●完璧主義から脱し「うまく力を抜けるように」
DC映画『ザ・フラッシュ』(公開中)で実写吹き替えに初挑戦し、スーパーガールの声を演じた女優・橋本愛にインタビュー。さまざまな能力を持ったヒーローたちが集結する本作にちなみ、自身の武器を尋ねると「声を武器にしたい」と回答。
声を研究していくことで表現の幅が広がりつつあるという。そのほかにも、知識欲旺盛にさまざまなものを吸収している橋本に、自身の変化について語ってもらった。

本作の主人公は、エズラ・ミラー演じる地上最速ヒーロー・フラッシュ。スピードを武器に時間も世界も超えるフラッシュは、幼い頃に亡くした母と無実の罪を着せられた父を救うべく、タイムループして過去を改編。その行動によって現在に歪みが生じ、世界が滅亡の危機に直面することに。その中で、スーパーマンのいとこであるクリプトン星人の女性スーパーガール(カーラ)と出会う。


“最強ヒーロー”スーパーガールの日本版声優としてDC映画に初参戦した橋本は、本作で描かれる人を大切に思う気持ちに心を打たれたという。

「フラッシュは母親を助けたかっただけなのに、過去を変えたことで世界が変わってしまい、甚大な影響を及ぼすという恐ろしさを感じながらも、家族を愛することや、人を大切に思うことはとても温かいなと思いました。そして、人を大切に思うことの残酷な一面も同時に描かれていることがすごく面白いと思いました」

日本語吹き替え版予告で、力強い声を披露している橋本。スーパーガール役を務めたサッシャ・カジェの声色に寄せることを意識しつつ、通常の役作りと同じように、キャラクターの核の部分を自分の体の中に落とし込む作業を行ったという。

キャラクターの核については、「いとこであるスーパーマンのカル=エルを守るんだという使命感や責任感、そういった気持ちの原動力を突き詰めていきました」と語る。

アニメ作品で声優を務めた経験はあったものの、今回実写映画の吹き替えに初挑戦し、また新たな気づきがあったという。


「映像を見ながら役者さんが発しているかのように自分の声を乗せるだけでなく、自分の目の前に相手がいると想像し、普段演じている感覚に近いものを自分の中に作ると演じやすいという発見がありました」

主人公フラッシュは両親のために過去を変えようと奮闘する。橋本は変えたい過去はあるのだろうか?

「たくさんありますが、後悔はあまりしないほうなので、引きずっていることはないです。何か失敗したときも、『今の自分はここまでだったんだな』と自分の限界を知り、『できるようになるには何をしたらいいんだろう』と、プラスのパワーに切り替えるようにしています」

完璧主義から抜け出したこともあり、今の自分を受け入れられるようになったという。

「もともとは完璧主義でしたが、全力でやると力が入りすぎてうまくいかないこともあり、そういう経験を経て、うまく力を抜けるようになりましたし、完璧にできない自分を受け入れられるようになりました」

本作で描くヒーローも完璧ではないからこそ感情移入できる。

「ヒーローは完全無欠なイメージがありますが、この映画はヒーローの欠点や、弱点ともいえる人間らしさも描いています。人間も完璧な人はいませんが、尊敬できる人はたくさんいて、出会う人それぞれがヒーローだなと思っています」

声帯を意識することで出したい声が出せるように

さまざまな能力を持ったヒーローが登場する本作にちなみ、手に入れたい能力を尋ねると、橋本は「単純に、空飛べるのいいなと思いますし、傷をすぐ治せるのもいいなと。風邪をひいたり、喉の調子が悪いときに、すぐ治せたらとても助かります」とにっこり。


逆に自分の武器だと感じている点を尋ねると、「武器にしたいと思っているものは声です」と答え、「表現の引き出しとして、1つではなく、いろんな声を出せるようになりたいです」と語った。

スーパーガール役では、今まで使ったことのない新しい声に挑み、また一つ声の幅が広がった。

「今回は低いトーンで話すことに挑戦し、声帯をくっつけて話したり、離しながら話したりというコントロールが難しかったですが、以前よりできるようになりました。声帯をくっつけるのと離すのとで声が変わり、どちらが彼女の表現にふさわしいかシーンやセリフごとに考えて演じました」

出演作品の劇中歌を担当したり、歌番組で歌唱したり、歌を披露する機会も増えている橋本。歌と向き合う中で声帯のことを意識するようになったという。

「ボイストレーナーの先生と理想的な声についてディスカッションするなかで、『それについては声帯の問題だね』という話になることがあり、そこから歌だけでなく演技においても声帯を意識するようになりました」

声帯を意識することで出したい声が出せるように。


「理想的な声のイメージが頭の中にあるのに出せないというジレンマがずっとあったのですが、それがようやくできるようになったという瞬間が増えてきました」

今後挑戦したいことを尋ねると、「世界的な活動も視野に入れていきたい」と海外での活動に意欲を見せた。

「ある日突然そういうご縁が回ってきたときにできるだけのことをしたいと思い、水面下でできることはやっていきたいなと。語学の勉強もそうですし、世界の幅広い映画や音楽など、芸術的なことに関しても学んでいきたいと思います」

さまざまな活動をしていく中で世界に目を向けるようになったという。

「東京国際映画祭で海外の監督と対談をさせていただいたり、世界的なブランドのビューティーアンバサダーを務めさせていただいたり、自分を取り巻くものが外に開いていっているので、本当に開くときに向けて整えておきたいという気持ちです」

また、ここ数年で変わったこと、あるいは変えたことを尋ねると、「明らかに変わったのは、本を読むようになったことです」と回答。

『週刊文春』での自身の連載「私の読書日記」によって読む本の数が増え、視野の広がりを感じているそうで、「本から新しい刺激をもらえたり、自分が使う言葉の選択肢が増えてきたりという変化を感じています」と語る。

歴史と文化の勉強も「見え方が変わってくる」

また、「歴史と文化に興味を持つようになりました」という変化も。


「歴史は苦手分野であまり今まで触れてこなかったのですが、歴史や文化を知ることによって、今だけを断片的にしか見られなかったものが、見え方が全く変わってくるなと。歴史を知らないことで人を傷つけてしまうことがあったら怖いですし、今だけではなく遡って過去を知る事も大事だと感じるようになりました」

日本だけでなく世界の歴史にも興味を持っているとのことだが、「無理はせず、自分が出演する作品に関係している時代について調べたり、そこから少し寄り道をしたり」と楽しみながら知識を深めている。

そして、「まだまだ勉強し始めですが、意識が変わった感じはすごくあります。思ったことを言葉にするときに、この言葉はふさわしいか、この言葉で嘘はないかなど、突破しないといけない関門が増えました」と、より一つ一つの言葉を大切にするように。

2021年から2年連続で東京国際映画祭のアンバサダーを務め、映画の魅力や映画界の労働環境改善の大切さなどについて、しっかりと自身の思いを語っていた橋本。堂々とスピーチするためには、語る内容について自分が深く知っていなければならないと言い、そのためにも世の中のことを知りたいという知識欲が強まっているという。


「自分の話をする場合は、嘘もないし間違いもないので自信を持って話せますが、世界や社会について話すときは、世に出ている情報は正しいのか、そして何を自分がピックアップするべきか決断する必要があり、いろいろなことを学ぶことによってその決断の信憑性を高めている感じがしています」

未来を見据え、着実に自分を成長させている橋本。今後の演技はもちろん、橋本自身として発するメッセージにも引き続き注目していきたい。

■橋本愛
1996年1月12日生まれ、熊本県出身。2010年『Give and Go』で映画初出演初主演。同年映画『告白』で注目を集め、2013年映画『桐島、部活やめるってよ』などで数々の映画賞を受賞。同年NHK連続テレビ小説『あまちゃん』に出演し幅広い世代から認知された。近年の主な出演作は、ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)、『同期のサクラ』(19)、『青天を衝け』(21)、『家庭教師のトラコ』(22)、映画『ホリック xxxHOLiC』(22)、アニメーション映画『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』(22)など。