
直近だと弊社のプロデューサーである岡野(真紀子)のアイデアから生まれた完全オリジナルの『さよならのつづき』(11月14日(木)よりNetflixにて独占配信)があったり、大ヒットをした恋愛リアリティショー『あいの里』シーズン2(11月5日(火)よりNetflixにて独占配信)が帰ってきたり。来年も『イクサガミ』だけでなく『新幹線大爆破』や『グラスハート』、映画『Romantics Anonymous(英題)原作の新作ロマンスシリーズなど多くの期待を良い意味で裏切り続けるラインナップが待っていますのでぜひ期待していただければと思います!