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Text by 生田綾
Text by 佐藤麻優子



没頭するような趣味や特技はなく、親しい間柄の友人はおらず、夜は毎日、動画配信サービスを見ながら肉と野菜を炒めたものとパックご飯を食べている。10年間、そんな波風のたたない生活を送り続ける45歳の女性を主人公にした作家・金原ひとみさんの小説『ナチュラルボーンチキン』が10月に刊行された。



「仕事、動画、ご飯」という徹底したルーティンを繰り返す主人公の浜野文乃(はまの あやの)。彼女の日常は、同じ出版社に勤める破天荒な20代の同僚・平木直理(ひらき なおり)と出会うことで突然変わっていく。ホストクラブに通い、スケボーで通勤し、刈り上げのヘアスタイル―。真逆の人生を送る平木との出会いをとおして、浜野は「封印」していた過去の自分、本当の自分と出会い直し、向き合っていく。



人と人がつながりあい、変化していく姿を鮮やかに描いた本作の発売にあわせて、金原ひとみさんと、以前から交流があったというDIVAのゆっきゅんさんの対談が実現。大人の友情、恋愛、お互いの性格や生きかたについて、たっぷり語り合ってもらった。



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」

金原ひとみ:1983年東京都生まれ。2004年にデビュー作『蛇にピアス』で芥川賞を受賞。著書に『AMEBIC』『マザーズ』『アンソーシャルディスタンス』『ミーツ・ザ・ワールド』『腹を空かせた勇者ども』等。



『ナチュラルボーンチキン』は、45歳になり、「中年」に差しかかった女性の生々しい感情が描かれている。20歳でデビューしてから20年が経ち、自らも40代になった金原さん。「この物語は、中年版『君たちはどう生きるか』です」と表現する。



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」

『ナチュラルボーンチキン』(金原ひとみ著 / 河出書房新社)あらすじ:毎日同じ時間に出勤退勤し、同じようなご飯とサブスク動画を詰め込む「ルーティン人生」を送る、45歳一人暮らしの「兼松書房」労務課勤務・浜野文乃(はまのあやの)。ある日、上司の指示で、「捻挫で三週間の在宅勤務」を続ける編集者・平木直理(ひらきなおり)の自宅へ行くと、そこにはホストクラブの高額レシートの束や、シャンパングラスと生ハム、そして仕事用のiPadが転がっていて――。

趣味もなければ特技もなく、仕事への矜持もなく、パートナーや友達、仲のいい家族や親戚もペットもなく、四十五にして見事に何もない。
- 『ナチュラルボーンチキン』より
誰にも話していないし、誰に話すつもりもないし、そもそも話す相手もいないのだけれど、私は時々不安の発作のようなものに襲われる。(中略)恐らくそこには、私のこの「何もなさ」も関係しているのではないかとも思う。私は自分の何もなさに、震えているのかもしれない。
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金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」

ゆっきゅん:1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバー。2021年よりセルフプロデュースでのソロ活動「DIVA Project」を本格始動。でんぱ組.incやWEST.への作詞提供、コラム執筆や映画批評、TBS Podcast『Y2K新書』出演など、溢れるJ-POP歌姫愛と自由な審美眼で活躍の幅を広げている。2024年9月には2ndアルバム『生まれ変わらないあなたを』をリリースした。

一体何が起こったのだろう。私は自分が何に巻き込まれたのか、いや、自分が何に飛び込んだのかよく分からないまま、コインロッカーの中からバッグを取り出していた。目が大きく見開いたまま閉じられない。
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私は民で、息の根を止められた。そう思った。ボーカルは最初から最後までほらこいよとイキリ狂ったジャンキーのような煽りと歌唱とモッシュの指導しかせず、一言も普通の言葉は吐かなかった。
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金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



雑誌『anan』の連載企画での対談をきっかけに、初めて出会ったという金原さんとゆっきゅんさん。フィールドの違う場所で活躍し、年代も離れている二人は、お互いのことをどう感じているのだろう。

ゆっきゅんの音楽は、落下する私たちを包み込むクッションに、私たちの泣き声の華麗なカモフラージュに、歓喜に飛び跳ねる私たちより華やかな虹になって、どんな時も一緒に生きてくれる。
- ゆっきゅんさんが9月にリリースしたセカンドフルアルバム『生まれ変わらないあなたを』に寄せられた金原ひとみさんのコメントより(https://uma-tao.jp/)

金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



『ナチュラルボーンチキン』では、平木との出会いで人生が「ひらけた」浜野が、破天荒なライブパフォーマンスをするバンドマン、かさましまさかとの恋愛関係を築き上げていく様子も描かれる。人生に変化が訪れる恋愛関係に踏み出すことを、浜野はためらいながらも、やがて受け入れていく。



浜野とまさかの恋愛の話から、対談は金原さんとゆっきゅんさんの「人との付き合いかた」に広がっていった。



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」



金原ひとみ×ゆっきゅん対談。新しい出会いを受け入れていくこと「中年になると、だんだん自分の世界が定まってくる」

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